JSMD Review
Online ISSN : 2432-6992
Print ISSN : 2432-7174
Selling services in servitization
Towako Sakama
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2019 Volume 3 Issue 1 Pages 19-25

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Abstract

本稿は,価値ベース販売という概念に注目し,製造業のサービス販売における,価値ベース販売とサービス品質,関係的価値,行動意図の関係性を検証していくことを目的とする。本稿の発見事項は,価値ベース販売はサービス品質を介して関係的価値へ間接的に,関係的価値は行動意図へ直接的に影響することである。本稿は,製造業のサービス販売において価値ベース販売が有効であることを主張している。

1  はじめに

製造業において発展的なサービスは競争優位の源泉として捉えられている(Baines et al., 2009Windahl & Lakemond, 2010)。発展的なサービスとは製品に付加的なサービスであり(Baines et al., 2009Vandermerwe & Rada, 1988),顧客に価値を生み出すようなものである。製造業者はこの発展的なサービスをますます重要視しており,開発・販売に取り組んでいる。この現象はサービタイゼーションとも呼ばれている。

しかしながら,サービタイゼーションにおいて問題が生じている。製造業者はどのようにサービスを販売すればよいかという問題に直面している。製造業者にとってサービスはもともと補足的な役割としてみなされている(Chuningham & Roberts, 1974Banting, 1984Kyj, 1987Simon, 1992)。したがって,製造業においてサービスを販売する方法は特殊である。営業担当者がサービスをよく理解できていない場合も多く見受けられる。また,顧客側も類似的なサービスが存在しないため,発展的なサービスの価値を測定することが難しく,結果購入に至らないということが起きている。製造業者がサービス化に移行する中で,この問題は解決される必要がある。しかしながら,製造業者がサービスをどのように販売すればよいかについての研究はほとんどない。

そこで本稿は,価値ベース販売という概念に注目する。この概念は顧客の価値を重要視しながら販売活動を行うというものである。この概念の導入は,製造業にとって,上述の問題の解決につながる可能性があると考えられる。

本稿は,製造業における価値ベース販売,サービス品質,関係的価値,行動意図の関係性を検証していくことを目的とする。本稿の構成は次の通りである。第2節では先行研究をレビューする。第3節では仮説を構築する。第4節では調査概要について説明する。第5節では仮説を検証する。最後に,本稿のインプリケーションを提示し,今後の課題について論じる。

2  先行研究のレビュー

2.1  サービス品質

サービス品質とは,パフォーマンスの優秀さに関する判断として定義される(Oliver, 1997)。本稿はBtoB取引とりわけ製造業におけるサービス品質の測定尺度に焦点を当てていく。先行研究では,製造業におけるサービス品質は統一された測定尺度がないまま議論されてきている(Homburg & Rudolp, 2001Čater & Čater, 2009Ulaga & Eggert, 2006a)。そして,それらの測定尺度はサービタイゼーションにおけるサービスを反映しているとは言い難い。そこで,本稿はGebauer, Edvardsson, Gustafsson and Witell(2010)が提示するサービスを基本として,特にサービタイゼーションでより関連の深い基本設置基盤に対するサービスについて注目し,サービス品質の尺度を測定していくこととする。彼らは基本設置基盤に対するサービスとして,トレーニングやヘルプデスク,調査サービス,診断サービス,修理サービスを挙げている。

2.2  関係的価値

本稿における関係的価値とは,製品とサービスからだけでなく,企業間の関係性からも得られる便益と払った犠牲のトレードオフとしての価値概念のことを指す(Ulaga, 2003Ulaga & Eggert, 2006a, 2006bRitter & Walter, 2012)。この価値概念はリレーションシップ・マーケティングの考え方から価値を捉えている。製品とサービスから得られる便益と払った犠牲のトレードオフという概念と対比的な概念である。本稿では,サービタイゼーションにおいて顧客と製造業者の関係性はより深まるため,製品とサービスからだけでなく,企業間の関係性からも得られる便益と払った犠牲のトレードオフとしての価値概念を関係的価値として捉え,概念モデルを構築していく。

知覚価値研究では,価値の次元(Patterson & Spreng, 1997Lapierre, Filiatrault & Chebat., 1999; Kumar & Grisaffe, 2004Lapierre, 2000Whittaker, Ledden & Kalafatis, 2007),価値の形成(Ulaga & Eggert, 2006aGuenzi & Troilo, 2007Lapierre, 2000Liu, Leach & Bernhardt, 2005Blocker, 2011Ritter & Walter, 2012)などについて議論されてきている。一方で,価値ベース販売についての検討に関する議論は不足している。

