The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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ORIGINAL ARTICLE
Considerations of Pico-second and Nano-second Laser Treatments for Pigmented Lesions in Skin: Our 10 years’ Clinical Experience
Takafumi Ohshiro Katsumi SasakiToshio Ohshiro
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2024 Volume 45 Issue 1 Pages 59-65

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Abstract

2013年以降,ピコ秒レベルの照射を可能にした超短パルスレーザーが使用できるようになり,多色彫りや治療抵抗性の刺青に対しての安全性の高い有効な治療として報告され,その後皮膚良性色素性病変に対しての臨床使用も進んできた.ピコ秒という超短パルスでの標的へのレーザー照射により皮膚内の標的組織の瞬間的な加熱を引き起こし,従来のナノ秒レーザーよりも周囲への侵襲を少なく,標的組織の粉砕が可能になった.これらの生体作用は,これまでのパルスレーザーによる光熱的作用ではなく,光機械的作用と呼ばれている.当院では2013年12月より新型ピコ秒レーザーを導入し,当初刺青を中心に臨床使用を開始した.刺青治療の良好な臨床成績の経験から,その後は各種母斑,加齢性色素性疾患などの良性色素性病変などへ臨床使用を拡大してきた.今回,我々の10年間のピコ秒レーザーによる治療を振り返り,良性色素性病変に対してのナノ秒レーザー治療との比較および考察を行った.皮膚の色素性病変の治療は光機械的作用が主であるピコ秒レーザーにより新たな方向性が見い出されている.今後の臨床研究の展開に期待したい.

Translated Abstract

Since 2013, novel picosecond lasers (ps-lasers) have become available and the subsequent clinical trials have reported the safety and efficacy in treating multicolored tattoos and benign cutaneous pigmented lesions. It is considered that irradiation of targets with the ultra-short picosecond pulses can induce almost instantaneous heating of chromophores in the skin and greater fragmentation of the targets in an almost nonlinear fashion, with even less damage to adjacent structures than was achieved with the ns-domain lasers. These laser-tissue interaction caused by ps-laser irradiation is named photomechanical effect, not photothermal effect. Application of the ps-laser for the treatment of unwanted tattoos and epidermal or dermal benign pigmented lesions was started in authors’ clinic from December 2013. In this manuscript we present our consideration of ps-laser and ns-laser treatments for pigmented lesions in skin from our 10 years’ clinical experience. These novel laser devices, which have been developed based on the theory of ps-laser tissue interaction, might set the fashion and the option for the new approach to treat the cutaneous pigmented lesions.

1.  はじめに

皮膚領域におけるレーザー治療は,1980年代以降にレーザーによる光熱的作用による選択的組織破壊(選択的光熱融解ともいわれる)の概念1,2)が導入された結果,色素性病変や血管病変の標準的治療になった.

色素性病変の治療は,ナノ秒レベルの照射が可能であるQスイッチレーザーの導入により大きく変わり,太田母斑や異所性蒙古斑といった真皮メラノサイト―シスに対してはレーザー治療が第一選択になった3-7).また血管病変に対しては,ミリ秒レベルの照射により皮膚内の血管径に応じた選択的血管破壊が可能になり高い治療効果が得られるようになった.

2013年以降,ピコ秒レベルの照射を可能にした超短パルスレーザーの臨床使用が開始された.ピコ秒という短い照射時間のパルスレーザーは高いピークパワーを持つため,従来の光熱的作用ではない「光機械的作用」という別の生体反応を利用した治療が可能となった.その結果,臨床では従来消褪が難しかった多色彫りの刺青に対して有効性等が報告されてきた8-13)

当院では2013年にピコ秒アレキサンドライトレーザー(PicoSure®:Cynosure社製755 nm 550~750 psecのレーザー装置)をアジア・オセアニア地域で初めて導入,2017年より3波長発振可能なピコ秒Nd:YAGレーザー(enLIGHTenTM:Cutera社製1,064/532 nm 750 psec/2 ns,670 nm 660 psecのレーザー装置)を導入し,複数波長のピコ秒レーザーを臨床使用してきている.当初は,刺青を中心に臨床使用を開始したが,その後は良性色素性病変などへ臨床使用を適応拡大してきた.

