2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 247_1
心疾患は世界の死因の大部分を占め健康寿命の短縮にも大きく寄与している.医学の進歩により一定の治療は達成されているものの未だ根治は難しく,新たな治療法の確立が必須である.そこで近年,ヒト多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた心臓モデルが,動物実験よりも有用な薬剤評価デバイスとして期待されている.このiPS細胞由来組織の実用化にあたり不可欠な要素が,心筋組織の成熟化及び成熟度の評価である.心臓の電気伝導は,組織の成熟に伴い速度が上昇し,カルシウムイメージングによりリアルタイム解析可能な評価指標である.先行研究では2次元組織を用いた速度解析が行われている.しかし,2次元組織での計測は①組織の生体模倣性が低く②多方向に電気信号が伝導するため複雑な解析が必要であるという課題があった.本研究では,マイクロファイバ状の心筋組織を用い,伝導方向を一方向に制御することで簡易に伝導速度を測定する方法を提案する.心筋組織をファイバ状に形成することで繊維を配向させ,より生体模倣性の高い組織を構築する.本報告では作製したファイバ状心筋組織の伝導速度をリアルタイムで計測することに成功し,培養2日目から5日目まで速度が毎日約50%ずつ上昇したことを確認した.加えて,電気刺激を用いた培養では,通常培養に比べさらに10%の速度上昇が確認され,成熟度を促進することに成功した.