2024 Volume 45 Issue 2 Pages 136-145
光音響イメージングは次世代の診断モダリティとして期待されている.しかし,光源として固体レーザー(solid-state-laser: SSL)を用いたシステムは高価でサイズが大きく,検出プローブの操作性も悪く保護メガネを必要とする.そこで我々は光源としてLEDを採用し,4つの技術により信号対雑音比(signal-to-noise-ratio: SNR)がSSLの230万分の1だったものを同等レベルまで改善した.これらの技術は,a)高出力・高密度LEDアレイ化技術,b)巨大かつ超短パルスLED駆動回路技術,c)超音波プローブの周波数応答特性に最適な光パルス発生技術,d)超増幅による微弱信号のノイズ低減技術であり,これらによりLEDを用いた光音響イメージングを実現した.イメージングシステムとしては80 dBを超える信号増幅が必要で,また生体ファントムを使用したリアルタイムイメージングには4以上のSNRが必要だということを明らかにした.さらに,820 nmと940 nmの二波長のLEDを使用して臨床的に使用できるリアルタイム機能イメージングが実現できることを明らかにした.
Photoacoustic imaging is expected to be a next-generation diagnostic modality in medical imaging due to its ability to determine oxygen saturation of veins and blood in real-time. The current systems which use a solid-state-laser (SSL) are expensive, large in size, have probes with poor operability, and require the use of protective goggles due to the laser light. However, four technologies can be combined which improve the signal-to-noise-ratio (SNR) of the LED-based system from 1/2.3 million of the SSL to the equivalent level with SSL, to create a small, affordable and easy to-operate device that provides a real time functional imaging. The four technologies applied to the LED photoacoustic imaging system are; a) High power and high density LED array technology, b) Giant and ultra-short-pulse LED drive circuit technology, c) Optical pulse generation technology optimum for the frequency response characteristics of an Ultrasound Probe, d) Noise reduction technology for faint signals using ultra-amplification. In order to use LED-based photoacoustic imaging system, the ultra-amplification over 80 dB and SNR over 4 are required for real-time imaging when using a biological phantom. Based on the human in-vivo real-time functional imaging using a dual-wavelength of both 820 nm and 940 nm, the trial proved that the LED-based system can be used clinically.
光音響イメージングは,Fig.1Aに示すように光吸収体がパルス光を吸収して断熱膨張する際に発せられる音響波を検出する.医療用として光音響波の検出はアレイ型の超音波プローブで行われ,2次元の画像を得ることができる.またFig.1Bに示すように超音波画像(白黒表示)と光音響画像(赤)とを重ねて表示することにより精度の高い診断情報を提供することができる.光音響イメージングは次世代の診断モダリティとして期待されており,光増感物質,血液(ヘモグロビン),注射針・マーカーなどの人工物を検出し,また血液の酸素飽和度を知ることができる1-4).パルス光源として,一般的には固体レーザー(solid-state-laser: SSL)(Fig.1Cに例を示す,Nd:YAGレーザー + 光パラメトリック発振器(OPO))が使用されている.SSLを利用したシステムは高価で大規模であり,更には保護メガネが必要となるという欠点がある.一方測定対象がヒトの場合,体内に入った光は生体によって散乱されるので,レーザーの代わりにコヒーレンス性のないLED光源を使用することが可能と考えられる.しかし,LED光源ではSSLに比較して非常に小さな光パワーしか得られず,医療用に使えるリアルタイム画像化をどのようにして実現するかが大きな課題であった.そこで我々は光源としてLEDを採用するにあたり,4つの技術を開発し,当初SSLの230万分の1だった信号対雑音比(signal-to-noise-ratio: SNR)を同等レベルまで改善し,光源が安価で,保護メガネの不要なリアルタイムイメージング技術を実現した.
(A) Principal of Photoacoustic imaging, (B) Combination of Ultrasound image and Photoacoustic image, (C) Solid-state Laser(Laser, Optical Parametric Oscillator (OPO) and Power source). Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
Fig.2Aに採用したLEDチップを示す.推奨条件(電流1A)下では750 nmで当初0.35 Wであったが,高出力化の容易な850 nm波長のLEDの選択とLEDの2重積層構造化により,光出力は4倍の1.4 Wを実現した.更に,アルミ基板上に合計144個のLEDを4列36直列に密に配置して,50 mm × 7 mmの発光面積を得た.Fig.2Bにアレー端部拡大図,及びFig.2Cにアレー全体を示す.背面部には放熱フィンが取り付けられており,USPの両側に配置できる構造になっている.超音波プローブ(USP)の検出有効長は38 mmで,この範囲内には110個のLEDが配置されており,このアレイ化により,光出力はLEDチップの4 × 110 = 440倍となり,同時にSNRは440倍の改善が見込まれる.
