昭和医学会雑誌
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膝前十字靭帯の形態計測学的研究―損傷との関連について―
吉村 誠
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2000 年 60 巻 3 号 p. 371-383

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抄録
膝前十字靭帯 (以下ACLと略す) の強度に直接かかわるACLの形態を計測し, その形態と顆間窩横径, ACL損傷との関連について考察した.対象は昭和大学第二解剖学教室の解剖体19例38膝を用いた.ACLは脛骨平面上にて停止部を切離し, さらに大腿骨外顆内側面後部の起始部にて切離し摘出した.またACLの線維と直行する面でACLの最狭部を横切し, 実質部の断面積とした.各部位における面積の計測は, ZEISS社製IBAS (Interaktives Bild-Analysen System) を用い面積を計測.顆間窩の最大横径は, ノギスを用いて計測した.また手術用顕微鏡視下に, ACLの起始部より停止部まで線維を追い, ACLの捻じれを計測した.結果, 1) ACLの長径, 短径は停止部で大きく, 起始部, 実質部の順であった.2) 起始部と停止部の面積は相関係数0.48で正の相関を認めた.起始部とACL実質部の面積は相関係数0.55で正の相関を認めた.停止部とACL実質部の面積は相関係数0.23であった.3) ACLの面積は停止部で大きく, 起始部, 実質部の順であった.実質部の面積は停止部の17%, 起始部の30.8%であり解剖学的脆弱部である.4) ACLは膝伸展位では全ての線維が緊張しているが, 屈曲位では前方線維のみが緊張しており, 有効に働く線維が少なくなるため, ACLの強度はさらに弱くなる.臨床的に実質部, 起始部ではACL自体の損傷が多く, 停止部では剥離骨折が多くなる根拠となる.5) 顆間窩横径と起始部の面積, 停止部の面積や, ACL実質部の面積との間には, 一定の傾向は認められなかった.ACLの面積が大きいものは強度も強いと考えられるが, 顆間窩が狭小なものはインピンジによる損傷を受けやすい.しかし顆間窩の横径と靭帯の面積や形態には相関は認められないため, 顆間窩横径のみからACLの損傷のしやすさを推測することは難しい.6) 各症例に関し, 左右の膝で計測値の相関を調べた.長径と短径, 面積, 顆間窩横径, ACLの捻じれの全てで相関を認めた.
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