2.3  行動意図

行動意図は維持のシグナルまたは観測できる望ましさと定義される(Zeithaml, Berry & Parasuraman, 1996)。ほとんどの先行研究では,行動意図は2つの測定尺度が用いられている。一つは,提供者との関係を続ける顧客の可能性で,もう一つは,推薦したいかという気持ちである(Dick & Basu, 1994Johnson, Herrmann & Huber, 2006)。

BtoB取引の分野では,Williams, Khana, Ashilla and Naumann(2011)はBtoB取引における行動意図として,好んでいるわけではないにもかかわらず反復的に選択するという見せかけのロイヤルティではなく,意志を持って行動をとるという実際のロイヤルティを捉えることを試みている。彼らは,関係性を続ける可能性と製品・サービスの更新の意図を測定尺度として用いている。本稿もこれを基に測定尺度を作成していく。

2.4  価値ベース販売

価値ベース販売とは,Terho, Haas, Eggert & Ulaga(2012)により,顧客のビジネスモデルに対する深い理解に基づいて,顧客の利益に対する営業担当者の貢献を納得のいくように提示しながら,便益を金銭的な表示に変えるような方法で市場の提供物を作るために顧客と共に営業担当者が行う仕事の程度と定義されている。価値ベース販売は,営業担当者が価値ベースのマーケティングを行うことであり(Terho et al., 2012),BtoB取引において営業担当者が顧客と一緒に働く必要性を主張している(Terho, Eggert, Ulaga, Haas & Böhm, 2017)。この概念は,BtoB取引において企業が価値志向の実践を試みていることに注目して生まれた概念である。

3  仮説と概念モデル

3.1  価値ベース販売,サービス品質,関係的価値

本節では仮説を構築し,概念モデルを提示する。まず,価値ベース販売とサービス品質には関連があると考えられる。サービスの性質としては触れないことが挙げられる。事前にサービスの品質を理解することは難しく,サービスを購買後に利用し,その品質を知覚することができる。特に,サービタイゼーションにおいては製造業者が提供するサービスということでその性質はさらに特殊になる。提供されるサービスは,従来のようなアフターサービスだけではなく,予防保守サービスやIoTサービスなど今まで顧客が利用したことがないサービスも含まれる。そこで,製造業者がサービスを販売する場合,サービスの利用者である顧客が得られる価値を彼らに対してより明確に説明する必要がある。これは価値ベース販売を行うということである。製造業者が価値ベース販売を行うことで,顧客はサービスの価値を納得してから利用することができる。その結果,顧客によるサービス品質の評価は高まると考えられる。

次に,サービス品質と関係的価値についてである。知覚価値研究においては,サービス品質が高まれば,関係的価値も高まると捉えられている(Ulaga & Eggert, 2006a)。サービタイゼーションにおいて,提供されるサービスは修理などの単純なアフターサービスだけではなく,顧客の活動をサポートするようなサービスである(Mathieu, 2001)。このような発展的なサービスを利用することで,顧客は業務の効率を高めることができ,他社と比較しても提供者である製造業者の存在感は増していくことが想定できる。したがって,以下のような仮説を提示する。

 

仮説1:サービス品質は価値ベース販売と関係的価値の関係性を媒介する。

3.2  関係的価値と行動意図

先行研究では知覚価値は行動意図に影響すると考えられている(Molinari, Abratt & Dion, 2008)。製品やサービスから得られる便益だけでなく,関係性から得られる便益や他社と比較したときに得られる便益が高ければ,顧客は今後も関係性を続けていくという意思を示すと考えられる。サービタイゼーションでは,顧客のニーズを詳細に把握し,戦略的にサービスを開発する。さらに,サービスの提供後も機器から情報を収集し,機器を利用しながらサービスの質を向上させていくという性質がある。したがって,製造業者と顧客との関係性は深まり,関係的な便益は高まっていく。特に,BtoB取引には合理性という性質があり(Williams, Khana, Ashilla & Naumann, 2011),便益が価格に見合っているかどうかという意識が高い。関係的価値を高めていくということは顧客との今後の取引を続けていけるかどうかという問題に大きな影響を与えることが推測される。したがって,以下のような仮説が導かれる。

 

仮説2:関係的価値は行動意図に正の影響を与える。

そして,本稿の概念モデルは,図1の通りである。

図1.

