2017 年 55Annual 巻 3AM-Abstract 号 p. 169
生体を補助する人工心臓においては材料と生体の境界における血栓形成が課題であり、重篤な脳血管障害を引き起こす可能性があるために解決すべき重要な問題となっている。我々は、人工材料に生体組織を誘導することで生体が本来持つ抗血栓性と人工材料が持つ機械的強度を併せ持つ新たな材料を開発することを起草し、この材料を用いて機械と生体との境界をシームレスに接続問題の解決を試みた。本発表では補助人工心臓用の脱血カニューレをハイブリッド材料で作製し、材料と心臓との癒合と、材料表面の血栓形成について観察を行った。生体組織を誘導する人工材料の足場にはポリエステルを用いた。足場を成形用の樹脂型に内挿した上で生体の皮下に植え込み、生体組織を誘導した。免疫拒絶反応を抑制することを目的として摘出後に1%SDS溶液を用いて脱細胞処理を施し、ハイブリッド材料を得た。ハイブリッド材料を用いて作製した脱血カニューレと、東京大学が開発した補助人工心臓とをヤギに適用し3ヶ月の長期慢性動物実験を4例実施した。心臓とハイブリッド材料は心臓ときれいに癒合し、材料表面にも血栓は形成しなかった。実験終了後の組織学評価では、ハイブリッド材料にレシピエント細胞が再生し、最表面には血管内皮細胞が観察され、作製した材料の有用性が示された。