LED Array Light Source. (A) An LED chip (1.0 mm square) (B) Partial view of LED array. (C) Internal structure of LED array. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
Fig.3Aに示すようにLEDは理想ダイオードと内部抵抗の等価回路と理解される.Fig.3Cに示すように,36個のLEDが直列に接続され,これに約400 Vの高電圧パルスが印加されることにより,ピーク値14 Aのパルス状巨大電流がLEDに流れ,高強度のパルス光が得られた5).また,この条件では,Fig.3Bのb)に示すように,LED駆動の動作位置では主に抵抗成分となるため,LEDダイオードの特性のばらつきや温度特性の影響を受けにくい.この駆動回路により14倍の電流を流すことが可能となりSNRは14倍の改善が期待できる.
LED Array and Drive Circuit. (A) Equivalent circuit of an LED, consisting of diode and internal resistor (R). (B) Forward current (Ampere) vs Forward voltage (Volt) characteristic of an LED. a) is mainly diode-operating point and b) is mainly resistance-operating point. (C) Circuit design of Current ON and OFF operation for LEDs. High voltage (300–400V) is applied to 36 series of LED chips. High speed ON and OFF operation is done by MOSFET. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
Fig.4AはSSLと750 nm LEDの光パルス波形を示している.Fig.4Bは,水中の金属針から得られる光音響信号を示す.SSL光の波高値は860 kW,一方LED光の波高値は0.54 kWで約1,600:1であるが,得られる光音響信号の波高値はSSLが1,000 mV,LEDが25 mVでその比はと40:1となる.金属針から発生する光音響波の検出強度は,光パルスのピーク値に比例するように見える.しかし実際はFig.4CのUSPの周波数特性からは10 MHz以上の周波数成分は検出が難しい.よってFig.5左図のようにLEDの光パルスによって発生する光音響信号は,10 MHzまでの成分しかないためにUSPでほとんどの成分が検出される.一方Fig.5右図に示すように,SSLの光パルスによって発生する光音響信号は,光パルス幅が3.5 nsであることを考慮すると約300 MHzまでの幅広い周波数成分を持つ.しかし,USPの周波数特性によって,10 MHzの成分まで検出できるが10 MHz~300 MHzの成分は検出できず無駄になる.この無駄により,SSLにおいては光エネルギーを光音響信号に変換する効率が,パルス幅100 nsのLED光源の1/40となり,相対的にLEDのSNRが40倍改善される.
(A, B) Light pulse and obtained photoacoustic signal intensity by metal needle in an arguer phantom. In SSL, peak power is 860 kW, pulse width is 3.5 ns, and obtained signal intensity is 1,000 mV. While in LED, peak power is 0.54 kW, pulse width is 100 ns, and obtained signal intensity is 25 mV. The ratio of peak power of SSL to LED is 1,600, but the ratio of obtained photoacoustic signal of SSL to LED is 40. (C) Frequency response of USP. Center frequency is 5 MHz. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
Estimated frequency components of photoacoustic signal (red line) in LED and SSL excitation. USP cannot be detected over 10 MHz (blue shaded area) .Then the efficiency ratio of SSL to LED became 1/40. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
超増幅によるアナログデジタルコンバーター(ADC)の量子化ノイズの極小化と,100回以上の平均化によるノイズ低減を確認した.
まず,増幅度と量子化雑音の関係を解析した.Fig.6Aに示す試作システムを用いて,光音響信号を100倍(40 dB)に増幅(Fig.6A中のA),更に外部回路により200倍に増幅して増幅度20,000倍(86 dB)を達成した(Fig.6A中のB).この条件下で,金属針から得られるAとBの2つの光音響信号波形をオシロスコープで観測した.光音響信号(A)はFig.6Bの左側に示されており,信号強度がADCの量子化ビット(40 μV)のオーダーであるため,量子化ノイズの影響を大きく受ける.光音響信号(B)はFig.6Bの右側に示されており,信号が数mVと大きいため量子化ノイズの影響をほとんど受けないと言える.
