JSMD Review
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Print ISSN : 2432-7174
Unintended consequences of creativity in service organization
Makoto FujiiTakanori Seki
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2018 Volume 2 Issue 2 Pages 57-63

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Abstract

本稿では,サービス組織における現場従業員(Front-Line Employees:FLE)のクリエイティビティがもたらす負の側面について,探索的事例研究を行う。具体的には,塚田農場の事例を通じて,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別してしまうことで,企業が当初想定していたターゲットとの乖離が生じるという現象を「クリエイティビティの意図せざる結果」と概念化することで,クリエイティビティが引き起こす負の1つの側面を見出した。今後の研究の展望として,FLEのクリエイティビティを財務成果へと着実に結びつけるには,FLEのクリエイティビティがどのような局面において財務成果に正の影響を与えるのかを深耕していく研究が必要となることを提起した。

1  はじめに

顧客ニーズの変化や多様化が著しい現代において,サービス組織の現場従業員(Front-Line Employees:FLE)は 顧客から直にニーズや要望を収集することができ,それらに基づき新たなアイデアを生成することで,サービス品質や顧客満足(以下,CS),革新的な企業イメージなどに影響を与えることが指摘されてきた(Agnihotri, Rapp, Andzulis, & Gabler, 2014; Coelho, Augusto, & Lages, 2011; Dong, Liao, Chuang, Zhou, & Campbell. 2015; Oliver, 1997; Parasuraman, Zeithaml, & Berry, 1988; Stock, 2015; Stock, de Jong, & Zacharias, 2017)。

このように,FLEのクリエイティビティが成果にポジティブな影響を及ぼすことが指摘されてきた一方,クリエイティビティがもたらす負の側面についてはほとんど検討されてこなかった(Anderson, Potočnik, & Zhou, 2014)。クリエイティビティの負の側面がほとんど顧みられることがなかった理由として,我々は通常クリエイティビティを無条件に良いものとみなしてしまっていることが考えられる(Anderson et al., 2014)。

以上を踏まえ,本研究の課題を,「どのような条件において現場従業員のクリエイティビティは企業成果に負の影響を与えるのだろうか」と設定する。研究課題を明らかにすべく,本稿では,株式会社エー・ピーカンパニー(以下,AP社)が運営する塚田農場をケースとして取り上げ,サービス組織におけるFLEのクリエイティビティがもたらす負の側面について探索的事例研究を行う。結論を先取りすれば,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別することで,企業が想定していたターゲットの離反を招いた結果,既存店売上高が下落したのではないかという解釈を展開する。このように,本論文は,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別してしまうことで,企業が当初想定していたターゲットとの乖離が生じるという現象を「クリエイティビティの意図せざる結果」と概念化することで,クリエイティビティを無批判に迎合することに警鐘を鳴らすものである。

2  クリエイティビティ研究のオーバービュー1)

クリエイティビティとは,「組織にとって新規性があり,かつ潜在的に有用な製品や慣行,プロセス,手続きに関するアイデアの開発」と定義される(Amabile, 1988, 1996; Shalley, Zhou, & Oldham, 2004)。クリエイティビティは,アイデアの生成に関係する一方,イノベーションは,アイデアの実行に焦点を当てる(Anderson et al., 2014; Woodman, Sawyer, & Griffin, 1993)。そのため,クリエイティビティは組織におけるイノベーションの第一歩であり,競争優位につながることが指摘されてきた(Amabile, 1988; Anderson et al., 2014; Gong, Huang, & Farh, 2009; Wang & Netemeyer, 2004)。

組織行動論では,職場における個人のクリエイティビティに影響を与える先行要因について研究が行われてきた。クリエイティビティは真空状況で起こるのではなく社会的な状況において生じると考えられ,内発的モチベーションやパーソナリティといった個人要因と,リーダーシップや同僚との関係,仕事の自律性といった状況要因の関数として研究が蓄積されていった(Coelho & Augusto, 2010; Oldham & Cummings, 1996; Shalley et al., 2004)。組織行動論では,製造企業におけるR&D部門や研究所で働く従業員などを対象に数多くの研究が行われてきたが(Madjar & Ortiz-Walters, 2008),近年サービス組織のFLEを対象とした研究が精力的に行われるようになってきている(たとえば,Hur, Moon, & Jun, 2016; Lages & Piercy, 2012; Luoh, Tsaur, & Tang, 2014; Shin, Hur, & Oh, 2015; Slåtten & Mehmetoglu, 2011; Stock, 2015; Wilder, Collier, & Barnes, 2014)。

