抄録
鼻部皮膚温は鼻症状と関係し, 鼻が通っている状態では周囲の皮膚温より低く, 鼻閉の状態や鼻汁分泌が多い場合には高くなり周囲との差がなくなる.鼻にはさまざまな生理学的機能があり, 吸気に対する加温作用もその1つである.逆に考えると, 鼻腔粘膜は外気によって冷却を受けていることになる.この現象が鼻部皮膚温に反映していると考えられている.そこで, 環境温と鼻部皮膚温との関係をみる目的で約1年間を通じて両者の関係を観察した.また, 短時間で室温を上昇させた場合や綿栓負荷を行なった場合の鼻部皮膚温の変化についても検討した.対象は, 鼻閉患者94例と鼻正常者135例とした.方法は, サーモグラフィを用いて顔面の皮膚温を測定し, 前額部・鼻部・頬部について比較を行った.検査室の条件は, 1) 特別な温度調節をしない状態 (季節性変化) , 2) 低い環境温から短時間で室温を上昇させた場合, 3) 室温を15℃に固定した状態で鼻入口部に綿栓を行った場合の3通りとした.その結果, 鼻正常者では季節的に環境温が高くなるにしたがって鼻部皮膚温も徐々に高くなる傾向が認められた.しかし, 環境温が24℃~25℃になると鼻部皮膚温は前額部皮膚温との差が小さくなり, 高温のまま安定した状態になった.鼻閉患者ではどの季節の環境温でも前額部皮膚温との差が小さく高温であった.短時間で室温を上昇させた場合の鼻部皮膚温は, 僅かな室温の上昇でも高くなり, 前額部皮膚温との差がなくなる傾向を示した。15℃の環境温下で綿栓負荷を行った場合の鼻部皮膚温は綿栓負荷で前額部皮膚温に近い値まで上昇し, 綿栓負荷の除去で元に戻った.前額部皮膚温や頬部皮膚温は鼻正常者群・鼻閉患者群に関わらず, 自然環境温の中でも短時間で室温を変化させた場合でも, さらに綿栓負荷を行った状態でもほとんど変化しなかった.