昭和医学会雑誌
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成人大腿骨および脛骨の横走線の観察
―発生・存続に対する荷重による影響の有無―
笠井 史人
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キーワード: 横走線, 骨梁, 大腿骨, 脛骨
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1998 年 58 巻 5 号 p. 419-426

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抄録

成人膝関節周囲のHarris線と呼ばれる横走線 (Transverse Lines) の存在意義を力学的見地より解明することを目的とし, レントゲン写真の解析と解剖遺体骨標本の肉眼的観察を行った.横走線の発生・存続に対する荷重による影響を調べるため, 成人脳卒中片麻痺患者83例166肢 (男性53例, 女性30例・右麻痺40例, 左麻痺43例) , 平均年齢65.0歳, 罹患期間39.9ヵ月と本学医学部解剖学実習遺体27体54肢 (男性14体, 女性13体) , 平均年齢73.6歳を対象とした.両側膝関節を中心に大腿骨遠位半と脛骨近位半のX線写真を撮影し, 横走線をカウントしたところ, 片麻痺患者の43.4%, 解剖遺体の55.6%に左右差無く認められた.片麻痺患者, 解剖遺体ともに横走線の66.7%は左右対称位置にあり, 骨の内側後方に多くみられた.また骨横径に対する皮質骨幅の比率は有意差をもって横走線出現肢で小さかった.解剖遺体の骨標本の肉眼的観察では横走線は重力に直交するように竹の節状に骨髄腔内に張り出しており, 円盤ないし半円盤を形成していた.骨梁の走行は一律な方向性を示しており, 三角形の組み合わせ構造, すなわちtruss構造を形成していた.従来の文献では, 横走線は小児期に発熱消耗疾患・飢餓などの身体的ストレスによって発生し, 成人になるまでに消失するとされているが今回の結果では, 横走線は成人にも珍しくなく存在していた.その存在に脳卒中片麻痺のような短期間の荷重左右差は関係しないが, 骨皮質の薄い骨に多く認められる事から, そのX線像での判別には骨萎縮が関係することが推測された.骨改変に淘汰されず成人まで横走線が存続するのは残存している横走線に役割があるためと考えられる.観察された横走線の位置および構造から推測すると, 成人の横走線は力学的に補強の役割をもっている骨梁のみが残存し, 疎になった海綿骨中にコントラストがはっきりして認められ易くなったものと考えた.

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