製造企業とサービス組織の文脈の主な違いとして,顧客と直接関わるかどうかという点が挙げられる。製造企業では,新規性の高い技術や特許を開発することで,組織に有用なアイデアをもたらすことが求められる。基本的に顧客と直に関わらず,組織内で完結することから,製造企業の従業員のクリエイティビティは直属の上司によって評価されることが多い(Shalley et al., 2004)。一方,サービス組織のFLEは顧客と直に接することから,クリエイティビティの評価主体は顧客となる(Stock et al., 2017)。

FLEを対象とする研究はサービスマーケティングと隣接するため,FLEのクリエイティビティがCSや顧客ロイヤルティといった顧客成果にどのような影響を与えるのかという研究が行われるようになってきている。例えば,Gilson, Mathieu, Shalley, and Ruddy(2005)は,クリエイティブなチーム環境がCSに正の影響を与えることを検証している。また,Dong et al.(2015)は,従業員のサービス・クリエイティビティがCSに正の影響を与えることを検証している。さらに,Stock et al.(2017)は,FLEの革新的サービス行動が顧客の歓喜を通じて顧客ロイヤルティに影響を与えることを検証している。

以上で概観してきたように,サービス組織のFLEのクリエイティビティは顧客成果にポジティブな影響をもたらすといった研究が行われてきた。しかしながら,冒頭に述べたように,先行研究では,FLEのクリエイティビティの負の側面はほとんど検討されてこなかった(Anderson et al., 2014)。

次章では,ケースに基づき,FLEのクリエイティビティがどのようなネガティブな影響をもたらしうるのかについて見ていくことにしよう。

3  ケース:AP社「塚田農場」2)

塚田農場を事例に選定した理由は以下の通りである。競合との差別化の要因であったはずのFLEのクリエイティビティが業績悪化を引き起こす一因となっていた。このことから,クリエイティビティの負の側面を探索するという研究目的に鑑み,適切な事例と考えられたからである。

AP社は,2012年9月に東京証券取引所マザーズに上場を果たしてからわずか1年で第一部に市場変更するなど,縮小を続ける居酒屋業界において破竹の勢いで成長を果たしてきたが,2014年5月以降,既存店売上高が前年同月比を48ヶ月連続で下回るなど曲がり角を迎えている。塚田農場は,宮崎県日南市・日向市,北海道新得町,鹿児島県霧島市という3つの地域の名前を冠した店舗があり,国内店舗数は2018年3月末時点で197店(直営)である。想定しているターゲットは30~40代であり,顧客単価は約4,000円である。

同社は2001年10月に設立して以来飲食店を経営してきたが,発展の契機となった塚田農場の出店を開始したのが2007年8月である。主な特徴は,以下の3点である。

① 垂直統合の仕組みの構築

同社は,「食のあるべき姿を追求する」というミッションの下で,垂直統合の仕組みを構築している。もっとも,当初からミッションがあった訳ではない。事業を始めた当初は,食肉販売業者から仕入れていたが,原価が高く低価格で提供することが困難だった(米山,2012)。そこで,高品質な食材を低価格で提供するべく,生産者に問い合わせ,直接仕入れを行った。しかし,生産者と関わるにつれ,生産現場で起こっていることや生産者のこだわり,苦労などを消費者に伝え,生産者・販売者・消費者のALL-WINの達成を目指すことが同社の存在意義であると認識するようになった。

以上のミッションを実現するため,2006年2月に自社養鶏場を宮崎県日南市に設立,2007年11月に加工センターを同市に建設するなど,食品の生産から流通,販売に至るプロセスを一貫して手がけるようになる。垂直統合の仕組みにより,地鶏専門店であれば顧客単価6,000~8,000円が相場であったところ,3,800円で提供可能となった。顧客に安全・安心・高品質な地鶏をリーズナブルに提供可能になったとともに,全量買い取ることで契約農家の安定収入につながり,後継者創出といった副次的な効果も出ているという。同社は居酒屋業界における6次産業モデルの先駆け的存在と評されている3)

