The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
The Ameliorative Effect of Photobiomodulation on Visceral Hyperalgesia in Restraint Stress Model Rats
Naoya Ishibashi
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2025 Volume 46 Issue 2 Pages 47-53

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Abstract

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)は腹痛と便通異常を特徴とし,一般人口の5~20%が罹患すると報告されている.様々な治療法が存在するものの患者満足度が十分とは言い難く,新しい治療法が望まれている.本研究では,痛覚などの侵害刺激情報を伝達するAδ線維とC線維の活動を抑制するとされるphotobiomodulation(PBM)をIBSへ適応できるか検討した.拘束ストレスモデルラットを使用し,大腸痛覚過敏に対するPBMの有効性を検討した.PBMの光源として半導体レーザを使用した.群はNon-stress + Sham群,Stress + Sham群,Stress + PBM群の3群とし,Stress + PBM群にはL6後根神経節へ経皮的にPBMを5分間ずつ両側に行った.PBM条件は2回の試験で計5種類(平均パワー1,000,460,70,18,3.5 mW)を用いた.PBM後にバロスタットカテーテルを挿入し,30分間の順化後,60 mmHgで膨張させた状態で腹筋収縮回数を5分間測定した.その結果,460 mW,70 mW,18 mWで有意な収縮抑制が認められたが,1,000 mWおよび3.5 mWでは有意差がみられなかった.これらの結果は,PBMが拘束ストレス由来の大腸痛覚過敏を改善し,IBS治療への適応を示唆するものである.PBMは,Aδ,C線維が関わる様々な疾患へ適応できる可能性がある.

Translated Abstract

Irritable bowel syndrome (IBS) is characterized by abdominal pain and abnormal bowel movements and affects an estimated 5–20% of the general population. Although various treatments are available, patient satisfaction remains low, underscoring the unmed need for new therapies. We therefore examined whether photobiomodulation (PBM), reported to suppress the activity of Aδ and C fibers that convey noxious stimuli, could be applied to IBS. Using a restraint stress rat model, we evaluated the effect of PBM on colonic pain hypersensitivity. A semiconductor laser served as the PBM light source. Animals were assigned into three groups (Non stress + Sham, Stress + Sham, and Stress + PBM). In the Stress + PBM group, PBM was percutaneously applied bilaterally to the L6 dorsal root ganglia for 5 min per side. Across two experiments, five PBM conditions were tested, with average output powers of 1,000, 460, 70, 18, and 3.5 mW. After PBM, a barostat catheter was inserted and, following 30 min of acclimation, was maintained at 60 mmHg while abdominal muscle contractions were counted for 5 min. Significant inhibition of contractions was observed at 460, 70, and 18 mW, whereas 1,000 and 3.5 mW had no significant effect. These findings suggest that PBM attenuates restraint stress-induced colonic hypersensitivity and may be a promising therapeutic approach for IBS. PBM has the potential to treat various diseases in which Aδ and C fibers play a role.

1.  背景

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)は腹痛を特徴とし便通異常を伴う症候群である1).通常,臨床検査,内視鏡検査ではこれらの症状の器質的原因を特定できないため,IBSは機能性疾患とも呼ばれ2),近年は類似する疾患である機能性ディスペプシアや線維筋痛症などとまとめてdisorder of gut-brain interaction(DGBI)とも呼ばれる3).IBSの有病率は使用される診断基準や国によって異なるが,一般人口の5~20%が罹患していると推定されている4).IBS患者の多くが報告する主な症状は腹痛,腹部膨満感,下痢,便秘などである1).IBS患者の生活の質(QOL)は著しく低下していると報告されている5).労働生産性の低下に関する報告もあり6),糖尿病などと比べてもIBSの方が労働生産性の損失が大きいことが示唆されている7)

IBSの病態生理機序に関しては,腸内細菌層の異常8),ストレスにより生じるホルモンである副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)9),腸粘膜の炎症10),粘膜透過性の亢進11),中枢性感作12),遺伝的要因13)など,様々なメカニズム仮説14)が立てられている.これらの仮説に基づいてさまざまな治療法が提案されているが,治療の満足度が十分とは言い難い.

