抄録
JEV感染への細胞性免疫の関与を調べるために, 抗マウス胸腺細胞血清 (ATS) を4週齢マウスに投与し, 5株のJEVを腹腔に接種して, マウスの発症致死, 体内でのウイルス増殖および抗体産生に与える影響を検討し以下の成績を得た.
ATSをマウスの腹腔に3回注射して, 血流中の白血球に与える影響を見ると, 投与後24時間において, 白血球数は著しく減少した.しかし幼若な多形核白血球が出現し, その数は急速に復帰した.
ATSをウイルス感染24時間前と72時間後の2回腹腔に投与したマウスに, 各ウイルスを腹腔から感染させると, 末梢感染性の強いJaTH160株と末梢感染性の弱い中山一予研株では, 無処置群と差を見いだせなかったが, 末梢感染性が両者の中間であるJaGAr01株, Mie44-1株およびG-1株では, ATS投与により明らかな死亡率の増加が認められた.
JaTH160株とMie44-1株のATS投与マウス体内でのウイルス増殖を調べると, ウイルス血症は無処置対照群と同様に出現するのに対し, 脳内でのウイルス増殖は, JaTH160株ではATSの投与いかんにかかわらず活発に起こるが, Mie44-1株では対照マウスでほとんど増殖が認められないのに, ATS投与群では著明なウイルス増殖が観察された.
ATS投与マウスの中和抗体産生は, JaTH160, Mie44-1両株について見ると, 対照よりやや遅れ, また産生された抗体価もわずかに低い値を示した.
以上の所見から, マウスのJEV感染発症の経過には, 細胞媒介免疫が何らかの役割を演じているものと考えられる.