2025 Volume 46 Issue 1 Pages 29-38
歯のホワイトニングは,歯質保存的で費用対効果の高い審美的な歯科治療で,その普及は目覚ましいものがある.わが国のオフィスホワイトニング材は,すべて光照射を必要としている.レーザー光の歯のホワイトニングへの応用に関する研究はなされているが,わが国では実用化には至っていない.ここでは,ホワイトニング治療の種類と特徴,および,術式に加えて,歯の変色・着色の原因,ホワイトニングのメカニズム,適用と禁忌などについて述べる.
Tooth bleaching (whitening) is a minimally invasive and cost-effective dental esthetic treatment that has become popular for enhancing people’s smiles. All in-office bleaching products registered in Japan require light irradiation. Although there are many papers about the application of laser for tooth bleaching, it has not been clinically used in Japan. This article introduces the characteristics and treatment procedures of various tooth bleaching, and it describes tooth staining and discoloration, the mechanism of tooth bleaching, and the indications and contraindications.
歯のホワイトニングは,広義には「歯を白くする治療」ということであり,歯のクリーニング,複合樹脂(コンポジットレジン)を直接歯に填める保存修復治療やセラミックの冠を被せる補綴治療なども含まれる(Table 1).狭義のホワイトニングは,過酸化物等を用いて化学的に歯の着色・変色を除去して歯を白くすることであり,当初は,「漂白(ブリーチ)」と称されていた.1980年代半ばに,「ホワイトニング」と呼ばれるようになり,特に,患者さんの間ではこの用語が急速に普及した.現在でも,学術用語集,歯科医師国家試験などでは「漂白(ブリーチ)」が使われている.また,セルフホワイトニングのように歯科医院以外で行われるものもホワイトニングと称しているので,最近ではこれと区別するために「医療ホワイトニング」という用語が使われてきている.従来,学術論文では,「漂白(ブリーチ,tooth bleaching)」という用語が使われてきていたが,最近では,「ホワイトニング(tooth whitening)」も目にするようになってきている.本稿では,主として「ホワイトニング」を用いることとする.
Various whitening methods
広義のホワイトニング | 歯のクリーニング | ||
保存修復治療 | |||
補綴治療 | |||
狭義のホワイトニング | 生活歯 | ホームホワイトニング | |
オフィスホワイトニング | |||
コンビネーションホワイトニング(デュアルホワイトニング) | |||
失活歯 | ウォーキングブリーチ | ||
インターナルブリーチ |
狭義のホワイトニング(医療ホワイトニング)には,生活歯を対象として診療室で施術されるオフィスホワイトニングと家庭でマウストレーを用いて行うホームホワイトニングがある.また,この二つを組み合わせたコンビネーションホワイトニング(デュアルホワイトニング)も行われている.なお,後述のように,わが国で承認されているオフィスホワイトニング材は,ホワイトニング効果の促進のために,光照射を行う.根管治療を行った失活歯では,髄腔内から処置を行うウォーキングブリーチやインターナルブリーチが行われるが,本稿では割愛する.
歯のエナメル質表面に色素が沈着した状態を歯の着色といい,色素が歯質の内部に浸透している状態を歯の変色という(Table 2, Fig.1).歯の着色の原因の代表的なものは,コーヒー,茶,タバコなどの嗜好品の摂取である(Fig.1a).また,色素性の含嗽剤なども歯の着色の原因となる.これらは,歯質の内部に浸透して変色の原因となることもある.歯の失活や金属の修復物・補綴物などから溶出した金属イオンで歯が変色することもある.また,幼少時にテトラサイクリン系の抗菌薬を服用すると,様々な程度の歯の変色が生じることがある.これを,テトラサイクリン変色歯と呼ぶ(Fig.1d).最近では,テトラサイクリング抗菌薬にこのような副作用があることが広く知られ,処方の際に留意されてきて,テトラサイクリン変色歯は減少しているようである.
