2025 Volume 46 Issue 2 Pages 62
下肢静脈瘤に対する根治的な治療法として,過去100年以上にわたり,「不全伏在静脈の抜去術(ストリッピング手術)」が行われてきました.鼠径部と下腿に皮膚切開を加えて,大伏在静脈をcut downし,静脈内腔へ金属製のwireを挿入,片端にheadを装着して用手的に静脈を引き抜くという方法です.全身麻酔もしくは腰椎麻酔を必要とするため,原則として入院治療となり,術後には出血や疼痛,神経損傷,感染,瘢痕形成などの合併症が一定の頻度で生じ,社会復帰に時間を要することも多く,患者さんにとっては負担を伴う治療法でした.
2011年に我が国で保険適応となった,不全伏在静脈に対する血管内レーザー焼灼術(endovenous laser ablation: EVLA)は,①鼠径部や下腿の皮膚切開を必要とせず,② Tumescent local anesthesia(TLA)という新しい局所麻酔下で実施可能であり,③術後合併症の頻度がストリッピング手術に比べて格段に低いという利点から,瞬く間に標準的治療法に置き換わりました.本特集では,小川智弘先生にEVLAの歴史と現状について,またその基本的手技を含めて「総説」をご執筆いただいております.
一方,伏在静脈逆流により生じた側枝静脈瘤への対応には,現在もStab avulsion法による瘤切除が広く行われています.わずか数ミリとはいえ皮膚切開を伴い,金属製フックで瘤壁をひっかけて牽引・抜去するこの手技では,術後に出血や血腫,神経損傷,リンパ漏,瘢痕,感染などの合併症リスクが一定程度存在します.とりわけ抗凝固療法中の症例や,瘤壁と皮膚が癒着した重症皮膚病変では,出血や断裂の懸念から瘤処理に制限が生じる場合もあります.
こうしたStab avulsion法の限界を補う治療法として,近年「側枝静脈瘤に対するレーザー焼灼術」が注目されています.本手技は,2024年10月に保険適応の拡大承認を受け,2025年4月にはガイドライン追補も公開されています.本特集では私が本法の歴史と基本的手技について「解説」を担当させていただきました.
本特集が,下肢静脈瘤治療に対する理解を一層深め,安全で低侵襲なレーザー治療のさらなる普及に寄与することを願い,巻頭言とさせていただきます.最後に,本特集を企画する機会を与えていただいた日本レーザー医学会関係各位に,またご多忙の中ご執筆を賜った小川智弘先生に,深く感謝申し上げます.