本稿では,我々の経験に基づき,色素性病変に対するナノ秒レーザー治療とピコ秒レーザー治療の適応や有効性,副作用などについて,いわゆる「アザ」や「シミ(加齢性色素斑)」に分けて概説する.

2.  色素性病変に対するレーザー治療の考え方

2.1  ナノ秒レーザー

皮膚領域の良性色素性病変に対するレーザーや光治療の考え方の基本は,パルスレーザー照射により引き起こされる光熱的作用を利用したもので,標的組織のみにその作用を限局させる選択的組織破壊(選択的光熱融解ともいわれる)である1,2)

皮膚内の色素性病変の多くが,皮膚内の色素(メラニンないしメラニンを含有したメラノサイト(色素細胞))による病変である.それ故,メラニンに吸収される波長,メラニン含有組織のみに留まる照射時間(メラノソームの熱緩和時間以内),標的組織を破壊するための光エネルギーが必要とされる.

(波長)

メラニンは可視光から近赤外領域ではいずれの波長でも吸収される.通常はヘモグロビンの吸収波長を避けた波長が選択されるため,532 nm(Nd:YAGの第2高調波),694 nm(ルビー),755 nm(アレキサンドライト),1,064 nm(Nd:YAG)が用いられている.

(照射時間)

表皮の熱緩和時間は10ミリ秒以下であるが,メラノソームの熱緩和時間は50ナノ秒以下であるため,ナノ秒レベルの照射が可能なレーザー機器(以下,ナノ秒レーザーという)が使用される.レーザー光をナノ秒発振させる際にQスイッチ制御を行うため,ナノ秒レーザーのことをQスイッチレーザーないしQスイッチ付レーザーと称している.現在使用できるナノ秒レーザーの照射時間は発振波長毎に694 nm:20~25 nsec前後,755 nm:50 nsec前後,532/1,064 nm:5 nsec前後となっている.

(照射エネルギー)

照射エネルギーは照射後の副作用が最小でかつ,照射後の効果が最大となるエネルギーが最適である.色素性病変のナノ秒レーザー治療では一般的に照射直後のエンドポイント(生体反応の結果)として照射部が白変する(immediate whitening phenomenon: IWP)程度の照射エネルギー密度で照射することが推奨されている.

このレーザーの光熱的作用と類似した作用を期待して,Intense Pulse Light(IPL)を利用することも可能である.接触式皮膚冷却を用い,適切な波長フィルターを使用し,適合するパルス矩形波(照射時間)が得られる機器であればレーザー治療と類似した治療効果が得られる.

2.2  ピコ秒レーザー

一方,ピコ秒レーザーは当初は刺青色素の除去を目的に開発が進められてきたが,2013年に実際に臨床使用され,刺青治療への有用性10-13)の他,皮膚良性色素性病変への有用性が報告されてきている14-19)

ピコ秒レーザーの生体作用はナノ秒レーザーとは異なる.ナノ秒レベルよりも短いパルス照射がなされた場合,レーザーによる光熱作用が起こる前に,レーザー照射により標的物質の熱膨張が引き起こされ,その熱弾性過程により応力波が生じる.この時は発生した応力波により引き起こされる生体作用のこと光機械的作用と呼んでいる.ピコ秒レベルの超短時間のパルス照熱を行うと,エネルギーの拡散が無視できる程度にレーザーによる加熱が短時間で行われ,加熱された領域内を十分に短い時間で応力が伝わると効率よく応力波を発生できる.そのため標的物質をより少ない光エネルギーで破砕・粉砕させることができる.

刺青に対するピコ秒レーザー治療では,刺青色素をより効率よく粉砕可能になった.また超短パルス照射により刺青色素に対するレーザーの波長依存性が低くなる可能性が示唆され,多色の刺青に対する治療効果の向上が期待されていたが,実際には刺青色素に対しての波長依存性は相応に残っていたため,多色の刺青に対しては複数の波長のピコ秒レーザーが必要だった.

