生体医工学
Online ISSN : 1881-4379
Print ISSN : 1347-443X
ISSN-L : 1347-443X
抄録
酸素勾配を形成するマイクロ培養デバイスを用いて腫瘍環境を再現する試み
塚田 孝祐
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 54Annual 巻 28PM-Abstract 号 p. S397

詳細
抄録

【目的】腫瘍内の未熟な血管は不規則に分岐を繰り返し,その血流は停滞や逆流を呈するため,局所的に著しい低酸素状態にある.一般の培養器でこの局所的な低酸素環境を再現することは不可能である.本研究では連続的な酸素勾配を形成するマイクロ培養デバイスを開発し,腫瘍周囲に形成する新生血管のイメージングを試みたので報告する.

【方法】高いガス透過性を有するpolydimethylsiloxane (PDMS)を基盤とし,培養層下部に設けたガスチャネルに異なる酸素濃度のガスを流入させることで細胞培養層に自在な酸素勾配を形成させるように設計した.培養層に血管内皮細胞Human Umbilical Vein Endothelial Cells (HUVEC)を培養し,血管を形成するHUVECの動態を解析した.また,ヒト乳腺癌細胞MDA-MB-231を含むスフェロイドを作製し,その周囲に形成される新生血管を解析した.

【結果】酸素勾配下で培養したHUVECが形成する血管は低酸素領域では高酸素領域と比べ血管径が大きく,また分岐点の数も多い結果を得た.スフェロイド包埋されたMDA-MB-231細胞との共培養では,HUVECがスフェロイド周囲で血管を形成する様子が観察された.

【考察・展望】局所的な低酸素環境の形成は未熟な新生血管が不規則に分岐・蛇行・接合することによって生じ,化学療法や放射線療法の障害となっている.今後,酸素濃度による血管形成の差異を定量化し,それをトリガーする分子メカニズムを明らかにしていく.

著者関連情報
© 2016 社団法人日本生体医工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top