JSMD Review
Online ISSN : 2432-6992
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Media effect in Marketing Communications
Kwon SoonHo
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2020 Volume 4 Issue 1 Pages 9-16

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Abstract

企業は消費者とのコミュニケーションにおいて,メッセージを伝えるために何等かの媒体を用いているが,近年は紙媒体や電子媒体など,より多様な媒体を活用するようになってきている。消費者が媒体から受ける影響についての先行研究では,同じメッセージでも媒体によって消費者が異なる反応を示すことが指摘されてきた。本稿は,媒体が消費者の及ぼす影響とその影響要因を抽出することで,今後の研究に向けて検討すべき要素を示した。その結果,媒体は消費者の「記憶想起」,「態度」,「行動」の3つの側面に影響を及ぼすことが確認された。また,媒体効果が生じる影響原因として,媒体側の要因(操作方法やレイアウトの違い)と消費者側の要因(年齢,使用経験,デジタルリテラシーなど)が見出された。今後の研究課題としては,「影響要因間の相関関係」,「研究結果の不一致」,「媒体の組合せによる効果」を示した。

1  はじめに

書籍の場合,内容が同じであっても媒体(紙/電子)によって書籍への評価が異なる(Liang & Qiu, 2017)。このように,消費者は形のある商品(有形)の方がデジタル(無形)の商品より価値のあるものであると判断する傾向がある(Atasoy & Morewedge, 2018Petrelli & Whittaker, 2010)。商品評価のみならず,コミュニケーションの媒体によっても異なる反応を示す。例えば,ダイレクトメール(以下,DM)の場合,送付する媒体によって開封率や手元に残す保持率が変化する(外川他,2018),送られてきたDMの媒体よって価値評価が変化する(石井他,2018)などが示されており,実務においても同様の影響が観察されている(United States Postal Service, 2017)。

媒体(紙媒体/電子媒体)から受ける影響については,人間コンピューター相互作用(human-computer interaction,以下,HCI)や教育学の分野を中心として認知的な側面の変化に注目した研究がなされている(Delgado, Vargas, Ackerman, & Salmerón, 2018Hou, Rashid, & Min, 2017Neijens & Voorveld, 2016)。このような媒体の比較研究では,電子モニターやパーソナルコンピューター(以下,PC)などの電子媒体の普及が始まった1980年代以降,従来からの紙媒体と新しく登場した電子媒体が学習効果などの認知的側面に与える影響に焦点が当てられていた。初期の研究は媒体による学習成果の変化(e.g., 記憶想起率)や文章を読む速度の変化などに注目していたが(Askwall, 1985Jacoby, Hoyer, & Zimmer, 1983Muter, Latremouille, & Treurniet, 1982),これらの研究において媒体効果は機械そのものの性能(電子媒体の画面のちらつき,解像度など)に起因するものであると指摘されてきた。

その後,電子媒体の性能が大幅に改善された2000年以降の研究においては媒体効果が見られなかったという報告もあるが(Margolin, Driscoll, & Toland, 2013Rockinson-Szapkiw, Courduff, Carter, & Bennett, 2013),依然として媒体効果が確認されたとの報告も多くみられている(Hou et al., 2017Jones, Pentecost, & Requena, 2005Magee, 2013)。

マーケティング研究分野における紙媒体と電子媒体の比較研究は1990年代より広告研究を中心に発展してきた。初期の研究は主に広告の内容やブランド名などに対する記憶想起や広告に対する態度の変化といった従属変数に注目していた(Gallagher, Foster, & Parsons, 2001aGallagher, Parsons, & Dale, 2001bJones et al., 2005Sundar, Narayan, Obregon, & Uppal, 1998)。しかし,近年では広告のみならず,クーポン,雑誌,DMなど様々なマーケティング・コミュニケーションの場面における媒体効果に焦点が当てられている。具体的には,媒体への選好(Ieva & Ziliani, 2017Krishen, Kachen, Kraussman, & Haniff, 2016),雑誌記事の記憶想起および雑誌媒体への選好(Magee, 2013)やクーポン付きDMの反応率の測定(外川他,2018平木他,2018石井他,2018),さらには2つの媒体の組合せによるシナジー効果(Naik & Peters, 2009Schwaiger, Cannon, & Numberger, 2010Wakolbinger, Denk, & Oberecker, 2009)などと研究対象が多様化してきている。

