2024 年 Annual62 巻 Proc 号 p. 382-384
我々は赤外分光を用いた日常空間における非侵襲血糖値計測の実現を目指している。従来の赤外分光は、赤外光を照射した計測対象の反射光から成分情報を取得する。その中で、赤外光源の波長帯域により近赤外光と中赤外光を用いた手法に大別される。近赤外光は皮膚へ高い透過性を有している。しかし、この利点は成分吸収の微弱さを表しており、生体内のグルコースのような希薄な濃度の成分を取得することが困難である。また、水による光吸収が1.45µmを中心とした広帯域な近赤外波長帯に存在している。そのため、成分同定に必要なグルコースの吸収ピーク(@1.6µm)に独立性がなく、水分量の変動の影響が大きい。一方で、中赤外光(10µm近傍)においては顕著な光吸収現象を生じるとともに、成分ごとの吸収ピークの独立性が高い。しかし、照射する中赤外光が皮膚水分に吸収されるため深部領域からの光を取得することが困難となる。そこで、生体から放出される中赤外光を分光する中赤外パッシブ分光イメージングを提案する。本発表では、遠方からの手首のパッシブ分光計測から血糖値モニタリングの実現可能性を実証した結果について述べる。さらに、パッシブ分光においては放射光積算効果が希薄な濃度である生体内のグルコースを検出可能にしていると考えた。この放射光積算効果を簡単なモデル式で表し、希薄な濃度の成分検出において有利に働くことを実証した結果について述べる。