(A) Prototype system block diagram and external amplifier. Signal amplifier gain is 100. External amplifier gain is 200 and connected to Channel 32 of signal amplifier output to clarify the gain needed for photoacoustic signal generated by LED array light source excitation. (B) Waveform of photoacoustic signals at amplifier gain of 100 (A in A) and 20,000 (B in A). The amplifier gain of 20,000 must be needed when detecting metal needle. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
次に,増幅度100 dB及び52 dBの条件において,光音響信号がその平均回数に対してSNRがどのように変化するかを,金属針を用いて解析した6).Fig.7Aに示す光音響画像における金属針では,針からの信号はFig.7Bに示すSignal(S),信号位置の上部付近のバックグラウンドノイズはFig.7Cに示すNoise(N)になる.これら(S)と(N)から導出されるSNRが信号の平均回数によってどのように変化するかを解析した.Fig.7Dに示すように,増幅利得が100 dBの場合,平均回数が増加するにつれてSNRがほぼ平均回数の平方根に比例して向上する.これはノイズが1/(平均回数の平方根)に応じて小さくなるためであると理解される.青い点線は1/(平均回数の平方根)の理論値を示しており,実測値もこれに近い値となっている.一方,増幅利得52 dBでは,増幅利得100 dBに比べてSNR自体が相対的に低くなり,平均回数を大きくしてもSNRの改善度合いが少ない.赤い点線は1/(平均回数の平方根)の理論値を示しているが,この曲線から外れている.これは量子化ノイズの影響が大きいためだと思われる.増幅ゲイン100 dBの場合,100回平均するとノイズが1/10になり,結果としてSNRが10倍改善される.
(A) A metal needle was detected. (B) The positions of photoacoustic signal evaluated line and (C) background noise evaluated area when detecting metal needle. (D) SNR vs Averaging Count at total gain of 100 dB and 52 dB. At 100 dB, SNR is almost the same as a blue dotted line that is fitted to root mean square of Averaging Count. However, at 52 dB, SNR is less than that at 100 dB and is not the same as another red dotted line fitted to root mean square of Averaging Count. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
SSLとLEDチップのピークパワーはそれぞれ860 kWと0.35 Wで,当初235万倍の開きがあった.光音響信号はほぼピークパワーに比例して発生するため,SNRはSSL:LED=235万:1と予想された.Fig.8Aに示すように,高出力高密度LEDアレイと巨大かつ超短パルス電流駆動によりLEDでの光音響出力が6,160倍に増加し,SNRはSSL:LED=400:1になった.更にFig.8Bに示すようにUSPの周波数応答特性に最適な光パルスを設定することにより,LEDのSNRはSSLに比べて40倍に向上し,SNRはSSL:LED=10:1に改善した.更にはFig.8Cに示すように光音響信号の超増幅下においてLEDで100回平均化を実行した場合,そのノイズはSSLと比較して相対的に1/10になり,LEDのSNRは最終的にSSLと同等に達した.
Summary of achieving the same SNR as SSL. (A) Peak power of SSL is 860 kW and that of LED is 0.35 W. Peak power of LED was increased by ① LED array, ② High current drive, and ③ Double stack LED to 2.15 kW. The contributions of increasing power are 110×, 14×, and 4× respectively. (B) Detection loss of SSL makes conversion efficiency of peak power to signal intensity by 1/40 time. Signal intensity ratio of SSL to LED becomes 10:1. (C) Noise when using LED was decreased to 1/10 by averaging 100 times. Then SNRs (a.u.) of SSL and LED are the same. (D) Developed LED-based Photoacoustic Imaging System. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
その結果,Fig.8Dに示す世界で初めてのLEDを用いた光音響イメージングシステムの開発が可能になった.
2.6 得られたLEDアレイの性能LEDアレイ光源の性能は以下の通りであり,光音響イメージングに適していると言える.
(1)ピーク出力2.15 kW
LED波長選択(850 nm)と2重積層構造を採用したLEDを使用し,高密度のアレイ化(×440)と巨大パルス電流駆動(×14)により,750 nm LEDチップよりもトータルで6,160倍高い2.15 kWのパルス光が得られた.
(2)光パルス幅と波形の安定性
30 ns~150 nsのパルス幅範囲で,SSLと比較して長時間にわたって安定したパルス波形(Fig.9A)が得られた.
Performance of LED array. (A) Waveform of LED light power output at 30 ns, 70 ns and 110 ns. (B) Optical power stability of LED array light source. Pulse duration is 70 ns and pulse repetition rate is 1 kHz. (C) Life time test of LED array light source in pulse repetition rate of 1 kHz and 4 kHz. (D) Calculated conversion efficiency from electric power input to light output is 6.25%. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
(3)光パワーの安定性
ピーク値は安定しており,SSLのピーク値変動が10%前後であるのに対して,LEDでは0.3%未満と小さく,画像間の計算を用いる多波長光音響イメージングには十分な性能を持つ(Fig.9B)7).