しかし,これらの先行研究において,媒体効果が生じるメカニズムまで踏み込んだ包括的な議論は行われていない。同時に,一部の先行研究で見られている結果の不一致における要因についても議論されてこなかった。そこで本稿は,媒体効果に関する先行研究の潮流を整理することで媒体効果における影響要因を抽出し,研究結果の不一致について考察することを試みた。その結果,先行研究は「記憶想起」,「態度」,「行動」という3つの視点から媒体効果の研究成果を整理した。そのうえ,上述した3つの側面のそれぞれに媒体効果が生じる要因を抽出した。その際に,媒体効果の影響要因を1)媒体側の要因,2)消費者側の要因の2つに分けて,それぞれの要因が媒体効果に及ぼす影響について議論を進めた。そして,今後の研究上の課題について検討した。

2  マーケティング・コミュニケーションにおける媒体効果

2.1  消費者の記憶想起における媒体効果

第1章で取り上げたように,学習場面において媒体が持つ特性が使用者の認知的側面に及ぼす影響を中心として議論が行われているが,マーケティング研究においては消費者とのコミュニケーション手段として媒体が持つ影響に注目が集まっている。その中の一つは,広告メッセージやブランド名に対する記憶想起への影響など,認知的側面の変化に焦点を当てた研究である。

Sundar et al.(1998)は媒体(紙媒体/電子媒体)がメッセージ(説得的/非説得的)の記憶想起に及ぼす影響に注目し,記憶(memory),再生(recall),再認(recognition)の3つの従属変数を取り上げ,広告メッセージの内容想起において記憶と再認に媒体の影響(紙媒体>電子媒体)があることを確認した。このSundarらの研究を発端として,Gallagher et al.(2001a)は2つの媒体を用いて,新聞記事(非説得的メッセージ)とその中に埋め込まれている広告(説得的メッセージ)が提示された場合における媒体の影響を調査している。その結果,紙媒体が広告メッセージの想起を高めるなど,情報処理過程に影響を及ぼすことが示された。

その後,Gallagher et al.(2001a)の実験参加者の全員が大学生という偏りがあったことから,媒体の使用経験の違いによる影響を確認するため追試が行われた(Gallagher et al., 2001b)。追試では実験参加者を成人のみとし,電子媒体使用経験についてもデータを収集した。その結果,前回と手順や刺激は全く同じであったものの,研究結果が再現できず,媒体の使用経験が媒体から受ける影響を調整している可能性が示唆された。

さらには,Jones et al.(2005)は媒体が消費者の好ましい反応を呼び起こすメカニズムを明らかにするため,媒体(紙/電子)とメッセージ(説得的/非説得的)が消費者の記憶想起に及ぼす影響を測定した。メッセージに関わらず,広告の主張と広告の中に記載されていたブランド名の想起において紙媒体が電子媒体よりも自由再生を高めることが確認されたが,再認については媒体の影響が見られなかった。

近年では,眼球運動記録装置(video oculographic recording systmes)やアイトラッキング,脳波記録(electroencephalography, EEG)の測定による脳科学の観点から広告における媒体効果の解明が試みられている(Ciceri, Russo, Songa, Gabrielli, & Clement, 2019)。実験では3グループ(紙/Web/タブレット)のそれぞれに広告を見せた後,注視(Fixation)した時間や広告内容の想起を測定した。その結果,広告を注視した時間は紙とタブレットがWeb条件より長く,記憶想起においてはタブレット条件がWeb条件より高く紙とタブレットの間には差が見られなかった。

また,広告のような説得的メッセージのみならず,雑誌(大学の同窓会誌)の記事においても紙媒体が電子媒体よりも記憶想起を高めることが確認されており(Magee, 2013),非説得的メッセージにおいても同様の媒体効果が見られた。さらには,クーポンにおいても情報処理の動機が高い消費者の場合は紙媒体が電子媒体よりも製品評価に対する情報処理をより精緻に行うことが示された(Suri, Swaminathan, & Monroe, 2004)。

以上の議論から,説得的メッセージ(広告),非説得的メッセージ(記事),クーポンのそれぞれにおいて,紙媒体が電子媒体より記憶想起を高めることが確認された。また,学習場面における媒体効果,とりわけ記憶想起の媒体比較研究でも同様の結果が得られており(Mangen, Walgermo, & Brønnick, 2013Neijens & Voorveld, 2016Noyes & Garland, 2003),学際的な研究結果と比較しても情報処理の側面,特に記憶想起においては紙媒体が効果的であることが言えるだろう。

