JSMD Review
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Buycotting and boycotting in Japan: Toward an understanding of consuming to help
Kosuke MizukoshiShuji OhiraSumire StanislawskiYuichiro Hidaka
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2021 Volume 5 Issue 1 Pages 25-32

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Abstract

本研究では,政治的消費行動の一つであるバイコットおよびボイコットに関する研究に焦点をあてる。これまでの研究では,その特徴や歴史とともに,人々の属性や利他性との結びつきが考察されてきた。その一方で,日本ではそもそも政治的消費行動をとる人々は少ないとされ,あまり研究されてこなかった。しかしながら,東日本大震災やコロナ禍を経て,バイコットに似た応援する消費行動(応援消費)が注目されるようになっている。そこで本研究では,日本における政治的消費行動の現状を明らかにするとともに,こうした消費行動と利他性の関係を考察する。その結果,先行研究と同様に利他性との結びつきが示されるとともに,バイコット,ボイコット,および双方を行うデュアルコット間の特徴も明らかにされる。

1  解題

2020年からのコロナ禍において,人々の日常生活は大きく変容を遂げている。こうした中にあって,特に注目を集めている消費行動の一つに応援する消費行動(応援消費)が挙げられる。ここでいう応援消費は,消費を通じて社会的課題を解決しようとすることを意味し,日本では2011年の東日本大震災を機にして広く使われるようになった(渡辺,2014Stanislawski, Ohira, & Sonobe, 2015)。今では,一過性ではない新しい日常生活(ニューノーマル)になりつつあるともされる(「日経MJ」2020年12月15日)。

研究上は,購買を通じて企業や組織を応援する行動はバイコット(buycott)と呼ばれ(Friedman, 1996),政治的消費(political consumption)研究で検討されてきた(Stolle, 2013)。政治的消費は,より広くは倫理的消費研究の一研究領域であり,倫理的理由などに基づいて,消費を拒否すること(アンチ・コンサンプション)とバイコットが注目されている(Carrington, Chatzidakis, Goworek, & Shaw, 2021)。この背景には,製品やサービスを購入することがそれを製造・販売している企業などに一票を投じることになるという考え方がある(Shaw, Newholm, & Dickson, 2006)。

いわゆるボイコット(boycott)の対となるバイコットは,しばしばみられる現象である一方で,海外でもあまり研究されてはこなかったとされる。しかしながら,2000年代に入ると研究が進み,欧米ではそれぞれの国ごとの特徴なども明らかにされるようになっている(Baek, 2010Yates, 2011)。その一方で,日本ではボイコットや不買運動の研究(国民生活センター編,1996)に比べてもバイコットに関する研究はいよいよ少ない(多田編,1995大平,2019)。

バイコットは,必ずしも今日的な日本の応援消費と同じものではなく,後述するように,政治的な側面をより強く持つ消費行動であったと考えられる。その一方で,ボイコットから派生してバイコットが生まれたという歴史的経緯や,その過程で政治的な側面が弱められてきたようにみえることからも(Friedman, 1996, 2001),今日的な応援消費を理解する上で重要な知見を提供する。渡辺(2014)では,応援消費をフェアトレードや社会的貢献商品も含め倫理的消費と関連づけて捉えようとしている。また,そもそも日本におけるバイコットやボイコットの現状を明らかにすることにも価値がある。そこで以下では,バイコットについて,ボイコットとの違いとともに海外での研究動向を確認し,特にバイコットを促進する心理的要因について日本での調査をもとに確認する。分析の結果,こうした政治的消費行動を行う人々の現状とともに,彼らが高い利他性を持つこと,バイコット,ボイコット,および双方を行うデュアルコット(dualcott)の特徴を示す。

2  バイコット,ボイコット,デュアルコットとは何か

ボイコットは,悪行を行なった会社や組織を罰することを目標とするのに対し,バイコットは善行に報いるために行われる行動である(Friedman, 1996, 1999, 2001Neilson, 2010)。特に政治や倫理と結びつけられた消費行動において,バイコットは購買という形を取って現れる。

