2017 年 55Annual 巻 4PM-Abstract 号 p. 359
人の直立姿勢は、重心の高い倒立振子のように不安定な姿勢である。高齢者やめまい患者の転倒防止や平衡機能評価機器の開発のために、姿勢制御系のメカニズムを研究することは重要である。直立をしているヒトの頸背部に振動刺激を与えた場合の身体動揺は、視線の方向に身体動揺が起こる。その身体傾斜方向が視線の影響を受ける被験者と受けない被験者が存在していることが報告されている。しかしその理由に不明確な点が多い。そこで本研究では、頚背部に振動刺激を与えている状態で、左右一方から聴覚刺激を与えた時の身体傾斜方向を計測し、視線による身体傾斜方向の結果と比較する。聴覚刺激によって起きた身体傾斜が、視線による身体傾斜と同様の結果が得られるとすれば、身体傾斜方向は視覚や聴覚よりも上位の中枢による影響を受けていると考えられる。被験者17名に対して二つの実験を行った。一つは視線を正面から移動させた際の身体傾斜方向の計測、もう一つは左右どちらか一方の音源から音を鳴らし聴覚刺激を行った際の身体傾斜方向の計測である。この二つの実験の結果を比較したところ、両方とも影響を受けた被験者は3名であった。そのほかに、視線のみ、聴覚刺激のみ、両方とも影響を受けないと被験者によって異なった。この結果から、現段階では身体傾斜方向が視覚や聴覚よりも上位の中枢による影響を受けているとはいえないことが示唆された。