本研究は,photobiomodulation(PBM)がIBSに適応できる可能性を提案する.PBMはレーザやLEDなどを光源とした光の生体作用を応用した治療法である15-17).本邦では「低出力レーザ治療」と呼ばれ,筋肉・関節の慢性非感染性炎症による疼痛の緩和に保険適用がある.作用機序として,痛覚等の侵害刺激情報を伝えるAδ,C線維の両方もしくはいずれかの活動を抑制する報告がある18-22).これらAδ,C線維の抑制に関して,著者は本学会で過去に報告してきた15,16).端的には,末梢の感覚情報を伝える知覚神経が密に入力するラット脊髄後角において,単一ニューロンの細胞外電位をin vivo電気生理学手法により計測し,PBMが知覚神経に及ぼす作用について検証した.その結果として,PBMは触覚等の非侵害刺激情報を伝えるAβ線維が入力する脊髄後角深層(レクセドの層におけるlamina III~IV)の発火には影響せず,Aδ,C線維が入力する脊髄後角表層(lamina I~II)の発火を選択的に抑制することを報告した15,16)

IBSの代表的症状である腹痛は,大腸などの感覚神経に含まれるAδ,C線維を介して痛み情報が伝えられることによって生じる23,24).したがって,PBMがこれらの線維を抑制するならば,IBSの大腸痛覚過敏に有効である可能性が考えられる.本研究では,IBS動物モデルの一つである急性拘束ストレスモデルを用いて,PBMのIBSへの適用可能性を検証した.

2.  対象と方法

実験は帝人ファーマ株式会社(承認番号:B19-040-R,B20-007)および株式会社日本バイオリサーチセンター(承認番号:390216,409079)の動物実験委員会の承認を得て実施した.

2.1  拘束ストレスモデルの構築と評価

ラット(Crlj:WI,雄,6週齢)を用いた.ステンレス製の懸垂式ケージ(W: 240 × D: 380 × H: 200 mm)で個別飼育し,製造後9か月以内の固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業株式会社)を給餌器に入れて自由摂取させた.入手後は5日間の検疫期間および6日間の馴化期間を設けた.拘束ストレス試験日の3日前に,対象ラットの背側部を電気バリカンと除毛クリーム(エピラット除毛クリーム,クラシエ)で腰仙骨周囲を広く除毛した.飼育室は,管理温度20.0~26.0°C(実測値:22.8~23.4°C),管理湿度40.0~70.0%RH(実測値:48.8~53.7%RH),明暗サイクル各12時間(照明6:00~18:00),換気回数12回/時(フィルター通過空気)に維持した.

群設定は以下の通りとした:拘束ストレスを与えず偽照射したNon-stress + Sham群,拘束ストレスを与えて偽照射したStress + Sham群,拘束ストレスを与えてPBMを行ったStress + PBM群.実験は明サイクル中に実施した.まず,Stress + Sham群及びStress + PBM群のラットを拘束ストレスケージ(4.5 × 4.5 × 18.0 cm)に1時間入れ,拘束ストレスを与えた.一方,Non-stress + Sham群のラットは通常の飼育ケージに1時間置いた.その後,1名がラットを手で保定し,もう1名が腰部皮膚にレーザ照射プローブを当て,L6後根神経節に向けて片側5分ずつ,両側に対してPBMを行った.L6後根神経節は直腸からの神経の一部が投射するとされるため25),PBMの照射部位に選定した.Non-stress + Sham群及びStress + Sham群は,PBMを行わず同様の操作のみ行った.

その後,バロスタットカテーテルをラットの結腸に挿入し,30分間順化を行った.順化後,カテーテルを60 mmHgまで膨張させ,5分間にわたり腹筋収縮回数を計測した.評価者は,ラットがどの処置を受けたか分からないブラインド下で測定を行った.