現在使用されている代表的なピコ秒レーザーには,Cynosure社製ピコ秒アレキサンドライトレーザーPicoSure®(755 nm, 550~750 ps: 532 nm, 450 ps),Syneron-Candela社製ピコ秒Nd:YAGレーザーPicoWayTM(1,064 nm, 450 ps: 532 nm, 375 ps: 785 nm, 300 ps),Cutera社製ピコ秒Nd:YAGレーザーenLIGHTenTM(1,064 nm, 750 ps: 532 nm, 750 ps: 670 nm, 660 ps),Quanta社製ピコ秒Nd:YAGレーザーDiscovery PICO(1,064 nm, 450 ps: 532 nm, 370 ps)などがある.どの機器もギガWレベルのピークパワーを持ち,10 Hz前後にて照射可能である.複数波長発振な可能なピコ秒レーザーは,主たる波長(多くはNd:YAGレーザー(1,064 nm))を波長変換させて第2,第3の波長を得ているため,第2,第3の波長のピークパワーや最大照射エネルギー密度は低くなる傾向がある.

3.  色素性病変に対するナノ秒レーザー治療とピコ秒レーザー治療の比較

当院では,2013年よりピコ秒アレキサンドライトレーザーPicoSure®(Cynosure社製)を,2017年にはピコ秒Nd:YAGレーザーenLIGHTenTM(Cutera社製)を導入した.

2013年の上市当時,ピコ秒レーザー照射は色素選択性が低く,一つの波長のみ(755 nm)で多色の刺青に対して治療が可能であるとコマーシャルされていた.当院にて臨床使用を進めるにつれ刺青色素に対する波長選択性は比較的残っている(一つの波長のみでは治療が不可能)ことが判明し,また同様の報告も散見されていた.そのため,その他の波長の必要性を考慮し,2機種目(1,064/532/670 nmが発振可能なピコ秒レーザー)を導入した.

既に本誌で報告14)しているように,我々の2013年12月から2017 年2月までのピコ秒アレキサンドライトレーザーによる各種色素性病変に対しての治療経験では,267症例784施術において術直後1週間以内の発赤,腫脹は全例に認めたが,1ヶ月以上継続した副作用(発赤,水泡形成,痂皮形成後の炎症後色素沈着)は22症例(8.2%),36施術(4.6%)のみに認められ,また3ヶ月以上にわたる副作用(炎症後色素沈着,色素脱失,瘢痕形成など)は認めず,副作用を少なく,安全に治療できることが確認できていた.

我々の多色刺青へのピコ秒レーザーの臨床使用の経験から,刺青治療においてナノ秒レーザーよりも刺青色素の褪色が早く,また治療後の炎症後色素沈着が早期に消失するという臨床経験を得たため,真皮内の他の色素性病変や表皮内の色素病変に対して副作用の少ないアプローチが可能であると推察し,臨床応用を拡大してきた.ピコ秒レーザーの有用性を活かしつつ,副作用を最小限に抑えることを目的に,各色素性病変への波長特性を考慮し照射エネルギー(照射時のエンドポイント)の設定を独自に行ってきた.

今回,いわゆる「アザ(刺青含む)」や「シミ(加齢性顔面色素病変など)」につき,治療時の生体作用の違いや有効性,副作用につき,ナノ秒レーザーとピコ秒レーザーの10年間の我々の治療経験の比較についてまとめた.

3.1  いわゆる「アザ」に対するナノ秒レーザー治療とピコ秒レーザー治療

いわゆる「アザ」としては,太田母斑,異所性蒙古斑,扁平母斑を取り上げた.我々の経験に基づき推奨度,治療効果について,Table 1にナノ秒レーザーの波長ごとの結果を,またTable 2にピコ秒レーザーの波長ごとの結果につきまとめた.

Table 1 

Efficacy and recommendations of nanosecond laser treatment for ‘Nevus and Tattoo’

Nevus of Ota Aberrant Mongolian spot Tattoo Nevus spilus
Nano-694
Nano- 755
Nano-532
Nano-1064 △~〇 ×
Table 2 

Efficacy and recommendations of picosecond laser treatment for ‘Nevus and Tattoo’

Nevus of Ota Aberrant Mongolian spot Tattoo Nevus spilus
Pico-755
Pico-1064 △~×
Pico-532
Pico-670

レーザーの種別表記は,ナノ秒レーザーの場合Nano,ピコ秒レーザーの場合Picoとし,その後にハイフンを入れ,波長(nm)を明記するようにした(例,ナノ秒ルビーレーザー:Nano-694,ピコ秒アレキサンドライトレーザー:Pico-755).またレーザーの波長の記載順番は臨床応用されてきた時期に応じて記載した.