具体的な例として,1930年代のドイツのナチス党のキャンペーンでは,ユダヤ系企業ではなくドイツ系企業から購入することが奨励されている(Friedman, 1996)。1985年には,オーストラリアとアメリカの核廃絶運動の一環として,核兵器を搭載した船舶の入港を拒否するニュージーランドの製品購入が奨励されたこともある。1993年には,フロリダで行われたゲイの権利を守るためのキャンペーンとして,支援企業に対するバイコットが展開された。同様のキャンペーンでコロラドではボイコット運動が行われていたものの,あまり成果がみられなかったためだとされる。

組織化された活動グループはバイコットよりもボイコットを好む傾向にあり,バイコットについての詳細はあまり議論されてこなかった(Friedman, 1996)。また,メディアの興味も対立が生まれるボイコットに集まりやすく,バイコットはみえにくい傾向があった。バイコットという用語自体も統一されているわけではなく,girlcott,procott,reverse boycott,anti-boycottや,あるいはブラックリストに対するホワイトリストと表記されてきた。こうしたことから,バイコットがボイコットに比べて少ない理由,バイコットの効果,さらに,バイコットが自社商品を買って欲しいというだけのサクラの企業広告とどのように区別されるのかといった点について考察が必要とされる(Friedman, 1996)。

バイコットとボイコットの違いも明確ではない(Friedman, 1996)。ボイコット自体がさまざまであり,企業を対象とするかそれとも国などの行政を対象とするのか,より直接的に行うのか間接的に行うのかといった区分があり,ボイコットを積極的と消極的に分けた場合には,消極的なボイコットはバイコットと近くなる(Friedman, 2001)。何かをボイコットすることは,代替品として何かを購入するということでもあり,逆に何かをバイコットする場合には,何かを購入しないことになる(Yates, 2011)。バイコットとボイコットを完全に一つの変数として取り扱うこともある(Hong & Li, 2020)。

さらに,より重要なのはボイコットかバイコットかではなく,両方行う人の存在であるともされる(Copeland, 2014)。すなわち,人々はボイコットとバイコット両方をするデュアルコット,デュアルコッターになることができる。しかし,デュアルコットがバイコットとボイコットとどのような関係があるのかは必ずしも明らかにはされてこなかった。

3  先行研究における要因の分析

3.1  バイコッターとボイコッターの特徴

バイコットとボイコットに関する研究は,大きく,ボイコットのみを扱った研究と両者を扱った研究に大別できる。これらはいずれも,対象となる人々の特徴をデモグラフィック要因とともに,行動を促す心理的要因から捉えようとしている(Baek, 2010Copeland, 2014)。大半の研究で性別や年齢,人種,教育,収入などがデモグラフィック要因として検討され,その上で,主に政治的な要因などが検討されている(表1)。

表1. バイコッターとボイコッターを特徴づける主要な要因
性別 人種 年齢 教育 所得 結婚 職業 利他性 その他
Stolle, Hoogth, & Migheletti(2005) 政治的消費,政治的参加,政治的以外の参加活動
Paek & Nelson(2009) 政治思想,一般的態度・信念
Baek(2010) オピニオンリーダーシップ,政治思想,政治認識,コミュニケーション行動,信頼,エフィカシー,市民規範
Neilson(2010) 社会資本
Yates(2011)
Copeland(2014) 政治思想,政治認識信頼,エフィカシー,市民規範
Wicks, Morimoto, Maxwell, Schulte, & Wicks(2014) 支持政党,政治的イデオロギー,投票意図
Endres & Panagopoulos(2017) 政治思想,コミュニケーション行動,知識・興味
Hong & Li(2020) 公的支援の規模と信頼性評価,社会政治的スタンス,ブランド態度

