2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 237_1
手技療法(MT: manipulative therapy)とは、身体の筋骨格系の運動器に対して行う、揉む・押す・擦るなどの徒手的な「手当て」を指す。MT は局所筋血流の増加や筋緊張の緩和などを期待して広く利用されている一方で、それらの施術効果を術者と患者の両者が客観的に確認できる評価技術は少ない。本研究では、施術効果を定量的に評価するべく、首や肩の筋に自覚する損傷のない 37 名の若年成人を対象に熟練した柔道整復師による僧帽筋への5分間の MT を実施した。深層組織血流を非侵襲的に計測できる拡散相関分光法を用いて、施術を行う側(MT 側)、行わない側を対照側(非 MT 側)の局所筋血流速度、心拍数、平均動脈血圧、筋硬度の MT 前後の変化を検討した。MT 側では、MT 前と比較して MT 後に深層血流速度は 2.2 倍、表層血流速度は 2.1 倍に有意に増加し(p<0.01)、20 分間以上高値を維持した。一方、対照側では、深層血流速度は MT 前の 0.9 倍となり有意に減少した(p<0.05)。筋硬度は MT 側のみ有意に減少し(p<0.01)、MT 前の筋硬度が高いほど MTによる筋硬度の減少率が大きかった(r=-0.38, p<0.05)。また、MT 前後で平均動脈血圧は有意に減少したが(p<0.01)、心拍数には有意な変化は見られなかった。これらの結果は、MT が対象とする骨格筋の局所血流の増加と筋緊張の軽減をもたらすことを支持している。