Causes of tooth staining and discoloration
歯の着色・変色の原因 |
嗜好品(コーヒー,茶,タバコなど)の摂取 |
色素性含嗽剤の頻回使用 |
歯の変色の原因 |
金属製の修復物・補綴物からのイオンの溶出 |
遺伝性疾患 |
代謝異常疾患 |
加齢による黄変 |
歯の障害(歯髄壊死,歯髄内出血) |
歯の内部吸収(ピンクスポット) |
フッ素(フッ化物)の過剰摂取 |
テトラサイクリン系抗菌薬の幼少時の服用 |
Stained and discolored teeth
a: Teeth staining by tea
b: Tooth discoloration by necrosis of dental pulp tissue (upper right incisor)
c: Tooth discoloration by dental caries
d: Tooth discoloration by tetracycline
これらのうち,軽度の着色は歯のクリーニングで色調を回復できるが,クリーニングで除去できない着色や軽度の変色が歯のホワイトニングの適応となる.なお,金属イオンによる変色歯は,ホワイトニングの適用外である.以前は,通常よりも色調の暗い着色歯や変色歯を明るい色調にするためにホワイトニングが行われてきた.最近では,通常の色調の歯をより明るい色調にするためにホワイトニングを希望する患者も増えてきている.歯の色調を改善すること自体は美容目的ではあるものの,歯が白くなることによって,それを維持しようという意識が高まり,口腔ケアに対するモチベーションの向上が期待できる.
診療室でホワイトニング処置を行う術式がオフィスホワイトニングである.オフィスホワイトニングは,診療室で歯面にホワイトニング材を塗布して処置を行う(Fig.2).
Clinical procedure of in-office bleaching (Tion in-office, GC)
a: Gingival protection using a flowable composite resin
b: Application with Reactor
c: Application with bleaching gel
d: Light irradiation
わが国では,歯科用漂白剤として5製品が製造・販売の承認を受けている(Table 3, Fig.3).これらのほとんどは高濃度過酸化水素を主成分とし,他に増粘剤,pH調整剤などを添加して,操作性や効果の向上を図っている.いずれの材料も,ホワイトニング材を塗布後,光照射を行って,ホワイトニング作用を促進させる(Fig.2d).光照射の光源は,ほとんどがLED(Light Emitting Diode)であるが,過去にはハロゲン,メタルハライドなども用いられてきた.波長は,405~470 nmの紫~青色光であり,酸化チタン光触媒を含有するホワイトニング材では,低波長の可視光の使用が指示されている.なお,国外では,光照射を不要とする材料もある.1回の処置時間は10分程度で,得られた漂白効果を確認しつつ,この処置を,必要に応じて2,3回繰り返す.1日の処置で患者の満足する歯の白さが得られなかった場合,次回来院日に,再度,処置を行うこともある(Fig.4).ホワイトニング材中の高濃度の過酸化水素は軟組織に対して強い刺激があるので,術中にホワイトニング材が歯肉・頬粘膜・口唇・顔面等に付着しないように,細心の注意を払う必要がある.そのため,ホワイトニング材が歯肉に触れないように,ラバーダムや歯肉保護レジンなどを用いることが多い(Fig.2a).
