抄録
ラットの足三里の経穴に相当する前脛骨筋を低頻度刺激して現れる針麻酔の鎮痛 (AA) 及び鎮痛抑制系破壊後経穴でない部の腹筋に経穴刺激と同じ刺激を与えて現れる鎮痛 (NAA) はともに下垂体の除去で出現しなくなり, これらの鎮痛は最終的には痛覚の下行性抑制系の活動で出現する.本研究は下垂体から遊離された物質が単純に下行性抑制系を働かせるのか, 下垂体・副腎系が共同して働くホルモン系によって下行性抑制系が働くかを, 下垂体の除去や副腎を摘出した後の, AAとNAAの変化を経時的に観察して検討を加えた.実験はラットを用い, 痛覚闘の測定は尾の逃避反応によった.また下垂体の除去は経耳的に, 副腎の摘出は開腹して行った.AAは, 下垂体の除去, 副腎の摘出の何れでも除去, 摘出してから6時間後には増大して出現し, 12時間後には出現しなくなった.増大して出現したAAはナロキソンでもデキサメサゾンでも拮抗されなかったが, AAの下垂体に到る発現経路にあたる中脳中心灰白質外側部の破壊で出現しなくなり, またセロトニン下行性抑制路の作用に拮抗するメチセルジッドで正常のAAと同じ程度拮抗された・NAAも下垂体の除去, 副腎の摘出6時間後では増大して出現したが, その消失の時間的経過はAAに比べて長く, 24時間を要した.また下垂体の除去後の増大は12時間続いたが, 副腎の摘出では6時間であった.副腎摘出1週間後にコルチコステロンを投与したが針鎮痛は出現しなかった.下垂体除去, あるいは副腎摘出6時間に現れる鎮痛は下垂体や副腎がなくとも出現するので, 針鎮痛の下垂体に到る経路の最終部と同定されている視床下部前部の刺激で, 下行性痛覚抑制路の最初の部と同定されている視床下部弓状核に現れる誘発電位で副腎摘出後の経過を検したが変化は現れなかった.以上の結果から下垂体は副腎と共同して働く機序によってAAやNAAの発現にあつかる事が明らかになった.しかし下垂体や副腎が除去された後に現れる鎮痛の発現機序についてはまだ不明である.