2.2  PBM条件

試験は2回実施し,1回目でPBMを3条件,2回目でPBMを2条件検討した(Table 1, 2).それぞれの実験で異なる動物を使用した.PBM光源には半導体レーザ(ML6500システム;Modulight社,フィンランド)を用いた.レーザは光源から光ファイバーで導光し,パワー,照射時間,発振モードはソフトウェア(ML6700コントローラー;Modulight社,フィンランド)により制御した.平均パワー70,18,3.5 mWについては,光ファイバー後方にNDフィルター(AND-10 Cシリーズ;シグマ光機株式会社,東京都)を装着して調整し,1,000および460 mWではNDフィルターを使用せずに光ファイバーから直接出力した.平均パワーの測定にはパワーメーター(ディスプレイ:NOVAII,センサー:10 A-1.1 V;オフィールジャパン株式会社,埼玉県)を使用した.

Table 1 

PBM parameters for first experiment. Modified by Ref. 50.

Parameters Stress + PBM 1 Stress + PBM 2 Stress + PBM 3
Wavelength 808 nm
Average power 1,000 mW 70 mW 18 mW
Peak power 10 W 700 mW 180 mW
Area 2.79 cm2
Average power density 358 mW/cm2 25.1 mW/cm2 6.45 mW/cm2
Irradiation time 300 s/side (600 s total)
Energy 600 J 42 J 10.8 J
Energy density 215 J/cm2 15.1 J/cm2 3.87 J/cm2
Mode Pulse
Pulse width 20 ms
Frequency 5 Hz
Pulse duty 10%
Table 2 

PBM parameters for second experiment. Modified by Ref. 50.

Parameters Stress + PBM 4 Stress + PBM 5
Wavelength 808 nm
Average power 460 mW 3.5 mW
Peak power 4.6 W 35 mW
Area 2.79 cm2
Average power density 165 mW/cm2 1.25 mW/cm2
Irradiation time 300 s/side (600 s total)
Energy 276 J 2.1 J
Energy density 98.9 J/cm2 0.75 J/cm2
Mode Pulse
Pulse width 20 ms
Frequency 5 Hz
Pulse duty 10%

2.3  統計解析

解析にはPrism ver. 8.4.3(GraphPad Software, San Diego, CA)を用いた.データは平均値±標準誤差で示し,一元配置分散分析後に Bonferroniの多重比較検定を用いて比較した.P < 0.05を有意差ありと判断した.

3.  結果

まず,PBMの3条件を検討した結果を示す(Fig.1).Stress + Sham群の腹筋収縮回数は32.9 ± 1.7であり,Non-Stress + Sham群の18.0 ± 1.1と比較して有意に増加していた.Stress + PBM1群(平均パワー1,000 mW)の腹筋収縮回数は27.2 ± 2.3で,Stress + Sham群と比較して有意差は認められなかった.一方,Stress + PBM2群(平均パワー70 mW)は25.3 ± 2.4,Stress + PBM3群(平均パワー18 mW)は25.5 ± 1.8であり,いずれもStress + Sham群と比較して有意に減少していた.

Fig.1 

The first 60 mmHg rectal distension (5 min) elicited 32.9 ± 1.7 contractions in Stress + Sham rats, significantly above the 18.0 ± 1.1 seen in Non stress + Sham animals. Stress + PBM1 (27.2 ± 2.3) tended toward fewer contractions, but significance was not reached. Stress + PBM2 (25.3 ± 2.4) and PBM3 (25.5 ± 1.8) groups showed significant reductions. Data are mean ± SEM (n = 10 or 15); * p < 0.05, **** p < 0.0001 vs. Stress + Sham, with Bonferroni’s multiple comparisons test. Modified by Ref. 50.

次に,別の2条件について検討した結果を示す(Fig.2).Stress + Sham群の腹筋収縮回数は36.2 ± 2.5で,Non-Stress + Sham群の20.0 ± 2.2と比較して有意に増加が認められた.Stress + PBM4群(平均パワー460 mW)の腹筋収縮回数は25.8 ± 2.5であり,Stress + Sham群と比較して有意に低下していた.一方,Stress + PBM5群(平均パワー3.5 mW)は31.7 ± 1.8で,Stress + Sham群との差は有意ではなかった.