しかし,近年の研究では記憶想起率に対して媒体間に差が見られなかったという報告も出てきており(Ciceri et al., 2019Ieva, Ziliani, Gázquez-Abad, & D’attoma, 2018Porion, Aparicio, Megalakaki, Robert, & Baccino, 2016Rockinson-Szapkiw et al., 2013),従来の研究結果との矛盾が見られている。

このような矛盾が生じる要因の一つとして,消費者の電子媒体の使用経験が注目されている(Neijens & Voorveld, 2016Rockinson-Szapkiw et al., 2013)。電子媒体の普及に伴い,使用経験が豊富な消費者が増えてきているため,電子媒体の可読性問題が消費者の使用経験により緩和され,紙媒体と同程度の情報処理ができるようになるということが議論されている。また,情報処理の動機による影響についても議論されている(Ieva & Ziliani, 2017Suri et al., 2004)。媒体のメッセージが消費者にとって重要度の高いメッセージ(金銭的インセンティブや商品注文カタログなど)の場合は紙媒体が記憶想起に影響するが,比較的に重要度が低いとされるメッセージに対しては媒体間に差がみられないと指摘されている。

2.2  消費者の態度における媒体効果

媒体(紙媒体/電子媒体)が消費者の態度に及ぼす影響については,主に商品の価値評価(e.g., 支払意思額)への影響,広告の評価に及ぼす影響,媒体そのものに対する選好の3つの側面に焦点が当てられている。

Cheng and Qiu(2018)は,書籍の場合,その制作過程(校正段階の原稿)を知覚させることによって電子書籍の知覚価値(支払意思額)を高められることを示している。具体的には,電子書籍の場合,支払意思額は手がかりなしの場合(11$)とありの場合(23.7$)で有意な差が見られたものの,紙の本では労力を知覚させる手がかりの有無に影響を受けず,電子媒体の場合には製品にかかった労力を知覚させる手がかりを提示することで知覚価値(支払意思額)を高められることが示唆された。

また,媒体が広告への態度に及ぼす影響についても研究がなされているが,広告の表示媒体と構成(線形/非線形)に関わらず,媒体間に広告評価の差は見られなかった(Gallagher et al., 2001aParsons, Gallagher, & Foster, 2000)。さらに,二つの媒体を組み合わせた時の広告に対する消費者の態度の変化に注目している研究もあるが,組合せによる態度への影響は確認されていない(Dijkstra, Buijtels, & van Raaij, 2005)。

一方で,媒体への選好についても注目されている(Bezjian-Avery, Calder, & Iacobucci, 1998Foasberg, 2014Kim & Joan, 2013Smart, Whiting, & Detienne, 2001)。Krishen et al.(2016)は媒体に対する態度(選好と知覚価値)について大学生を対象に調査を行っており,紙媒体は電子媒体よりも知覚価値(e.g., 価格に見合う読み物である,一貫した品質を持っている),快楽的価値,選好に対する評価が高く,紙媒体への高い選好が示された。また,雑誌の媒体に対する選択意向についても紙媒体が選ばれやすいことが見出された(Magee, 2013)。さらに,Ieva and Ziliani(2017)はマーケティング・コミュニケーションの各段階における媒体の選好について,スーパーの会員ポイントを商品に交換できるカタログやクーポン付きDMのように情報量が多いもの(Suri et al., 2004),あるいは消費者にとって金銭的なインセンティブが発生するタッチポイントにおいては紙媒体の方が電子媒体(オンライン)より好まれることを明らかにした。

媒体が態度に及ぼす影響について,支払い意思額など価値評価においては紙媒体が電子媒体よりも高く評価される傾向があることが示唆された。しかし,広告への評価には媒体効果が見られず,広告への態度には影響しないことが見出された(Atasoy & Morewedge, 2018; Cheng and Qiu 2018)。一方で,媒体そのものへの選好については,MageeやKrishenらの研究によって紙媒体が電子媒体よりも選好されることが示された。

消費者の態度に影響を与える要因としては,関与水準によって影響を受けることが指摘されている。これらの知見は教育学の分野における研究結果と一致している(Mangen & Van Der Weel, 2017)。また,媒体への態度形成のメカニズムとしては,触覚や労力の知覚を中心に議論が行われている。代表的な議論としては,媒体操作に触覚の比重が高まることで生じる心理的所有感による影響(Brasel & Gips, 2014),実体認識手がかり(tangibility cues)による影響(Liang & Qiu, 2017)がある。

