生体医工学
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衝突噴流環境が血管内皮細胞へ及ぼす影響
沢崎 薫堀江 悠太中村 匡徳木村 直行川人 宏次坂元 尚哉
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2020 年 Annual58 巻 Abstract 号 p. 360

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抄録

大動脈弁狭窄によって噴流となった血流が上行大動脈壁に衝突するような現象が報告されている.このような血流環境と,大動脈拡大および解離発生との関係が指摘されているが,その関係の詳細は明らかになっていない.内皮細胞は血流による力学刺激に応じてその形態や機能を変化させることで血管の恒常性維持に重要な役割を果たしており,内皮細胞の損傷や剥離は大動脈疾患発症の原因となり得る.本研究では,内皮細胞層の維持や機械的刺激受容に深く関わる内皮細胞間の接着分子発現が,衝突噴流により変化し内皮細胞障害を引き起こすという仮説を立て,その検証を行った.大動脈内壁への衝突噴流を再現するフローチャンバを用いて培養内皮細胞に対して衝突噴流を負荷したのち,細胞間接着分子VE-cadherinおよびPECAM-1を免疫蛍光染色した.その結果,衝突噴流に曝された内皮細胞は壁せん断応力と法線方向動圧が高まる領域で部分的に剥離し,剥離せずに残った細胞ではPECAM-1の発現低下が認められた.一方,VE-cadherinの発現には変化はみられなかった.同程度の大きさの壁せん断応力のみに曝された内皮細胞は剥離しないことを別途確認しており,また,過去の研究においてPECAM-1の発現は流れ刺激によって増加することが報告されている.これらのことから,本研究結果は血管内皮細胞の細胞間接着分子発現は衝突噴流環境特有の影響を受ける可能性を示唆する.

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© 2020 社団法人日本生体医工学会
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