(4)寿命
診断機器を仮定して1日30分のパルス発光を想定した場合,パルス繰り返し周波数1 kHz(100回平均)の条件で,一般の医療機器で期待される6年以上の寿命を達成している.更に高負荷の4 kHzでも問題ない(Fig.9C).
(5)電力入力から光出力までの効率
入力電力から光出力への変換効率は6.25%であり,一般的なSSLの0.1%以下と比較して高効率であるため,装置の小型化,低消費電力化が可能である.(Fig.9D)
生体ファントム(牛血液,ヒトの指の血管)を用いてシステムのSNRを評価し,リアルタイムイメージングに必要な増幅率とSNR値を明らかにした.
まず,生体ファントムとして牛血液を用いたSNR評価を行った.Fig.10Aに示すように,ウシ血液を微量試験管に詰めて,400 μJ/パルスの光を照射してUSPの約20 mm下で光音響信号を検出した.Fig.10Bの微小試験管の円形断面図に示すように,円形の光吸収体である血液からは①~⑧の全方向に音波が発生するが,①の上部にあるUSPの検出方向が下方になることからUSPでは①と⑤の信号のみが検出される.また,⑤の信号についてはUSPに到達する前に微量試験管内部で減衰するため,Fig.10Cに示すように①の信号(図中赤色の大きな点で模擬的に図示)は⑤の信号(図中黄色の小さい点で模擬的に図示)に比べて相対的に強くなる.Fig.10Dは光音響信号の2次元画像であるが,ここに見られるように①の信号のみが白い点像として認識されている.Fig.10Dに示すようにイメージングシステム内の画像信号において,①からの信号を信号(S),信号のすぐ隣の領域の分散をノイズ(N)と定義する.USPで検出された信号は,イメージングシステム内で増幅されてアナログデジタル変換(ADC)される.この場合の増幅ゲインを40 dBから100 dBまで10 dBステップで変化させ,SNR(Fig.10E)と①の点像(Fig.10F)を評価した.その結果,Fig.10Fからわかるように増幅ゲインが70 dBを超えると点像が安定することがわかった.また,Fig.10EからわかるようにこのときのSNRは4.01であった.
(A) Bovine blood in micro test tube is scanned in the direction of red line. (B) The signal is detected in the directions of ① and ⑤. (C, D) signal from ① is a main signal and is displayed as a point image. (D) The signal (S) is measured as a point image and noise (N) evaluated area is set near the point image. (E, F) Changing amplifier gain from 40 dB to 100 dB in 10 dB steps, SNRs and point images are evaluated. The point image is stable over the gain of 70 dB and SNR is 4.01 there. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
次に,生体ファントムとしてヒトの指の血管を用いて同様のSNR評価を行った.Fig.11Aに示すように,人間の指をUSPの約15 mm下で赤線方向に走査して,光音響画像を取得した.イメージングシステムにおいてFig.11Bに示すように,検出された血管(赤色)が超音波診断画像(白黒)とともに表示される.Fig.11Cは光音響信号のみを白黒で表示したものであるが,血管の位置の信号をFig.11Cに示す信号(S)とし,この信号のすぐ上の領域の分散をノイズ(N)として定義して評価に使用した.SNRおよびFig.11Dに示される領域の血管画像を,イメージングシステムの増幅ゲインを40 dBから100 dBまで10 dBステップで変更することによって評価した.その結果をFig.11EおよびFig.11Fに示す.その結果,増幅ゲインが80 dBを超えると血管像が安定することがわかった.このときのSNRは4.43であった.
(A) Human fingers were scanned in the direction of red line. (B) The signals from blood were detected and are displayed together with ultrasonic image. (C) The signal (S) was measured at blood vessel of yellow line and noise (N) evaluated area is upper near the blood vessel. (D) Image quality evaluated area is shown. (E, F) Changing amplifier gain from 40 dB to 100 dB in 10 dB steps, SNRs and blood vessels images were evaluated. The blood vessels image is stable over the gain of 80 dB and SNR is 4.43 there. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
以上2件の結果から,リアルタイムイメージングには80 dB以上の超増幅とSNR4以上が必要であることが明らかになった.