バイコッターのデモグラフィック要因については,バイコットの別表現としてgirlcottが紹介されていたように,女性が取り組みやすいともされる(Friedman, 1996)。また,2002年から2003年にかけて行われたヨーロッパ社会調査の全国的なデータによると,ボイコッターやバイコッターは,より高い社会階級に属し,高齢で高学歴,男性より女性の方が多い(Yates, 2011)。さらにボイコッターとバイコッターを比較すると,バイコッターの方がボイコッターより学歴や社会階級が高く,個人的に実施されることが示唆される。ただ国によっても違いがみられ,そもそも北欧・中欧諸国は政治的消費行動が相対的に多く行われており,逆に南欧・東欧諸国ではあまり盛んではない。

Baek(2010)はアメリカの全米市民参加調査のデータを用い,政治的知識の高い人々はバイコットよりもボイコットに従事する傾向を明らかにしている。さらに,デュアルコッターについては,Baek(2010)はボイコットやバイコットをする人より高いレベルの政治的知識を有することを明らかにしている。

アメリカのYouGovによるデータを用いたCopeland(2014)によれば,両者は教育水準や政治的関心が高いが,ボイコットする人々は政治に対する信頼が低いことを示している。ボイコットとバイコットは,アメリカでは具体的な政党の支持とも結びついている(Endres & Panagopoulos, 2017)。共和党員は民主党員よりもバイコットやボイコットに参加していないが,どちらも党派性が強まるほどその傾向は強まる。3回の調査結果から,その傾向は近年の対立や断絶によってより強まっているとされる。

3.2  バイコットとボイコットを促す要因

デモグラフィック要因に限らず,こうした行動を具体的に促す心理的要因も考察されてきた。特に注目されるのは利他性である。例えば,Paek and Nelson(2009)では,ボイコットする人々は社会的課題や他者に関心を持つ人々であるというKozinets and Handelman(2004)の研究をもとに,利他性の高い人々の方がバイコットとボイコットを行う傾向がみられるとする。同様に,Neilson(2010)においても,バイコットやボイコットを行う人々は,そうではない人々よりも利他性が高いと共に,デュアルコッターはボイコットやバイコットだけを行う人々よりも利他的であることが示される。

利他性に類似した概念として,Copeland(2014)では選挙を行うことや他者を助けようとする意識として市民規範という概念が用いられ,市民規範はバイコッターに影響を与えるが,ボイコッターには影響していないとする。この傾向は,ボイコットを対立志向,バイコットを協調志向と捉える視点(Friedman, 1996, 2001)とも整合的であるという(Copeland, 2014)。類似した概念として,Baek(2010)はボイコットやバイコットをする人は,いずれも行わない人々よりも他者に配慮した社会的寛容性が高いことを明らかにしている。

そもそも利他性とは,内在化された道徳的義務に基づいて,個人が自分のためよりも他人のために貢献しようとする傾向を指す(Piliavin & Charng, 1990)。利他性の定義は分野によって異なるが,多くは他者を助ける行動を動機づけるものと考えられている(Hoffman, 1981)。これは,慈善事業への寄付やボランティア活動などの援助行動の主要な要因である(Webb, Green, & Brashear, 2000)。

多くの倫理的消費行動に関する過去の研究においても,利他性が行動の主要な推進力であることが確認されてきた。例えばGranzin and Olsen(1991)は,利他性が環境保護の重要な決定要因であるとする。同様に,Ferle, Kuber, and Edwards(2013)は,利他性の高い人は,寄付つき商品を購入する傾向があることを示している。さらに,この研究はアメリカ人よりもインド人の方が利他性の影響が強いとし,文化的な背景にも注目している。Lee, Kim, Kim, and Choi(2014)もまた,利他性の影響を明らかにした際,韓国のデータをもとにしながら集団主義と個人主義の文化的差異が重要になることを指摘している。こうした文化的差異については,文化的自己観が寄付への意図に影響することが考察されてきた(Lee, Choi, & Muldrow, 2020)。これらの心理的要因は,日本においてバイコットとボイコットを行う人々を捉える上でも重要になると考えられる。

