2023 年 Annual61 巻 Proc 号 p. 370-372
骨伝導は伝音性難聴者用の補聴器や,騒音下でも利用可能なヘッドホンに用いられている.しかしながら,骨伝導デバイスには一方の耳に呈示した音が対側耳にも届く現象,即ち“クロストーク”が容易に生じるという問題がある.クロストークは音像定位や騒音下での会話理解の低下を招くことが知られており,対策が求められる.本研究では,2つの骨伝導振動子と加速度センサを使った,骨伝導音のクロストーク・キャンセリング手法の開発と検証に取り組んだ.一方の乳様突起上に設置した加速度センサによって,対側の振動子から到来するクロストークを計測した.また,同側の振動子から逆位相音を発生させることでクロストークの低減を図った.提案手法の有効性を検証するため,聴覚健常者7名において,対側からノイズ,同側から試験音を呈示した場合の聴覚閾計測を行い,その結果をクロストーク・キャンセリング有り/無しの2条件において比較した. クロストーク・キャンセリング無し条件と比べ,クロストーク・キャンセリング有り条件では,聴覚閾の改善が示された (250 Hz:p < 0.05,315 Hz, 397 Hz:p < 0.001).蝸牛からやや離れた乳様突起に設置した加速度センサの計測値を基に設計したにも関わらず,クロストーク・キャンセリングの効果が認められた (250 Hz:p < 0.05,315 Hz, 397 Hz:p < 0.001).この結果は,クロストークキャンリング技術を用いることで,骨伝導デバイスの性能改善が図れることを示している.