2.3  消費者の行動における媒体効果

媒体の影響に関する多くの研究は消費者の記憶想起や態度といった認知的側面の変化に注目しているが,近年は消費者が媒体によって異なる行動を取ること(e.g., クーポンの使用率の変化)で得られる経済的効果にも焦点が当てられている。

Olbrich and Schultz(2014)は複数の企業のデータを用いて,紙媒体広告費の支出の割合が高い企業はグーグルなどの検索エンジンによるオンライン広告のクリック率が高まり,その結果,広告が検索結果のページの上位に表示されやすくなることを見出している。また,Wiesel, Pauwels, and Arts(2011)はカタログやチラシといったオフラインチャネル(紙媒体)によるマーケティング活動が企業のホームページ(電子媒体)からの情報請求や発注を促進することを明らかにしており,Olbrichらの研究結果と同様に媒体の組み合せによる行動の変化が確認された。

他には,媒体の受け手の行動の変化として,クーポンの使用(Kwon & Lee, 2016),DMの開封率(外川他,2018),雑誌の開封率(Magee, 2013)などがある。媒体によるクーポンの使用率の変化については,紙クーポンの場合には額面と使用率が逆U字の関係になり,オンラインクーポンの場合には額面と使用率が比例することが見出されている(Kwon & Lee, 2016)。

外川他(2018)は媒体の組み合わせによるクーポン付DMの開封率およびクーポンの使用率の変化に注目し,“紙→Eメール”,“Eメール→紙”,“Eメール→Eメール”の3条件に分けて送付し調査を行っている。その結果,紙のクーポンが含まれた2つのグループはEメールのみのグループに比べクーポンの使用率とDM内容の熟読度が高く,さらには最初に紙によるクーポンを送付したグループがもっとも使用率が高いことが示された。その後,媒体によってDMのクーポン使用率が変化することに対して,消費者の年齢や受け取ったDMの媒体による感情の変化(驚き,温かみ,労力)からの考察が行われている(石井他,2018平木他,2018)。

このように,クーポン付DMの場合,紙媒体の方が電子媒体よりもクーポンの使用を促しやすいことが明らかになっている。また,消費者の認知的側面の変化に関する研究ではどちらかの媒体の優位性について取り上げることが多いが,行動変化の側面に関する研究では優位性よりは組合せ方や媒体間の補完関係に注目するなど,議論の視点が異なる。

消費者の行動において媒体効果が生じる要因は,消費者側の要因(e.g., 感情や使用経験)から議論がなされているが,その研究の蓄積が不十分であり,今後は媒体側の要因を含めた多角的な議論による検証が必要になっていくことが考えられる。

3  媒体効果の要因の抽出

3.1  媒体側の要因

先述の通り,記憶想起,態度,行動の促進という様々な側面における紙媒体の優位性が報告されている。媒体が消費者に影響を及ぼす要因としては,媒体側の要因と消費者側の要因の2つの側面から議論を進めていく(図1)。

図1.

媒体の効果に関する概念図,筆者作成

媒体側の要因の一つとして,操作方法による影響(Brasel & Gips, 2014Mangen, 2008Mangen et al., 2013Mayes, Sims, & Koonce, 2001Wästlund, Reinikka, Norlander, & Archer, 2005高野・柴田・大村,2012)が指摘されている。操作方法による影響は,電子媒体と紙媒体の操作方法の比較,電子媒体間の相違(モニターを介してマウスやキーボードによる操作とタブレット画面をタッチする操作方法の比較など)というの2つの側面から議論が行われている。

このような操作方法の相違は使用者の認知的側面に影響を与え,特にマウスによる電子媒体の操作は集中力を低下させ,紙媒体より認知負荷を高めるとされている(Mangen, 2008)。また,紙媒体の操作の際には紙質(触覚)や紙の匂い(嗅覚),めくる音(聴覚)など複数の感覚が刺激されるが,このような紙媒体の感覚経験(sensorimotor experiences)は情報の記号化を促進すると指摘されている(Mangen et al., 2013Shams & Seitz, 2008)。近年は,電子媒体間の操作方法の違いに注目した研究も行われており,マウスによる操作と画面タッチのように直接スクリーンに触れる操作において,触覚の感覚が高まる後者の場合がより商品評価を高めるとされている(Brasel & Gips, 2014)。