② ユニークなポイントカード

同社は2011年から名刺に見立てたユニークなポイントカードを導入し,顧客の再来店を促す取り組みを行っている4)。初来店時に店舗名と接客したFLEの名前を入れてポイントカードを顧客に渡す。初来店時の肩書は主任であり,再来店すると課長に昇進し新たな名刺を受け取る。以降は部長,専務,社長,会長へと昇進していき,それぞれ昇進に必要となる来店回数は異なる。昇進する度にお祝いの品が贈られる,料理が無料になるなどのサービスが受けられるようになっている。ポイントカードは,FLEにとって会話のキッカケや接客時の話題にもなっており,それぞれ独自の接客トークを考案しコミュニケーションを行うことにより,顧客がFLEに対して親近感を持てるようになっている。つまり,ポイントカードは,新規顧客かリピーターなのかを判断する指標になるとともに,FLEが顧客に接客する上で潤滑油として機能するのである。ポイントカードは累計約860万枚発行されており,各店のリピート率は約10%上昇するなど,顧客の再来店を促す仕掛けと言える5)

③ FLEのクリエイティビティ

垂直統合の仕組みは重要だが,飲食業界において料理やポイントカードだけで差別化するのは難しい(米山,2012)。そこで重要となってくるのが,FLEのクリエイティビティである。同社のFLEは,生産者が想いを込めて作った食材を無駄にせず,一番美味しい状態で食べてもらいたいというミッションを顧客に伝えるという重要な役割を担っている。そのため,ミッションを実現するために,来店客1組につき400円以内でFLEが自由にサービスを企画・実行することが認められている6)。例えば,肉料理を注文した顧客に対し,ゆず胡椒やねぎポン酢を提供することで味の変化を楽しんでもらう。食べた後に残った鳥脂を利用し,ハート型のチャーハンを提供するなどである。これらのアイデアは約3,000~4,000種類あり,イントラネットでアルバイトを含む全従業員が共有している7)。チェーン展開する多くの企業では,マニュアル通りのサービスを行うことが求められる。それに対し,同社では,期待を超えるサービスの積み重ねが感動を引き起こし,再来店につながると考えている。FLEは自由な接客を認められることでモチベーションが高まり,最後まで美味しく食べてもらいたいという思いから積極的にアイデアを生成することで,顧客に驚きを与えることが可能となっている。このように,FLEは,生産者と消費者を繋ぐ結節点となっているのである。

垂直統合の仕組み,ユニークなポイントカード,FLEのクリエイティビティという3つの要素が歯車のように噛み合い,顧客ロイヤルティを高めることに成功していた。実際,同社のリピート率は約50%と居酒屋業界においては高い数字であるとされ,業績の安定化につながっている8)

居酒屋業界は9年連続で前年売上高を下回るなど逆風が吹きつける9)。その中で,2013年時点では,市場調査に基づき,国内における塚田農場の推定市場規模を350店と見定め,首都圏を中心に店舗網の拡大を推し進めようとしていた。店舗網拡大に向けて,メニューやサービスを強化するとともに,安定した地鶏生産体制を構築するために宮崎県,鹿児島県,新得町のそれぞれにおいて加工センターの増築を進めていった。また,市場が縮小し競争が激しくなる中,接客サービスが競争上のカギとなると考え,店舗網拡大に合わせて正社員の採用を増やすとともに,アルバイトへの教育にも力を入れていた‍10)。同社のビジネスに死角は見当たらないように見えた。

ところが,同社の雲行きに陰りが見え始めた。坂道を転がり落ちるかのように,2014年5月以降,既存店売上高が前年同月比で48ヶ月連続して下回っている。既存店売上高は顧客数と顧客単価の積と捉えられる。図1を見ると,顧客単価はそれほど変化していないことから,既存店売上高が低下している原因は顧客数の減少によるものであることがわかる。直近の3年間の既存店における平均リピート率は54.6%と,既存顧客には大きな変化は見受けられない。では,同社はどのような顧客が離反したと考えているのだろうか。

図1.

