抄録
SOC (Sense of Coherence) は, 1970年代後半に医療社会学者のAntonovskyによって体系化された健康生成論の中核概念で, 自分の内外で生じる環境刺激は予測と説明が可能で, その刺激がもたらす要求に対応するための資源はいつでも得られ, そうした要求は心身を投入しかかわるに値するという確信からなる生活世界規模の志向性である.本研究は, 看護教育における基礎段階の体験学習 (学内演習・臨地実習) に対する学生の意識や行動とSOCの強さや変化との関係を明らかにし, 教育内容を検討する一助とすることを目的とした.対象は, S短期大学看護学科1年次学生86名とし, 基礎看護学の学内演習と臨地実習が設定されている1年後期開始時と終了時の2回にわたって, 自記式質問紙による縦断的調査を実施した.その結果, SOC変化群別に体験前SOCの高・中・低の3群間の意識と行動の得点差を多重比較したところ, SOC減少群では, 体験前の「実習に期待している」「ナースになりたい」「看護過程を理解している」などの看護師になるための学習意欲や期待感に, 高群と低群間に有意差が認められた.しかし微増群や著増群では「自分はナースに向いていると思う」と「自分自身に満足している」以外は有意差を認められなかった.また, 体験前SOC群別の意識と行動の平均得点は, SOCが高い程「ストレス感」が少なく, 「ストレス対処行動」や「ポジティブ思考」, 「達成感」, 「予測と期待感」が有意に高かった.さらに, 体験後のSOCに関連する意識と行動因子を特定するために重回帰分析を行った結果, 体験学習後のSOCは, 「ストレス対処行動」や「ポジティブ思考」が, 体験学習前後のSOC変化には, 「ポジティブ行動」が, いずれも正の有意な関連を示した.これらより, SOCは看護実践能力に寄与すると考えられ, 看護教育の基礎段階におけるSOC形成にむけての教育の意義を認めた.またSOC形成には, 体験学習に関する意識と行動のなかでも, 特にポジティブ行動が関与している可能性が示唆された.