また,媒体が持つ構造的特性によって消費者の情報探索の仕方が変化し,その結果認知負荷にも影響を及ぼすとの研究もある(Eveland & Dunwoody, 2001a;Eveland & Dunwoody, 2002)。Evelandらの媒体の構造的同型(structural isomorphism)を用いた議論によると,紙媒体はページの順番通りに読んでいく線形的(liner)情報探索になりやすいという。一方で,電子媒体の場合には情報探索が非線形的(non-liner)になりやすく,非線形的な情報探索(Selective Scanning)によって認知負荷が高まり,その結果理解度が低下する(Eveland & Dunwoody, 2002)。

さらには,媒体間の表示形式(レイアウト)の相違が認知負荷に及ぼす影響にも議論が進められている(Hou et al., 2017)。Houらは認知地図理論を用いて議論を進めているが,認知地図(the cognitive map)とは対象(文字など)と環境(文字を囲む白い余白)の間の空間的配置を表す概念的な地図である(Downs & Stea, 1973)。この理論に依拠すると,紙媒体は対象(文字)と環境(余白)が固定されているため,それらの空間的関係を把握するために使われる認知資源が少ないという。しかし,電子媒体の場合,表示倍率の変化,キーボードやマウスの操作による画面の移動などレイアウトの変動性が高く,このようなレイアウトの高変動性によって対象と環境の空間的配置を瞬時に把握することは困難になり,その結果認知資源がより多く使用されるため,認知負荷が高まる(Ahuja & Webster, 2001Hou et al., 2017Neijens & Voorveld, 2016)。

このように,媒体側の要因に関しては,媒体間の操作方法の相違による影響(感覚),媒体のレイアウトによる影響(構造的同型性,認知地図)に焦点が当てられている。そして,媒体側の要因は認知負荷に影響を及ぼし,記憶想起や理解度といった情報処理の側面に影響するとされている。

3.2  消費者側の要因

一方で,消費者側の要因についても議論がなされているが,特に世代(Magee, 2013Delgado et al., 2018)やデジタルイノベーティブ指標のようなデジタルリテラシーによる影響(Jones et al., 2005Neijens & Voorveld, 2016)など,消費者の個人特性を媒体効果の調整変数として取り上げた議論が多く行われている。

Magee(2013)は,大学の同窓会誌に記載されている記事に対する記憶再生について,世代(卒業年度)を調整変数として用いて分析をした結果,若年層(1989年~2011年)と高年層(1940年~1972年)において記憶想起への紙媒体の優位性が確認されており,一定の年齢層にのみ媒体効果が見られる可能性が示唆されている。

一方で,Delgado et al.(2018)は2000年から2017年間の紙媒体と電子媒体の比較研究をメタ分析した結果,学習場面にお行ける理解度において紙媒体の優位性が一貫して見られており(Hedges’g = –0.21,p < .001),さらには世代による有意差は見られなかったため,消費者の年齢という要因は記憶想起には影響するものの,理解度は影響しないことが見出されている。

また,クーポン付DMの場合,紙によるDMの方がEメールによるDMよりもクーポンの使用率が高まることに対しても,30代以下の若年層において30代以上の世代よりもその傾向が強く見られており(平木他,2018),クーポンの使用率についても世代間の違いが表れている。

消費者側の要因として,デジタルリテラシーという視点からアプローチした研究においては,DelgadoらやMageeと異なる知見が得られている。デジタルリテラシーを測る指標の一つであるデジタルネイティブ(digital innovativeness)指標を調整変数として用いた研究においては指標が-.29以下(下位42.23%)の大学生にのみ,記憶想起における紙媒体の優位性が見られた(Neijens & Voorveld, 2016)。また,デジタルリテラシーへの主観的評価を調整変数として媒体と記憶想起の関係に注目している研究もあるが(Jones et al., 2005),主観的評価が高い消費者の場合,説得的メッセージ(広告)は10%水準,非説得的メッセージ(情報のみ)では5%水準で電子媒体の記憶想起率が高まることが示された。

しかし,実験参加者に6か月間紙媒体または電子媒体のどちらかのみを使用させるといった使用経験に注目した研究では(Rockinson-Szapkiw et al., 2013),6か月後の測定時点で媒体の効果が見られず,使用経験の蓄積によるデジタルリテラシーの増加が記憶想起における電子媒体の負の効果を軽減できる要因であることが示された。

