昭和医学会雑誌
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家族分裂病を中心とせる精神分裂病 (早発性痴呆) の遺伝生物学的研究
多賀谷 讓
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1960 年 20 巻 8 号 p. 951-966

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抄録

1.本論文に於て定型分裂病の遺伝様式の探究を中心課題としたが, 元来潜性部分多く研究し難いという欠点を除くため先ず病者の多発する家族精神病39組 (定型親子同胞分裂病A群) を手がかりとし, 優性型定型単発分裂病26例を対照第1群 (B群) に, 全く無負因の定型単発分裂病19例を対照第2群 (C群) に選んだ.
2.同一家系内の病型別臨床像は概ね相似し遺伝的にも同種と考えられた.而してA群には分裂病質が比較的少く, これに反し3群には分裂病質が比較的多く認められ, C群は分裂病質は少いが, 分裂気質が比較的多かつた.又遺伝負荷は殆んど全例に於て両親の片系にのみ認められた.
3.遺伝様式の決定に資するため, ABC三群の全同胞 (A群186人, B群107人, C群59人) を調査したが, 特に病者以外の同胞の性格特徴を知るために, 材料を二三の例外を除きすべて25歳以上の年齢の者に限定し性格調査と生活史の詳細な検討を行い, これらをKretchmerの分類に従い, 整理した結果, 協同研究者たる竹村の論述した定型分裂病の単純不完全優性遺伝を前提とせるMendel分析を可能ならしめた.
4.AB両群中親から子への直接遺伝が認められる家系では, 次の如き結果を得た.
(1) A群の破瓜, 緊張両型で分裂病および分裂病質者対その他の正常者 (分裂気質者を含む) の比は10: 8と25: 20で, 各1以上で, 遺伝的保因者が非保因者を上廻ること.
(2) B群の破瓜, 緊張両型で上記の比は7: 8と6: 5で, 略1に等しいこと.
(3) 親子分裂病 (親が分裂病質の場合も含む) では上記の比は17: 16及び31: 25で前者は略1に等しく, 後者は遺伝的保因者が非保因者を上まわり, 少くとも前者が後者を上廻ることはない.
5.AB両群中親から子への直接伝が認められぬ家系では, 次の如き結果となる.
(1) A群の破瓜型では分裂病者及び分裂病質者対その他の正常者 (分裂気質者を含む) の比は42: 41で略1であり,
(2) A群の緊張型では9: 15で, 分裂気質者を保因者側に移すと, 両者の比は12: 12で, 1となる.
(3) B群の破瓜型では分裂気質者を保因者側に移すことによつて両者の比が19: 22となり1に近づく.
(4) B群緊張型では分裂病及び分裂病質対その他の正常者 (分裂気質者と診断されたもの無し) の比は1である.
6.C群では同様に分裂気質者を保因者側に移せば, 保因者対正常者 (非保因者) の比は丁度20: 20で1となる.
7.以上の研究成績より著者は定型分裂病の避伝様式として, 『分裂病家系中の分裂病質および大多数の分裂気質者を遺伝的保因者と想定することにより』全般的に単純不完全優性遺伝が有力な根拠を有するものと考える.而して定型分裂病家系の分裂気質者に関する研究は今後に残された重要課題となるであろう.
終りに臨み, 終始変らぬ御鞭撻, 御指導と, 御校閲を賜つた塩崎教授と西尾院長に深く謝意を表します.又懇切な御指導をいただいた竹村堅次博士に深く感謝を致します.

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