本稿で提案する概念モデル

4  調査方法

4.1  分析方法

本稿の目的は,製造業において,価値ベース販売,サービス品質,関係的価値,行動意図の関係性を明らかにすることである。そのことを明らかにするため,二段階の分析を行っている。まず,本稿で用いる因子の構造を確認するため,確認的因子分析を行った。次に,構造方程式モデリングを用いて仮説の検証を行っている。

4.2  データ

まず,郵送によるアンケート調査を行った。実施期間は2018年7月~9月である。次に,アンケートの回答者は,日本の製造業における東証一部上場企業の経営企画部門長と営業部門長を対象とした。アンケートは920票配付された。有効回答者数は48票,回収率は5.2%であった。回収されたデータは製造業の機械分野に属する企業から得ている。

4.3  測定尺度

アンケートの回答者は,過去5年間で回答者が購入した基本設置基盤サービスに関わるサービスやそのサービスを購買した製造業者に関する質問事項に答えている。質問事項は,先行研究を基に操作化された。価値ベース販売の質問事項は3項目である。これらはTerho et al.(2015)の尺度に基づいて作成された。サービス品質の質問事項は4項目である。これらはGebauer et al.(2010)の尺度に基づいて作成された。関係的価値の質問事項は3項目である。これらはRitter and Walter(2012)の尺度に基づいて作成された。行動意図の質問事項は3項目である。これらはWilliams et al.(2011)の尺度に基づいて作成された。また,いずれの質問項目も7段階の測定尺度(まったくそう思わない[1]-まったくそう思う[7])で測定された。

5  分析結果

5.1  確認的因子分析

価値ベース販売の3項目,サービス品質の4項目,関係的価値の3項目,行動意図の3項目について,確認的因子分析を行った。その結果,それぞれの変数は一次元であることを確認した。信頼性を示すクロンバックのα係数は,全ての構成概念について0.80以上の値であり,0.70以上という推奨値を満たしていた(Nunnally, 1978)。

また,収束妥当性を示す平均分散抽出度(AVE)は,価値ベース販売,サービス品質,関係的価値,行動意図について0.65以上の値であり,0.50以上という 推奨値を満たしていた(Bagozzi & Yi, 1988)。

弁別妥当性に関しては,因子間相関係数とAVEの平方を比較した。その結果,因子間相関係数よりAVEの平方が大きいという結果を得た。先行研究で主張される因子間相関係数とAVEの平方を比較して,AVEの平方が大きいという条件を満たしている(Hair, Anderson, Tatham & Black, 1998Fornell & Larcker, 1981)。

次に,コモン・メソッド・バリアンス・バイアスのテストを行った(Podsakoff & Organ, 1986)。Harmanのsingle factor testを採用し,無回転の主因子法分析を行った。single factorモデルの適合性は,測定モデルと比べてよくないという結果を得た。したがって,本稿において,コモン・メソッド・バリアンス・バイアスは大きな脅威ではないことが確認された。

表1. 記述統計と相関係数
変数 平均 標準偏差 1 2 3 4
1.サービス品質 18.49 3.715 0.824
2.価値ベース販売 12.82 3.037 0.434 0.932
3.関係的価値 15.16 3.047 0.52 0.45 0.938
4.行動意図 13.62 3.114 0.354 0.407 0.706 0.875
表2. 測定尺度
構成概念 因子負荷量 AVE α CR
サービス
品質
その取引先が提供している予防保守サービスの品質は高い 0.874 0.679 0.84 0.893
その取引先が提供しているIoTサービスの品質は高い 0.629
その取引先の技術担当者による点検(保守契約点検/有償点検)の内容(品質)は良い 0.874
保守契約の内容や条件は,貴社の期待しているものである 0.891
価値ベース
販売
その取引先は貴社へその取引先のサービスを使用することで得られる経済的な影響を積極的に提示している 0.915 0.869 0.924 0.952
その取引先は貴社のパフォーマンスを改善するために必要なサービスを提案している 0.941
その取引先は貴社の業績を改善するようなサービスを提案している 0.94
関係的価値 その取引先とお付き合いいただく上で発生する費用(取引額)に見合うメリットが貴社にある 0. 913 0.879 0.931 0.956
その取引先との関係は,候補先(他社)と比較した場合,貴社にメリットがある 0.95
その取引先とのお付き合いは,貴社にとって総合的なメリットがある 0.948
行動意図 次回,製品やサービスの更新時にもまたその取引先を選ぶ 0.906 0.765 0.849 0.907
使用している製品やサービスとは違う分野のその取引先の製品やサービスを導入したい 0.958
他の企業様等からアドバイスを求められたらその取引先を推薦する 0.86