In-office bleaching materials registered in Japan
製品名 | 主成分 | 用法 | 過酸化水素濃度 |
---|---|---|---|
松風ハイライト(松風) | 粉:金属塩 液:35%過酸化水素 |
粉・液を練和して,塗布 光照射 |
約35%(約23%) |
ピレーネ(ニッシン・モリタ) | 溶液1:過酸化水素(6%以下) 溶液2:二酸化チタン光触媒 |
2液を混合して,塗布 光照射 |
約3.5% |
ティオン オフィス(ジーシー) | リアクター:酸化チタン光触媒 シリンジA:35%過酸化水素 シリンジB:30%過酸化尿素 |
リアクターを塗布 2液を混合して塗布 光照射 |
約23% |
Opalescence Boost(ウルトラデントジャパン) | シリンジ 赤 シリンジ 透明 過酸化水素,グリセリン,水酸化カリウム,精製水 |
2液を混合して塗布 光照射 |
約23% |
ホワイトエッセンス ホワイトニング プロ(ホワイトエッセンス) | 液:35%過酸化水素水 ジェル:増粘剤,基剤,炭酸水素ナトリウム,精製水 |
2液を混合して塗布 光照射 |
約23% |
In-office bleaching materials registered in Japan
a: Shofu HiLite (Shofu)
b: Pirenees (Nisshin)
c: TiON in-office (GC)
d: Oppalessence Boost (Ultradent Japan)
e: Whiteessence Whitening Pro (Whiteessence)
A clinical case of in-office bleaching
a: Before bleaching
b: After bleaching on the day of first treatment
c: After bleaching on the day of a second treatment
患者が家でマウスピース状のマウストレーにホワイトニング材を入れて着用する術式がホームホワイトニングである.わが国では,ホームホワイトニング材は,医薬品含有歯科用歯面清掃補助材として,8種の製品が製造・販売の承認を受けている(販売が終了した2製品を除く)(Table 4).以前は,いずれの製品も,主成分は10%過酸化尿素であったが,近年,より高濃度の過酸化尿素(16%)や6%過酸化水素(17%過酸化尿素に相当)を主成分とするものも販売されている.また,オパールエッセンスGo(Ultradent Japan)を除くすべての製品は,ホワイトニング材とトレーを製作するためのトレーシートから構成されている(Fig.5).印象採得を行って得られる石膏模型に酢酸ビニルまたはポレオレフィン製のトレーシートを加熱・軟化し,圧接・吸引して製作したカスタムトレーを用いる(Fig.6a~d).このカスタムトレーに患者が家でホワイトニング材を入れ,トレーを装着して処置を行う(Fig.6e, f).一方,オパールエッセンスGoは,既成トレー(ユニバーサルトレー)にあらかじめホワイトニング材が充填してあり,トレーの製作が不要である(Fig.7).装着時間は,10%過酸化尿素を主成分とするものは,最大2時間,最長2週間の処置であるが,高濃度のものは最大60~90分,最長10~14日間となっている.処置後に,患者が漂白効果が不十分と感じた場合,さらに,処置を延長することもある(Fig.8).アンジェラスホーム,アンジェラスホーム16%(いずれも,アンジェラス ジャパン)には,硝酸カリウムとフッ化ナトリウムが添加されている.添付文書には明記されてないが,硝酸カリウムとフッ化ナトリウムには,知覚過敏抑制効果があることが知られている.
At-home bleaching materials registered in Japan
製品名 | 成分 | トレーシート |
NITEホワイト エクセル(デンツプライ シロナ) | 10%過酸化尿素 | EVA* |
オパールエッセンス10%(ウルトラデント ジャパン) | 10%過酸化尿素 | EVA* |
ティオン ホーム プラチナ(ジーシー) | 10%過酸化尿素 | ポリオレフィン |
松風ハイライト ホーム(松風) | 10%過酸化尿素 | EVA* |
オパールエッセンスGo(ウルトラデント ジャパン) | 6%過酸化水素 | 既成トレー |
ホワイトエッセンス ホワイトニング ホーム10%(ホワイトエッセンス) | 10%過酸化尿素 | EVA* |
アンジェラス ホーム(アンジェラス ジャパン-ヨシダ) | 10%過酸化尿素 | EVA* |
アンジェラス ホーム16%(アンジェラス ジャパン-ヨシダ) | 16%過酸化尿素 | EVA* |
ティオン ホーム ウィズ(ジーシー) | 6%過酸化水素 | EVA* |
ホワイトエッセンス ホワイトニング ホーム17%(ホワイトエッセンス) | 17%過酸化尿素 | ** |
* EVA:エチレン酢酸ビニル共重合体
** 未公表
Composition of an at-home bleaching kit
TiON Home Platinum (GC). Tray sheets (upper left), Tray case (upper right), Bleaching agents (lower center).
Clinical procedure of at-home bleaching
a: Application with reservoir on a gypsum model.
b: A tray sheet is softened by heat, and then it is pressed to the model and vacuumed.
c: After cooling, it is trimmed using scissors or a knife.
d: A custom tray for bleaching after trimming.
e: Bleaching gel is placed in a custom tray.
f: The custom tray is applied.