既存店売上高/顧客数/顧客単価前年同月比の推移

出所:AP社月次営業レポートに基づき筆者作成

同社社員は,「20代の従業員が増えて,自分が接しやすい同年代に対し熱心に接客した結果,それより上の年齢層のお客様が離れた」と語っている11)。また,米山久社長は,取材に対し,以下のようにコメントしている。

「ヘビーユーザーのお客様を満足させることに力を入れすぎて,女性やファミリーなど本来ターゲットになるはずのお客様が離れていった。サービスのテンションなど演出が行き過ぎていたのは反省材料だ」‍12)

つまり,同社は,離反した顧客層を従来ターゲットと想定していた30~40代のセグメントと考えているのである。

4  事例の考察

サービス組織のFLEがクリエイティビティを発揮するうえで必要となるのが,仕事の自律性である。仕事の自律性とは,「仕事のスケジュールやプロセスを従業員が自由に決定できる程度」と定義される(Coelho & Augusto, 2010)。仕事の自律性は内発的モチベーションを経由してクリエイティビティに影響を与える。また,Stock et al.(2017)は,情動的な仕事へのエンゲージメントがFLEのクリエイティビティを高め,それらが顧客の感動を引き起こし,ひいては顧客ロイヤルティをもたらすと主張している。同社は,モンテローザのような競合とは異なり,顧客に感動を与えるために必要となる権限をFLEに与えていた。それにより,FLEはクリエイティビティを発揮することで,顧客に感動を与え,CSやロイヤルティを高めていた 。Stock et al.(2017)の主張とそれほど大きな相違は見られないにもかかわらず,同社においてはなぜ想定していたターゲットが離反していったのだろうか。

想定していた顧客が離反するといったネガティブな帰結を迎えることになったのは,クリエイティビティを発揮する対象としての顧客の選別をFLEが自律的に行ってしまったためと推察される。

通常,飲食店における主なアルバイト人材は,大学生といった20~30代の若者である。FLEにとって,本来のターゲットではない20~30代の顧客は,自分たちと年齢が近いため,彼らが何を求め,どのようなことに満足するのかを理解しやすい。我々は,他者と対峙する際,最初に大まかな査定を行い自他の類似性を判断する。人は自分と似た性質(出自や経歴,価値観など)を持つ人に対して親近感を持ちやすく,中でも年齢は外部からの可視性が高い手がかりであると言える(唐沢,2010)。そのため,知覚された年齢の類似性は他者との相互作用に影響を与える(Gerlach, Rödiger, Stock, & Zacharias, 2016澁谷,2013)。このことは,上述の同社社員のコメントからも確認できる。

ところが,サービス・エンカウンターでは本来のターゲットである30~40代の顧客も存在しているため,それらの顧客は期待していたサービスを十分に享受できなくなる可能性が生じてくる。サービス・エンカウンターとは,「サービスの提供者と顧客とが相互作用する場」である(Solomon, Surprenant, Czepiel, & Gutman, 1985)。サービス・エンカウンターにおける他の顧客の存在は,サービスの成果に影響を与える(Langeard, Bateson, Lovelock, & Eiglier, 1981)。特に,レストランは他の顧客の影響が大きいサービスであるとされる(Zhang, Beatty, & Motherbaugh, 2010)。米山社長のコメントにあるように,特定の顧客を重視してクリエイティブなサービス提供を行ってしまうと,迅速に商品を提供するためのオペレーションに負荷がかかる。それらは顧客の不公平感や不満を生じさせることになる。その結果,本来のターゲットである30~40代の顧客にとって居心地の良くない環境と知覚され,次第に敬遠されるようになっていったのである(Bitner, 1992)。

すなわち,同社では,FLEに仕事の自律性を認めることで,クリエイティビティを促進させることに成功していたが,その一方で,FLEは,クリエイティブなサービスを提供する顧客までも自律的に選別してしまっていたと考えられるのである。その結果,FLEは,自分たちと類似している顧客の満足やロイヤルティを高めるべくクリエイティビティを発揮することで,企業が想定していたターゲットとの乖離が生じていったと考えられる。