また各疾患への治療効果および推奨度は,◎:有効かつ推奨する,〇:有効である,△:有効とは言えず,照射に注意が必要である,×:無効 とした.

(ナノ秒レーザー治療)

太田母斑や異所性蒙古斑の真皮メラノサイトーシスに対しては,ナノ秒レーザーが有効である.治療毎の脱色素斑や褪色の程度,エンドポイントの照射条件設定の難しさからNano-532,Nano-1064は有効性はあるものの推奨度を〇とした.照射時の注意点としては,照射のエンドポイント(照射直後の反応)は,Nano-694,755,532は表皮内メラニンへの反応と十分な褪色が得られるという点からIWPを一つの目安とすることにし,Nano-1064はIWPが起こりにくいため,内出血が起こる程度を一つの目安とした.術後経過としては,Nano-694,755,532では7~10日後に痂皮の脱落が起こり,その後3~6ヶ月程度の炎症後色素沈着(post inflammatory pigmentation:PIH)が生じるが,Nano-1064では痂皮の脱落はないものの,同程度の同様の期間のPIHを生じていた.複数回のナノ秒レーザー治療を必要とした場合,表皮メラニンへの影響により脱色素斑が起こりやすい.そのため治療回数を少なく治療効果を出しやすいNano-694を◎とした.

刺青に対しては,刺青の色調に応じて波長を使い分けなくてはならないため,全ての波長で〇とした.

扁平母斑に対しては,個々の症例によりレーザーの反応性が異なる.IWPを生じさせ痂皮形成による色素斑の褪色が可能なNano-694,755,532で△とした.

(ピコ秒レーザー治療)

太田母斑,異所性蒙古斑の真皮メラノサイトーシスに対しては有効であった.ピコ秒レーザー治療で注意すべきは,低い照射エネルギー密度で有効な効果を出せるという点で,エンドポイントをどのように設定するのかが重要であった.Pico-755,532,670ではIWPが起こるか起こらないかに反応を抑えること(我々はこの反応をimmediate slight-whitening phenomenon:ISWPと称している)を重要視している.またPico-1064ではIWPが生じないため,照射部に一致した内出血斑が見られる程度をエンドポイントにすることが重要だと思われた.ピコ秒レーザーでは術後の痂皮形成がない,もしくは痂皮形成を軽減することで,ナノ秒レーザーを同様の褪色効果を出しながら,PIHの期間を短くすることが可能であった.

刺青に対しては,刺青の色調に応じて波長を使い分けなくてはならないが,1回の照射による褪色の程度はナノ秒レーザーよりも高くなり,治療効果は向上した.

扁平母斑に対しては,個々の症例によって反応が異なるため,各波長のテスト照射後に治療効果を確認の上,治療を行うようにしている.そのため△とした.

3.2  いわゆる「シミ」に対するナノ秒レーザー治療をピコ秒レーザー治療

いわゆるシミとしては,老人性色素斑(以下,老人斑),雀卵斑,後天性両側性真皮メラノサイトーシス(Acquired bilateral dermal melanocytosis: ADM),肝斑,脂漏性角化症を挙げた.これらは臨床的にシミとして扱われるため,診断および治療効果判定が必要だと考えたからである.

我々の経験に基づき我々の考える推奨度,治療効果について,Table 3にナノ秒レーザーの波長ごとの結果を,またTable 4にピコ秒レーザーの波長ごとの結果につきまとめた.

Table 3 

Efficacy and recommendations of nanosecond laser treatment for ‘Aging related pigmentations’

Solar lentigines Freckles ADM Melasma Senile keratosis
Nano-694 ×
Nano- 755
Low fluence
Nano-532 ×
Nano-1064 × ×
Low fluence
×
Table 4 

Efficacy and recommendations of picosecond laser treatment for ‘Aging related pigmentations’

Solar
lentigines
Freckles ADM Melasma Senile
keratosis
Pico-755
High fluence

Low fluence

High fluence

Low fluence

High fluence

Low fluence

Low fluence
×
Pico-1064 △~×
Low fluence
△~×
High fluence

Low fluence
×
Pico-532
High fluence

High fluence

High fluence
× ×
Pico-670
High fluence

High fluence

High fluence

Low fluence
×

以下のレーザーの種別に関する表記や治療効果および推奨度は前述の「アザ」に関する表記と同様とした.