At-home whitening material with ready-made type tray (Universal tray)
Oppaleessence Go (Ultradent Japan). They consist of an outer tray (green) and an inner tray (white), with bleaching gel filled in the inner tray.
A clinical case of at-home bleaching
a: Before bleaching
b: After bleaching
オフィスホワイトニング材中の過酸化水素は,水と酸素に分解するが,その際に各種のフリーラジカルを生成する(Fig.9).そのフリーラジカルが,歯の着色・変色の原因物質である有色の高分子を,無色透明の低分子の物質に分解することで漂白効果が得られると説明されている1).したがって,前述のように金属イオンによって変色した歯には漂白効果がない.
Free radicals from hydrogen peroxide
When hydrogen peroxide is reacted and separated into water and oxygen, various free radicals are produced. Under an alkalic condition, hydroxy radicals, which have high reactivity, are produced frequently. In an acidic condition, hydro per radicals, which have low reactivity, are mainly produced.
また,過酸化尿素CO (NH2)2 H2Oは,唾液中の水分などによって過酸化水素H2O2と尿素CO (NH2)2に容易に分解する.生成した過酸化水素が,オフィスワイトニングと同様に,水と酸素に分解する際に,フリーラジカルが生成し,漂白効果を発現する.10%過酸化尿素が全量分解すると約3.6%の過酸化水素になり,これはオキシフルとほぼ同程度の濃度である.また,オパールエッセンスGo,ティオン ホーム ウィズ(ジーシー)の主成分である6%過酸化水素は,約17%の過酸化尿素に相当する(Table 3).
オフィスホワイトニング材は,ホームホワイトニング材よりも高濃度の過酸化物を主成分とすることが多く,また,オフィスホワイトニングでは,触媒の添加や光照射などによって過酸化水素の分解反応を促進するため,オフィスホワイトニングの方がホームホワイトニングよりも処置時間は短い.
4.2 漂白効果に及ぼす因子上述のように,オフィスホワイトニング,ホームホワイトニングのいずれにおいても,ホワイトニング材の有効成分は,過酸化水素,過酸化尿素などの過酸化物であり,それらが分解することによって漂白効果が発現する.これらの過酸化物の分解反応の速度が速いほど,漂白効果は高くなる.
4.2.1 処置の時間,回数一般に,処置時間が長いほど,また,処置の回数が多いほど,ホワイトニングの効果は増すが,限度があり,また,個人差も大きい.したがって,ホワイトニング材の添付文書の指示を守りつつ,患者の希望とホワイトニングの効果を考慮して,歯科医師が,処置の時間,回数を決定することになる.
4.2.2 ホワイトニング材の濃度一般に,ホワイトニング材の濃度が高いほど,漂白効果は高い.しかしながら,高濃度の過酸化水素は粘膜に対して強い刺激性がある.したがって,高濃度の過酸化水素は,歯肉,口唇などの軟組織に付着しないように,取り扱いには注意を要する.
「歯科用漂白材等審査ガイドライン」2)における「別紙 歯科用漂白材等 技術評価ガイドライン」では,「患者使用漂白材では,毒劇物管理濃度を超えることはできない」とあり,「患者使用漂白材」はホームホワイトニング材を指す.6%を超える過酸化水素,および,17%を超える過酸化尿素は,毒物及び劇物取締法において,劇物に指定されている.したがって,わが国では,ホームホワイトニング材の濃度は,過酸化尿素17%以下,または,過酸化水素6%以下に制限されている.
