2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 253_2
血中マンニトール注射などに伴う原尿の浸透圧上昇が急性腎臓病に関与することが報告されている.急性腎臓病が回復しない場合,更に慢性腎臓病へ移行することもあり,腎疾患発症・進行予防において,浸透圧変化に伴う発症メカニズム解明が必要である.我々はこれまでに,腎疾患発症に関与する尿細管上皮細胞の間葉転換が高浸透圧刺激により引き起こされる現象をこれまでに報告している.本研究では,高浸透圧による上皮細胞間葉転換メカニズムの解明を目的として,高浸透圧刺激による細胞の水チャネルを介した水移動と上皮細胞間葉転換の関係を検討した.培養近位尿細管上皮細胞(NRK-52E)に対して,マンニトールを含む培養液を用いて高浸透圧を負荷した.水チャネルであるアクアポリン阻害作用を持つ五苓散で予め処理した細胞も実験に用いた.蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡を用いた観察により,五苓散処理が高浸透圧刺激による尿細管上皮細胞の形状変化を抑制したことを確認した.また五苓散処理は高浸透圧刺激による細胞内カルシウムイオン流入の抑制,さらに上皮間葉転換マーカーの一つして知られるαSMA発現も抑制した.これらのことから,水チャネルを介した水の細胞外流出を伴う細胞形状変化が,高浸透圧刺激による尿細管上皮細胞の間葉転換を引き起こす原因になっている可能性が示唆された.