(ナノ秒レーザー治療)

老人斑,雀卵斑の表皮の色素性病変に対しては,メラニン吸収性の高い波長のNano-694,755,532は有効である.照射のエンドポイントはIWPが起こる程度が重要で,表皮剥脱が起こるような高いフルエンスでの照射は不適切である.照射後概ね1週間で痂皮が脱落し,3ヶ月程度のPIHを経て病変は褪色する.雀卵斑の場合,1回の照射で治療が完了することは難しく,複数回の治療を必要とすることが多い.照射後の痂皮形成の反応が強い場合には術後の炎症後発赤(post inflammatory erythema: PIE)が遷延化し,その結果PIHも長期化する傾向が高くなるので注意が必要である.

ADMに対しては,どの波長を用いても複数回の治療で褪色が得られるが,Nano-1064はメラニン選択性が低いため,照射回数が多くなりやすい.照射のエンドポイントはNano-694,755,532ではIWPが起こる最低限の照射エネルギー密度で照射することが重要である.

表皮肥厚を認める脂漏性角化症の場合,ナノ秒レーザー照射のみで治療することは難しく,複数回の治療で褪色させていくか,または組織蒸散型のレーザー(炭酸ガスレーザーやエルビウムヤグレーザー等)を併用する複合レーザー治療やミリ秒単位の照射時間のロングパルスレーザーが必要になることが多い.いずれにしてもナノ秒レーザー照射のみでは完治が難しい.

肝斑に対しての痂皮形成を伴うような高フルエンスでのナノ秒レーザー治療は禁忌であるが,臨床上は低フルエンスのナノ秒レーザー照射(Nano-755, 1064)を複数回行うことでは褪色効果が認められる(いわゆるレーザートーニング).本治療方法は照射エネルギー密度の設定や治療間隔など施術者により違いがあり施術には注意が必要である.また肝斑の増悪や類円形の脱色素斑の出現などが報告20)されている.ナノ秒レーザートーニングに関する概説は他稿に譲る.

(ピコ秒レーザー)

老人斑,雀卵斑に対してPico-755,532,670等を用いてIWPを起こすか起こさないかの照射エネルギー密度での照射(先のISWPにあたる)は有用だと考える.特にナノ秒レーザーで反応しにくい色調の薄い表皮色素性病変に対しては有用である.色調の薄い病変に対してはナノ秒レーザーでIWPを起こさせようとすると,より照射エネルギー密度を高く設定せざる得なく,PIEが強く起こる結果,PIHを惹起させやすくなるからである.ピコ秒レーザーを用いても老人斑や雀卵斑などの表皮病変に対してIWPを強く起こすような照射をすることはできるが,結果としてナノ秒レーザーと同じような臨床経過(痂皮形成後のPIHの期間が相応にできる)になるため臨床経過や効果に差がなくなり,逆に光機械的作用が強くなり水泡形成などの皮膚熱傷が強く起こり注意が必要になる.Pico-755,532,670を使用しISWPを生じる程度の高出力照射での治療では,痂皮形成も目立たなく,PIHの期間も短い治療が可能である.しかしこの照射方法では色素斑の色調や使用する波長の違いで1回の照射で褪色できないことも少なくない.そのため複数回の治療を前提とし徐々に褪色させるような治療計画を立てた方が良いと考えられた.

ADMに対しては,ISWPを生じる程度の高出力照射を複数回行うことで十分な褪色が得られる.このような照射エネルギー密度だとPIHの期間も最低限に抑えられるため,いわゆるダウンタイムも短く有用である.

表皮肥厚が見られる脂漏性角化症に対してはピコ秒レーザーの単独治療は無効であった.ナノ秒レーザーと同様に組織蒸散型のレーザーとの複合レーザー治療が望ましいと考える.

顔面の加齢性色素斑に対して,Pico-755,1064を用いた低フルエンス照射(いわゆるピコトーニング)により複数回の治療で徐々に褪色効果が認められる.この手技に関する詳細はナノ秒レーザーと同様に,施術者により様々な考え方があるため他稿に譲る.