5.2  仮説検証

本稿では,PLS-SEM分析(Ringle, Wende & Will, 2005)を採用した。この分析方法は,構成概念同士の関係性を推定するために用いられた(Fornell & Larcker, 1981)。また,サンプルサイズが200以下の場合により適している(Chin et al., 2003)。PLS分析そして仮説の検証のため,ソフトウェアであるSmartPLS 3.0を使用した。

はじめに,仮説1を検証した。ブートストラップ法(B = 5000)を用いて,検証を行った結果,価値ベース販売はサービス品質に正の影響を与えていた(β = 0.487,p < 0.05)。サービス品質は関係的価値に正の影響を与えていた(β = 0.482,p < 0.001)。そして,媒介分析を行い間接効果の信頼区間を検討した(Shrout & Bolger, 2002MacKinnon, Lockwood & Williams, 2004)。その結果,サービス品質の間接効果は有意となった(β = 0.235,p < 0.05)。このため仮説1は支持された。また,価値ベース販売は関係的価値に直接影響を与えていた(β = 0.227,p < 0.05)。

次に,仮説2の検証を行った。関係的価値は行動意図に正の影響を与えていたため(β = 0.677,p < 0.001),仮説2は支持された。

5.3  考察

本節では分析結果について考察していく。まず仮説1である価値ベース販売,サービス品質,関係的価値の関係性についてである。分析の結果,価値ベース販売はサービス品質を介して関係的価値に正の影響を与えていた。このことは製造業のサービス販売において,価値ベース販売はサービス品質を高め,そして関係的価値を高めるということである。すなわち,製造業者がサービスを販売する際に,そのサービスを顧客が利用することでどのような価値が得られるかを説明することは関係的価値を高めることにつながる。

これらの結果からわかることは,サービス販売において価値ベース販売は有効であり,価値ベース販売は価値を高める要因であるといえる。サービスの価値を知覚してもらうことが難しいという状況において,価値ベース販売はその問題を解決しうる鍵となる価値を高める要因となるだろう。

次に仮説2についてである。関係的価値は行動意図に正の影響を与えており,仮説2は支持された。製造業においても顧客は価値が高いと認識した場合,関係性や取引を継続しようと考えることが明らかとなった。

6  結論

本稿では,製造業における価値ベース販売,サービス品質,関係的価値,行動意図の関係性を検証した。価値ベース販売はサービス品質を介して関係的価値へ正の影響を与えており,関係的価値もまた行動意図に対して正の影響を与えることが明らかとなった。

本稿は,知覚価値研究へ貢献した。本稿の学術的インプリケーションは以下の二点である。第一に,BtoB取引とりわけ製造業において顧客が知覚する価値ベース販売,サービス品質,関係的価値,行動意図について議論し,その関係性への理解を深めたことである。特に,知覚価値研究において価値ベース販売についての検討や,価値ベース販売,サービス品質,関係的価値,行動意図の関係性に関する議論は不足していた。本稿の貢献は,製造業において価値ベース販売という概念に注目し,価値ベース販売,サービス品質,関係的価値,行動意図の関係性を明らかにしたことである。

第二に,本稿では製造業のサービス化における価値ベース販売の重要性を定量的に明らかにしたことである。本稿は,分析の結果を受けて,製造業のサービス化における価値ベース販売の重要性を強調する。

次に,実務的インプリケーションを記す。本稿の実務的インプリケーションは,価値ベース販売の有効性といえる。本稿では,価値ベース販売はサービス品質を介して関係的価値に正の影響を与え,関係的価値は行動意図に正の影響を与えていることがわかった。このことは製造業のサービス化における発展的サービスの販売において,価値ベース販売という販売の方法が製造業者にとって有効であるということを意味する。したがって,製造業者が発展的サービスを販売する際に価値ベース販売を実践するべきである。すなわち,顧客がそのサービスを利用することでどのような価値が得られるかを丁寧かつ詳細に説明し,納得させるということである。しかしながら,本稿の実務的インプリケーションはサンプルが少数であるため限定的なものであるといえる。

最後に残された課題が存在する。一つ目は,サンプル数である。今後はサンプル数を増やして分析する必要がある。二つ目は,本調査は日本で行っている。今後は国を変えて,価値ベース販売の有効性を議論する必要性がある。

謝辞

本稿の執筆にあたり,近藤公彦編集長と匿名レフェリーの先生方より大変貴重なコメントを頂戴致しました。ここに記して,感謝申し上げます。

参考文献
 
© 2019 Japan Society of Marketing and Distribution
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