Fig.2 

The effect of PBM on the number of abdominal muscle contractions during a 5-minute, 60 mmHg balloon stimulation in the rectum was evaluated. The Stress + Sham group (36.2 ± 2.5 contractions) exhibited a significant increase in abdominal muscle contractions compared to the Non-stress + Sham group (20.0 ± 2.2). The Stress + PBM4 group (25.8 ± 2.5) showed a significant reduction in the number of abdominal muscle contractions compared to the Stress + Sham group. In contrast, the Stress + PBM5 group (31.7 ± 1.8) did not show a significant reduction in contractions compared to the Stress + Sham group. Data are expressed as means ± SEM (n = 10 or 15); ** p < 0.01 and **** p < 0.0001 vs. Stress + Sham, with Bonferroni’s multiple comparisons test. Modified by Ref. 50.

4.  考察

本研究では,IBS動物モデルの1つである拘束ストレスモデルラットに対して,L6後根神経節へ経皮的にPBMを照射すると,腹筋収縮回数が抑制されることを示した.さらに,PBMのパワー等の強度に関わる条件で効果が変わることを示した.

本実験で用いた急性拘束ストレスモデルは,IBSの症状の一部を模倣する生理学的・行動的変化を惹起させる目的で使用される26).動物を身動きがとれないケージに1時間入れ,急性のストレスを与えることで,IBS様の症状を再現する.その有用性は,実際の臨床で用いられるリナクロチド27)やラモセトロン28)によって症状が改善する点から裏付けられている.本研究で,急性拘束ストレスモデルラットの腹筋収縮回数がPBMによって抑制されたことから,IBSにおける腹痛症状の治療にPBMを応用できることが示唆される.

PBMの照射部位として,L6後根神経節を選択した.ラットのL6後根神経節は骨盤内臓神経に相当し,一部は直腸へ投射する25).骨盤内臓神経は,大腸粘膜の情報の一部をAδ,C線維を介して中枢神経系へ伝達しており23,29),結腸に挿入したバロスタットカテーテルを膨らませることで誘発される腹筋収縮(visceral motor response: VMR)にAδ,C線維が関係している23,30,31).一方でPBMは触覚等の非侵害刺激情報を伝えるAβ線維には影響せず,Aδ線維とC線維を選択的に抑制することが報告されている18,19,21).したがって本研究結果は,骨盤内臓神経のAδ,C線維をPBMが抑制することで,大腸痛覚過敏の改善をもたらしたと考えられる.また,ヒトにおいては骨盤内臓神経が仙骨神経の一部であることから32),仙骨神経へのPBMによってIBSにおける大腸痛覚過敏を改善できる可能性がある.臨床応用を踏まえた課題として,本研究ではラットの両側のL6後根神経節にPBMを行ったが,IBS患者によって痛覚過敏が生じる感覚神経が異なる場合,単一の神経節へのPBMでは全てのIBS患者を治療できない可能性は否定できない.一方で,IBSと別の疾患ではあるが疾患の類似性が報告されている過活動膀胱において33),仙骨神経にPBMを行った臨床研究が存在する34).同研究では,PBMとして半導体レーザを使用し,週2回6週間,S3仙骨孔を介してS3仙骨神経の両側に経皮的にレーザを照射した34).その結果,対照群とレーザ照射群との間で主要評価項目である排尿回数の有意な差は認められなかったものの,尿意切迫感回数,膀胱容量,各種スコア(OABSS,I-PSS等)で有意な改善が見られている34).特に定量指標である膀胱容量の改善が見られたことは特筆すべきであり,PBMが過活動膀胱に有効である可能性が示されている34).過活動膀胱においてS2~S4のそれぞれの仙骨神経がいずれも膀胱の感覚伝達に関与しており35),先行研究でS3仙骨神経の両側にPBMを行い有効性が示唆されたため34),IBSにおいてもS3仙骨神経のみのPBMによって奏功する可能性はあるものの,さらなる研究が必要である.