4.  ナノ秒レーザー治療vsピコ秒レーザー治療 我々の考察

皮膚領域の色素性病変に対して,1990年代にQスイッチレーザー(いわゆるナノ秒レーザー)が臨床使用され,標準的治療として確立していった.この10年ピコ秒レーザーが臨床使用されるようになったものの,前項でまとめたように,現時点では従来のナノ秒レーザー治療に置き換えられる治療法ではないと考えている.

我々の色素性病変に対しての臨床経験(ナノ秒レーザー治療32年,ピコ秒レーザー治療10年)から得られた知見としては

・光熱的作用を利用したナノ秒レーザー治療は皮膚色素性病変に対する標準的治療である

・光機械的作用を利用したピコ秒レーザー治療は照射エネルギー密度を抑えた治療が可能であり,また生体作用の相違により,ナノ秒レーザー治療よりも優位な点が認められた

・真皮内色素性病変(太田母斑,異所性蒙古斑,多色刺青など)に対しては,ナノ秒レーザーとピコ秒レーザーの有効性(褪色効果)はほぼ同等である.しかしピコ秒レーザーの照射方法を工夫することで,ナノ秒レーザー治療に比較し,PIE,PIHの期間の短縮化や治療回数の減少が得られる

・加齢性表皮内色素性病変(老人斑,雀卵斑等)に対しては,ナノ秒レーザーが標準的治療である.ピコ秒レーザーは適切なエンドポイントの設定により副作用やダウンタイムの少ない治療が可能であり,また薄い老人斑に対して有効である

といった考察が得られた.

一方,レーザー機器の購入費用やメンテナンス費用の側面からみると,ナノ秒レーザーと比較し,ピコ秒レーザーは購入コストが3~4倍,ランニングコスト(保守管理料および消耗品コスト)が2倍程度かかることが予測される.この価格差を補うだけの利点がピコ秒レーザーにあるのかについては臨床使用される諸先生方の考え方によるが,現実的にコストと治療効果の側面から考えれば,一般的に普及させられる標準的な機器であるとは言えないと思われる.

現在のピコ秒レーザーは,まだサブナノ秒レベルの機器であり,真のピコ秒レーザーではない.100ピコ秒以下の照射時間を可能にした真のピコ秒レーザーが開発され,臨床使用されるにようになった場合,標的色素へのレーザー光の波長依存性が軽減され,また異なった色素性病変の治療概念や手技が誕生してくると思われるが,それまでにはもう少し時間がかかると思われる.

2024年の現時点では,ナノ秒レーザー,ピコ秒レーザーの各機器の臨床特性を考慮した場合,皮膚色素性病変に対する治療としては,標準的治療であるナノ秒レーザーに加え,ピコ秒レーザーの優位性を利用し,両機器を使い分けることが良いのではと考えている.

5.  おわりに

ピコ秒レーザーが臨床使用され10年が経過した.刺青治療の効果は飛躍的に向上したものの,良性色素性病変に対しての臨床応用は広くは普及していない.今回我々の10年の治療経験を基に考察を行ったが,レーザー治療毎の効果や副作用はすぐに判明するのはなく,症例集積と緻密に計画された臨床研究の中で判明してくるものである.

ナノ秒レーザー治療が臨床使用されたのが1990年代初頭であり,この30年で皮膚に対するレーザーによる治療は,レーザーによる光熱的作用を利用したナノ秒レーザー治療が標準的治療になった.またこの10年で光機械的作用を利用した新しい治療も利用できるようになってきた.東洋人のレーザー治療後にはPIHが起こりやすいという皮膚特性から考えると,ピコ秒レーザーはエポックメイキングな機器になりうると考え,臨床に取り組んできたが,まだ標準的治療になるまでの症例集積や臨床研究がなされているとは言い難い.

従来の概念から一歩踏み込んだ新しいこの技術は,更に臨床研究が進むことにより,新しい治療法になりうるであろう.レーザーと生体作用に熟知した施術者による適正な臨床使用の中での発展に期待する.

利益相反の開示

本稿執筆に対し他者との利益相反はございません.

文献
 
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