このように,FLEがクリエイティビティを発揮することを期待して権限を与えると,クリエイティビティを発揮する可能性は高まる。しかし,権限は同時に顧客対応の自由度をFLEにもたらすことになり,クリエイティブなサービスを提供する顧客を個々人が選別してしまう恐れがある。人は情報処理を簡略化しようとする傾向があることから,我々の他者に対する判断はカテゴリー情報に依存して行われやすい(工藤,2010)。したがって,FLEは,年齢というカテゴリー情報に基づき,類似性を知覚しやすい顧客に対してはクリエイティブなサービスを積極的に行うため,CSやロイヤルティは高まる。一方,類似性を知覚しにくい顧客に対しては,そのようなサービスは行われにくくなるため,それらの顧客は不満を抱き,再来店意図を低下させてしまう。

つまり,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別することで,企業が当初想定していたターゲットとの乖離が生じる「クリエイティビティにおける意図せざる結果」が起こるのである。

5  おわりに

本稿では,サービス組織におけるFLEのクリエイティビティがもたらす負の側面について探索的事例研究を行った。先行研究では,職場における個人のクリエイティビティを促進(阻害)する先行要因やクリエイティビティが顧客成果に与える影響などが研究されてきたが,クリエイティビティの負の側面についてはほとんど議論されておらず,概念的な指摘にとどまっていた(Anderson et al., 2014)。それに対し,本研究は,塚田農場の事例を通じて,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別してしまうことで,企業が当初想定していたターゲットとの乖離が生じるという現象を「クリエイティビティの意図せざる結果」と概念化することで,クリエイティビティが引き起こす負の1つの側面を見出した研究と位置づけられる。

本研究の理論的含意として,クリエイティビティが企業にもたらす影響を冷静に見極める必要があることが示唆される。三品(2004)は,従業員が会社のために良かれと思って現場の知恵を働かせることで,意図せずして会社に損害をもたらすことがあると指摘する。Gong, Zhou, and Chang(2013)は,リスクネス志向が高い時および企業の規模が大きい時,従業員のクリエイティビティと企業の成果の関係はそれぞれネガティブに調整されることを明らかにしている。これらの研究は製造企業を対象としたものではあるが,個人のクリエイティビティが企業の成果に負の影響を与えるという構図を本研究と共有していると言える。

組織行動論では,FLEのクリエイティビティをいかに促進するかということに焦点が向けられてきた(Anderson et al., 2014; Shalley et al., 2004)。しかし,クリエイティビティをマーケティング研究の文脈に位置づけようとするのであれば,FLEがクリエイティビティを単に発揮するだけでは不十分であると言える。今後の展望として,FLEのクリエイティビティがどのような局面において財務成果に正の影響を与えるのかを深耕していく研究が必要となってくる。

本研究は類似性の程度によりFLEのクリエイティブなサービスに差異があるかどうかについて,店舗での参与観察を行っていないという限界を抱えているものの,探索的な事例研究に基づき,以上のような問題提起を行った点で,一定の貢献をしたと言える。

1)  クリエイティビティ研究の詳細なレビューは,藤井・関(2017)を参照。

2)  以下のケースは,特に断りがない限り,同社ホームページに掲載されている情報に基づいて記述している。その他の二次資料については,適宜脚注に示す。

6)  同社がFLEに自由な接客を認めているのは,客層分析から販促媒体はクチコミに劣っており,また安易に割引するより,割引に相当する分をFLEに使わせた方が顧客も喜ぶと考えているからである(米山,2012)。

8)  鳥貴族やワタミはリピート率を公表していない中で,顧客の再来店をゴールと定めているのは1つの特徴である(米山,2012)。

9)  一般社団法人日本フードサービス協会『平成29年外食産業市場動向調査』

10)  例えば,新人アルバイトにイントラネット内の「お客さまが必ず喜んでくれるサービス」を実践させることで,自律的な接客のやりがいに気づかせるといったことである(2013年5月22日,『日経MJ』2015年9月1日,『ダイヤモンド・チェーンストア』)。

11)  2018年3月15日東洋経済オンライン。

12)  2018年3月15日東洋経済オンライン。これを裏付ける1つの証拠として,同社の接客時間は7~8分であったのに対し,競合チェーンは2~3分であったという(2016年1月23日,『週刊ダイヤモンド』)。

謝辞

本稿の執筆にあたり,近藤公彦編集委員長と2名の編集委員の先生方から大変有益なコメントをいただきました。ここに記して御礼申し上げます。

参考文献
 
© 2018 Japan Society of Marketing and Distribution
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