生体医工学
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Distal SINE発症機序解明に向けたステントグラフトの弾性的復元による大動脈壁内応力場の変化
師富 真吏岡村 誉氏原 嘉洋杉田 修啓中村 匡徳
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2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 299_2

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抄録

大動脈疾患の治療のため術野から挿入するステントグラフトのことをfrozen elephant trunk (FET) と呼ぶ.ステントグラフト留置術の合併症の1つとしてFET末端で新たに発症する大動脈解離(Distal SINE)がある.FETは外側の人工血管と内側の硬い金属骨格から成り,大動脈弓の湾曲に沿うように挿入されるが,術後遠隔期に真直に復元する様子が確認される.この弾性的復元により大動脈壁内応力が高くなるため,血管壁が裂傷し,Distal SINEが発症するという仮説を立てた.そこで本研究では,ステントグラフトの弾性的復元を考慮した大動脈壁内応力解析を行った.FETを模したステントグラフトモデルを大動脈モデルに挿入することでステントグラフト留置術後の大動脈を表現し,金属骨格部の弾性的復元を模擬したシミュレーションを行った.結果として,弾性的復元後にステントグラフト末端部の大動脈壁で局所的に高い応力が生じた.また,大動脈とステントグラフト間のはめ合い公差を変化させたところ,公差が大きいほど高い応力が発生する領域は大動脈壁内で大きくなった.以上の結果は仮説を支持するものであり,高い応力を原因として,大動脈壁が損傷・脆弱することで,Distal SINEが発症する可能性が示唆された.また,はめ合い公差が大きいほどDistal SINEの発症率が高まることが示唆された.

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© 2023 社団法人日本生体医工学会
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