4.2.3 光照射わが国のオフィスホワイトニング材ではいずれも,処置時に光照射を行うことになっている(Table 3).ホワイトニング用の光照射器は,少数歯ごとに光を照射する単歯用の光照射器と,多数歯に対して一括して光照射する,いわゆるアーチタイプの光照射器がある(Fig.10).現在では,ほとんどの照射器が,光源にLEDを用いている.アーチタイプの光照射器は,製造・販売の承認を得るために,歯科用歯面加熱装置,または,歯科用歯面活性化装置として届け出または申請されるが,加熱装置は活性化機能を有し,また,活性化装置も加熱機能を有する.また,アーチタイプの照射器で歯科用歯面活性化装置として承認を受けているのは,1機種(WEライト クラスII,ホワイトエッセンス)のみである(Fig.10d).また,単歯照射用の光照射器は,ホワイトニング用の照射チップが提供されている(別売り)ペンキュア2000(モリタ)とG-ライト プリマ II Plus(ジーシー,販売終了)(Fig.10a, b)が歯科用歯面加熱装置として届け出がされているが,他の単歯用の光照射器はコンポジットレジンの光重合器を転用している.現在,う蝕の治療は,う蝕除去後に接着剤を用いて複合樹脂(コンポジットレジン)で修復することが主流になっており,コンポジットレジンの硬化に用いる光重合器は,ほぼすべての一般歯科に備わっていて,容易に用いることができる.
Various light units
a: G-Light Prima II Plus (GC, no longer available)
It is registered as a light curing unit and a tooth surface heating light.
b: Pencure 2000 (J. Morita)
A whitening chip is attached.
c: TiON Light (GC)
A tooth surface activation light.
d: WE Light Class II (Whiteessence)
A tooth surface activation light of full mouse type. Only this light unit is registered as a tooth surface activation light.
一般に,単歯用の照射器は放射照度(光量)が大きいため,ホワイトニング材を歯面に塗布してから短時間照射してその後,放置するという使い方をするが,アーチタイプの照射器では6~12分程度連続照射をする.現在では,アーチタイプの照射器が普及しつつある.いずれのオフィスホワイトニング材でもアーチタイプの照射器の使用は可能と思われるが,5種のオフィスホワイトニング材のうち,ティオン オフィス(ジーシー)とホワイトとエッセンス ホワイトニング プロ(ホワイトエッセンス)のみ,添付文書にアーチタイプの照射器での照射条件が明記されており,他の材料では,単歯用照射器での照射条件しか記載されていない.
光照射によって,塗布されたオフィスホワイトニング材が加熱され,過酸化水素の分解反応の速度が増し,ホワイトニング効果が促進される.また,後述のように,光触媒が添加されているオフィスホワイトニング材では,触媒の効果が発揮される.紫外光では過酸化水素の分解を促進して,漂白効果の増加が期待できるが3,4),現在,用いられている照射器のほとんどは可視光であり,可視光での過酸化水素の分解はあまりない.これは,レーザー光であっても同様と考えられる.各種レーザーのホワイトニングへの応用が検討されてきているものの5,6),わが国では実用化に至っていない.レーザー装置が高額であること,レーザーの特徴である高いエネルギー密度は,現在のホワイトニングでは不要であることなどがその理由として挙げられるが,レーザー光の特性を活かした歯のホワイトニングに向けた今後のさらなる研究が期待される.
4.2.4 触媒の添加オフィスホワイトニング材では,触媒を添加することによって,ホワイトニング効果の促進を図っている材料もある.松風ハイライト(松風)(Fig.3a)は,紛液から構成されているが,その粉末には,金属触媒が添加されている.添付文書には,詳細は記載されていないが,マンガン塩とされている7).ピレーネ(ニッシン)(Fig.3b)は,2つのカプセルで構成されているが,一方のカプセルに,二酸化チタン光触媒が添加されている.また,ティオン オフィス(Fig.3b)では,ホワイトニング材を歯面に塗布する前に,酸化チタン光触媒を含有するリアクターを塗布する(Fig.2b).
一般に,酸化チタン光触媒は,紫外光に反応し,可視光にはほとんど反応しないが,ピレーネやティオン オフィスには,可視光にも応答するように改良された可視光応答型酸化チタン光触媒が使用されている.これらの光触媒はより波長の低い可視光に,より大きく反応する8-10).現在では,光照射器のほとんどがLED光源である.LED光源は,以前に使用されているハロゲン光などに比べて波長の幅が狭いので,光触媒を含有するホワイトニング材では,照射光の波長は重要となる.レジンの光重合器で多用されるピーク波長が460~470 nmの青色光よりも,可視光の下限に近い405 nm付近のピークを有する青紫光の方が,可視光応答型酸化チタン光触媒には有効である.
