2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 286
経口分子標的薬の抗がん剤は、従来の殺細胞薬に比べ毒性が軽微とされる。それでもなお、患者は堪え難い有害事象に苦しむことが少なくない。原因として、開始用量が患者毎の体表面積に関わらず一定であるため、往々にして過量投与になることが考えられる。対処法として薬を減量すると、用量不足によって効果が減弱することが懸念される。一方、近年開発された分子標的薬のいくつかについては、有効濃度域が不明であり、有害事象の制御が難しい。以上より、投薬法の最適化には、患者一人ひとりに対し、それぞれの薬物の「血中」濃度を測定することが必要である。しかし、臨床の現場では、迅速かつ簡便な測定法が確立していない。そこで本研究では、この困難な課題の解決の基盤となる方法を、従来の素材より安定した反応を示すダイヤモンド電極センサを介した電気化学的アプローチにより創出した。標的薬物として、分子標的薬であるイマチニブ、レンバチニブやパゾパニブ を選択した。ここでは、採取したモルモット血漿に濃度の異なる分子標的薬を単独で添加し、測定法を検証した。その結果、それぞれの臨床濃度域に対応しうる範囲を計測することが可能であった。測定自体は約35秒の短時間で可能であり、サンプル処理を含めても10分以内で全工程が完了した。本計測法を応用すれば、分子標的薬によるテーラーメイド治療が可能になると期待される。