一度目の実験(Fig.1)では,平均パワー1,000,70,18 mWの3条件を設定した.平均パワー1,000 mW(ピークパワー10 W,繰り返し周波数5 Hz,10% Duty)は,先行研究で膀胱炎モデルラットのL6後根神経節に対して830 nmレーザを経皮照射し,感覚神経の過活動抑制を電気生理学的に確認した条件に基づいている36).膀胱と大腸の一部の感覚神経がいずれもL6後根神経節に投射することから32),この先行研究の知見は本研究で想定した作用機序と整合する.平均パワー1,000 mWで抑制傾向はあるものの有意差は確認されなかった原因として,PBMの用量反応として効果が生じる平均パワーの範囲があり1,000 mWは範囲外にある可能性や,皮膚の温度上昇により動物にストレスが生じ痛覚過敏がやや悪化した可能性が考えられる.平均パワー70 mW,18 mWの条件は,著者のラットにおける透過性研究37)を参考に,ラットとヒトで透過性が同等と仮定し透過光量を簡易計算して決定した.具体的には,ヒトに対して1,000 mWを経皮照射した場合に仙骨神経が存在する仙骨孔の深さ(皮膚表面から約20 mm38))で得られるパワー密度を,ラットのL6後根神経節の深さ約11 mm37)で再現することを目的に設定した.二度目の実験(Fig.2)では,460,3.5 mWの2条件を設定した.460 mWは,一度目の実験結果を踏まえて1,000 mWと70 mWの間に位置する値として設定した.3.5 mWは,18 mWよりもさらに低い平均パワーにおいて効果が消失するかを確認するために設定した.現段階では,PBMの効果とパワーなどの強度条件との関係に一貫した見解は得られていないが39),本研究の結果からは,パワーなど強度のパラメータがPBM効果を決定づける重要な指標であることが示唆される.また,実臨床においては仙骨神経までの深さに個人差があると考えられ,深さによって有効性が異なる可能性があり,さらに詳細な研究が必要である.

本研究では,IBSの主要症状である便通異常(下痢,便秘)についての評価は行わなかった.その理由として,急性拘束ストレスモデルでは,拘束ストレス中の糞便排泄量を測定する方法が一般的だが,拘束ストレスの前にPBMを行った場合,PBM中の作業者による保定自体がストレスとなり排便を促すため,PBMの効果を正確に評価できない可能性があるためである.便通異常の評価には,たとえば母子分離モデルなどの慢性モデルを使用し,ある程度の期間に渡り複数回PBMを行うことで評価できる可能性がある40).近年では,腹痛が下痢や便秘を引き起こす可能性も示唆されており41,42),PBMが内臓痛覚過敏を抑制することで,下痢や便秘といった症状も軽減できる可能性がある.本研究ではIBSの痛覚過敏に対する一過性のPBMの効果を実証したに留まるものの,慢性モデルを用いることで腹痛や便通異常に対するPBMの効果が持続あるいは蓄積するか詳細に評価することが可能と考えられる.

臨床応用を踏まえると,有効性のみならず安全性も重要である.PBMの安全性が高いことは多くの先行研究で報告されている43).例として頚部痛44)および星状神経節ブロック45)に対するPBMを検討したメタ解析では,有害事象は確認されなかった.さらに,波長830 nm,パワー1 Wの半導体レーザ治療器「メディレーザソフト1000」を用いた臨床試験では,筋・関節の慢性非感染性炎症に伴う疼痛を抱える122例において副作用は報告されていない46).また過活動膀胱に対し,仙骨神経に経皮的に半導体レーザを週2回6週間照射した先行研究では,レーザ照射群に有害事象は発生せず,安全性上の問題は見られなかった34).以上を踏まえると,IBSにおいてもPBMの安全性が高いことが示唆されるが,詳細はさらなる研究が必要である.

本研究では,著者がこれまで報告してきたPBMによるAδ線維およびC線維の抑制という作用機序を踏まえ,その適応疾患としてIBSの可能性を検討し,病態モデル動物で効果が得られることを示した.これらの結果を基に特許出願を行い,国内ではすでに権利化が成立しているほか47),米国など各国でも権利化に向けた手続きを進めている.PBMは疼痛だけにとどまらず,さまざまな疾患への応用が可能と考えられ,上述の過活動膀胱34),膀胱炎48),咳嗽49)などへの応用も視野に入れられる.

5.  結論

本研究は,PBMが拘束ストレスモデルラットの大腸痛覚過敏を改善することを示した.このことは,PBMがIBS患者にとって新たな治療選択肢となることを示唆する.PBMは,Aδ,C線維が関わる様々な疾患へ適応できる可能性がある.

利益相反の開示

開示すべき利益相反はない.

引用文献
 
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