以上のように,媒体による認知的側面への影響は,若年層にとってその影響が顕著である(Magee, 2013平木他,2018)。しかし,Delgado et al.(2018)では世代間の違いが見られず,またデジタルリテラシー次第では影響が見られなかったという報告もあることから(Neijens & Voorveld, 2016),今後は調整変数として世代や使用経験のみならず,電子媒体に対するリテラシーを考慮する必要がある。

また,近年では消費者側の心理的なバイアスについても議論がなされている。例えば,ECサイトにおいて,商品の立体感的な表示(3D)と平面的な表示(2D)を比較した研究においては,立体的な表示方法は商品をより有形物として捉えるようになり,平面的な表示方法より支払い意思額が高まることが見出されている(Liang & Qiu, 2017)。今後,価値評価における媒体効果のメカニズムを解明するためには,物理的な触覚による影響(Brasel & Gips, 2014)とともに,実体として認識させる手がかり(tangibility cues)による影響のような心理的なバイアスが物理的な触覚と同様に媒体効果を生じさせる要因となりうるかについての検証が必要であろう。

4  今後の研究課題

本稿は,媒体が消費者に及ぼす影響を「記憶想起」,「態度」,「行動」の3つに分類して研究潮流を概観した。そのうえ,媒体効果の要因として,媒体側の要因と消費者側の要因に分けて議論を進めた。そして,媒体効果とその影響要因を抽出することで,検討すべき今後の研究課題も浮き彫りになった。

媒体効果とその影響要因について,本稿では媒体からの影響と消費者が持つ個人特性からの影響を分別して議論したが,多くの先行研究においてはこれら2つの要因の片方のみに焦点を当てている。しかし,企業からの何らかのメッセージを受け取る際に,媒体の操作やレイアウトなどの媒体からの影響と消費者が持つ個人特性としての要因を切り離すことはできない。むしろ,2つの要因が相互に何らかの影響を及ぼす関係であると考える方が現実に則していると思われるが,これらの要因間の相互関係を考慮した研究は見当たらない。例えば,デジタルリテラシー(消費者側の要因)が電子媒体操における認知地図形成の困難性(媒体側の要因)を低減するかどうかなど,要因間の関係性について検討が必要であろう。

また,媒体効果の研究結果に矛盾が見られている。特に,消費者の記憶想起の側面において,従来では紙媒体が記憶想起を高める(Jones et al., 2005Magee, 2013Sundar et al., 1998)とされてきたものの,近年では媒体間に記憶想起の差がなかったという研究(Ciceri et al., 2019Hou et al., 2017Ieva et al., 2018)が多くなってきている。不一致の原因については,媒体側の要因(e.g., 性能の改善)と消費者側の要因(e.g., デジタルリテラシー)のどちらによって調整されているのかを確認する必要があろう。その反面,態度や行動の側面における媒体効果の近年の研究では,支払い意思額(Cheng & Qiu, 2018),価値評価(Krishen et al., 2016),雑誌の開封率(Magee, 2013),クーポンの使用率(外川他,2018)などにおいて紙媒体の優位性が一貫性見られている。

媒体効果に関する先行研究は,二つの媒体の比較を通してどちらかの媒体の優位性に注目している研究が多くみられているが,マーケティングの実務に則して考えると紙媒体のみあるいは電子媒体のみというより,両方の媒体を用いることがより一般的である。しかし,その最適な組み合わせ方についてはあまり議論されていない。近年,DMにおける紙媒体と電子媒体の組み合わせと送付の順番効果などの議論が行われているが(外川他,2018),なぜ紙媒体の方がクーポンの使用率が高まるのかそのメカニズムについては不明点が多く残されている。

最後に,消費者とのコミュニケーションの各段階において,紙媒体と電子媒体のどちらかの媒体を認知から行動までの購買段階のどのようなタイミングで届けることが最も効果的かといった具体的な最適化の問題についても十分に考察されていない。今後,消費者とのコミュニケーションのタッチポイントがさらに多様化されていくことが想定される中,タッチポイントごとに適切な媒体の選択はマーケティング・コミュニケーションにおける一つの重要な課題であろう。

参考文献
 
© 2020 Japan Society of Marketing and Distribution
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