一方,酸化チタン光触媒を含まないオフィスホワイトニング材では,光照射による発熱量が漂白効果に大きな影響を及ぼすと考えられるので光の波長よりも,放射照度が重要になる.
4.2.5 pHとpH調整剤過酸化水素は不安定な物質で,容易に水と酸素に分解する.ホワイトニング材中の過酸化水素が使用前に分解反応を起こさないように,酸を添加してその反応を抑制している.pHの低い過酸化水素を歯面に塗布しても,分解反応が抑制されているため,高い漂白効果が得られない11).したがって,多くのオフィスホワイトニング材では,使用直前に,アルカリ(pH調整剤)を混和してpHを高めて,過酸化水素の分解反応を促す.また,過酸化水素が分解する際に,各種のフリーラジカルが発生するが,アルカリ環境下では活性の高いヒドロキシラジカルが,酸性環境下では活性の低いヒドロキシペルラジカルが多く発生するとされている(Fig.9)1).
また,同じpHのオフィスホワイトニング材であっても,pH調整剤の種類によって,漂白効果が異なることがわかってきた12).ホワイトエッセンス ホワイトニング プロ(ホワイトエッセンス)では,この知見を応用して,pH調整剤に炭酸水素ナトリウムを用いることで,漂白効果を高めている.
歯のホワイトニングは,歯の着色歯や軽度の変色歯には有効であるが,重度の変色歯に対しては,患者が満足を得られるほどの効果は期待できない.漂白効果は個人差が大きいため,事前に効果を保証すべきではなく,また,患者に過度な期待を抱かせるべきではない.
妊婦・授乳中の女性は,安全性が証明されていないため禁忌とされている.また,無カタラーゼ症の患者は,過酸化水素を分解する酵素がないため禁忌である.オフィスホワイトニングでは,光照射を行うため,光線過敏の患者は,ホームホワイトニングが推奨される.
乳歯・幼弱永久歯は禁忌である.ホワイトニングは保険適用外で自由診療であり,治療費はやや高額となる.思春期の未成年の患者に対しては,慎重に対応すべきであり,保護者の同意は必須と思われる.近年,欧米では,これら思春期の患者に対して,歯のホワイトニング治療は,修復治療や補綴治療と比べて歯質保存的であり,また,QOLの向上の観点から認めてもよいという考え方も出てきている13,14).
オフィスホワイトニング,ホームホワイトとニングのいずれにおいても,軽度の象牙質知覚過敏症が,比較的高頻度に生じる.施術中に自発痛や知覚過敏が生じた場合には,いったん施術を中止し,収まってから再開する.また,知覚過敏に対しては,通方にしたがって,知覚過敏抑制剤の塗布や知覚過敏抑制効果のある歯磨剤を使用してもらう.
ホワイトニングの効果は,永久に続くものではなく,時間の経過とともに徐々に明度が低下する.このことは,あらかじめ患者に説明することが大切である.明度が低下した際に,再度,ホワイトニング処置を行うことがあるが,これを「タッチアップ」と呼ぶ.また,歯質への影響については,製造業者の指示通りに適切に処置を行う限りは,オフィスホワイトニング,ホームホワイトニングともに,歯質に及ぼす影響は問題ないものと考えられる.
ADA(American Dental Association,米国歯科医師会)が声明を出しているように15),ホワイトニングは,比較的安全な治療法であるものの,まったく安全というわけではない.したがって,歯科医療機関において,歯科医師による正しい診断のもとで,適切なホワイトニング処置が行われることが望ましい.オフィスホワイトニングにおいて,光照射はホワイトニング材の加熱・活性化のために有効に利用されている.各種波長の医療用および歯科医療用レーザーが様々な目的で使用されており,歯のホワイトニングへの応用も期待される.
大槻昌幸はホワイトエッセンス株式会社から歯科材料の開発・評価に関わる報酬を得ている.