SSLでは困難であるが,LEDでは画像間の演算ができる程度に光出力が安定であり,この特長を生かして2波長で取った画像をリアルタイムに演算して,リンパ管の機能イメージングができることを明らかにした.Fig.12Aに示すように,ICGの吸収波長特性が,810~820 nm付近で吸収のピークになり,900 nmを超えるとほとんど吸収が無くなることに着目して,2波長として820 nmと940 nmを選択し,この2波長を一つのアレーで出射可能なコンビネーションLED光源を開発した.このLEDは,Fig.12Bに示すように,LEDアレイの4列のLED列の内1列目と3列目に820 nmのLEDを配置し,2列目と4列目に940 nmのLEDを配置されており,それぞれ820 nmで64 μJ/パルス,940 nmで57 μJ/パルスのエネルギーが得られる.それらを交互に16 msおきに点灯させることで,約30フレーム/秒で画像を得た.リンパ管の造影剤としてIndocyanine Green(ICG)を使用して,リンパ管のリアルタイム機能イメージングを実証した.まず,Fig.12Cに示すようにICG(0.32 μmol/L~3.2 mmol/L)とヒト静脈血について,Fig.13のように820 nm LEDで得られる光音響信号強度I820と940 nm LEDで得られる光音響信号強度I940を測定し,そこからI940/I820比(Fig.13の赤の塗りつぶし部分の数値)が得られた.ICGsが3.2 μmol/Lから3.2 mmol/Lの範囲では,I940/I820の値は0.5以下であった.一方,ヒト静脈血ではI940/I820は1.0以上になった.このことから,ICGをヒトリンパ管に注入し,I940/I820の値を0~1.0の間で画像化(例:カラーマッピング)することによって,ヒトの静脈血とICGを含むリンパ管を分離して描画できると推定できた.
(A) Absorptions of ICG and venous blood in 820 nm and 940 nm. (Hb,HbO2 and ICG absorption from Fig1in J Appl Physiol 102: 1235-1242, 2007. (B) LED array: First and third lines are for 820 nm LEDs. Second and fourth lines are for 940 nm LEDs. (C) Detected samples in micro test tubes: ICG from 0.32 μmol/L to 3.2 mmol/L and human venous blood. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
Detected photoacoustic signals. I940/I820 is less than 0.5 in ICG and greater than 1.0 in venous blood. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
次にFig.14Aに示すように,0.1 mLのICG(3.2 mmol/L)をヒトの足の第1水かきに皮下注射し,Fig.14Bに示すように,ICGがリンパ管に導入されたことを蛍光カメラで確認したうえで,水面から15 mm~20 mmしたにヒトの測定部を置き,イメージングシステムで画像化した.その際I940/I820の値が0の場合は青,1.0の場合は赤となるようにジェットマッピングを実行することによってFig.14Cの画像が得られ,皮膚表皮のメラニンや静脈血管と区別して,ICGを吸収したリンパ管をリアルタイムに表示できた.
(A) ICG of 0.1 ml was injected in the first web of human foot. (B) After injection of ICG, lymphatic vessel was detected by fluorescent imaging. (A) The USP and LED arrays are set at the place above the red round in (B). (C) Real-time image of human melanin, vein and lymphatic vessel are shown. Colors show the image of I940/I820 using Jet color mapping. Reprinted from SPIE Proceedings Vol. 11240, 112401T (2020).
4つの技術により,LED光音響イメージングのSNRをSSLベースのシステムと同等のSNRにすることで,光音響イメージングシステムを実現できた.このシステムを使用して,システムのSNRを評価および分析しました結果,リアルタイム光音響イメージングには80 dB以上の増幅ゲインと4以上のSNRが必要であることが判明した.更に,2波長LEDアレイとICGを用いた生体内リアルタイム機能イメージングを実証して,ヒトの静脈血からリンパ管を分離してイメージングすることに成功した.
SSLはハイパワーであるが,光パルスの繰り返し回数が10~20パルス/秒と少なく,また光出力のピーク値の変動が10%と大きく,これらの特性ではLEDに劣る.本稿で述べた4つの技術により光音響イメージング用の光源としてLEDが使用できるようになった.これによって,SSLでは難しい①多波長光音響イメージング(リンパ管の機能イメージング,血液の酸素飽和度イメージング),②小動物を含む生体の心臓鼓動速度に対応できる血管系の高速イメージングがLED光源を用いることにより可能になってきた.今後は,更に光パルスの高速化(例えば現状4 kHzを8倍の32 kHzへ)及びLEDチップの高パワー化により,高い深達度と更なる高速動態の観察が可能になって行くと期待される.
利益相反なし