4  分析枠組み

バイコットに関する研究は,ボイコットに関する研究から発展する形で進められてきた。デュアルコットも含め,デモグラフィック要因とともに消費行動を促す心理的要因の特徴が考察されている。しかし,これらの研究の多くは欧米を中心に展開されてきた。確かに,日本ではバイコットもボイコットもあまり一般的ではなく,現象としての考察の余地が少なかったともいえる。一方で,冒頭にみたように少なくとも応援消費といった形でのバイコットが顕在化しつつある。

そこで本研究では,先行研究に従い,第一にバイコッターとボイコッター,さらにはディアルコッターの特徴を探索的なアンケート調査を通じて検討する。具体的な特徴については,先行研究で用いられていたデモグラフィック変数として,年齢,性別,学歴,世帯年収を使用する。先行研究では,高年齢,高学歴,高所得で女性の方が総じてバイコットやボイコットを行う傾向がみられたが,日本ではまだ定かではない。

第二に,消費者がバイコットおよびボイコットを実践する意思決定要因の検討を行う。表1にあるように,先行研究では,主に政治的要因が意思決定に影響を与えると考えられてきた。しかし,このような理解をそのまま日本社会に適用することは難しい。Yates(2011)はヨーロッパの21カ国のバイコットとボイコットについて調査を行い,デモグラフィクスの点から国ごとの違いがあると指摘している。また,カナダとベルギー,スウェーデンを対象に調査を行ったStolle, Hoogth, and Migheletti(2005)でも国ごとの違いがあると指摘している。これらを踏まえると,先行研究で用いられていた要因,特に心理的要因については日本に適応できる要因を考える必要がある。

日本でも適応可能な要因として考えられるのは第一に利他性である。利他性は,バイコットやボイコットだけでなく,先行研究で示されているように環境配慮や寄付つき商品の意思決定要因になってきた。日本でも寄付つき商品は,倫理的消費の拡大に伴い,多くの企業が社会貢献活動の一環として取り入れるようになっている(大平,2019)。

第二に同じ東アジアの消費者を対象したLee, Kim, Kim, and Choi(2014)で指摘されていたように,集団主義と個人主義に基づいた文化では利他性の捉え方が異なるとされる。この点について,Lee, Choi, and Muldrow(2020)は,文化的差異を捉えるために文化的自己観を用いている。文化的自己観は,文化によって「自己」の認識のされ方が異なることを意味しており(Markus & Kitayama, 1991),欧米とは異なる相互協調的自己観の重要性を強調する。そこで本研究は利他性とともに,文化的自己観をバイコットとボイコットを促す要因として考える。

5  調査概要

本研究では,2021年2月11–17日にfastaskを用いて質問票調査を実施した。20代から60代以上までの年齢と性別で均等に割付を行い,1037サンプルを得た。これらのうち,分析で用いる項目についてわからないという回答や不備のあるサンプル(ボイコットを行ったかどうかを覚えていない,98サンプル,バイコットを行ったどうかを覚えていない,75サンプル,学歴のその他・非回答,136サンプル,所得の非回答,188サンプル,いずれも重複あり)を省いた。最終的に分析に用いたサンプル数は755である。

本調査では,Baek(2010)Neilson(2010)Copeland(2014)を参考にしながら,それぞれボイコットとバイコットを実際に行ったかどうかの確認を通じて,大きく4つのカテゴリを作成した。最初の質問では,先行研究に従い,「2020年に,倫理的または政治的な理由で製品,サービス,ブランド,または企業の利用を取り止めましたか?」と質問し,ボイコットの有無を確認した。もう一つのバイコットに関する質問では,「2020年に,倫理的または政治的な理由で,ある製品やブランドを他の製品やブランドよりも購入しましたか」と質問した。その上でこれらを組み合わせた。

本研究では,2つの主要な独立変数が含まれている。最初の変数セットはデモグラフィック変数であり,年齢,性別,学歴,世帯年収である。各回答者は,年齢(M = 45.9,SD = 15.19,レンジ20–91),性別は男性(約50.4%,465人が男性),学歴(中卒から大学院卒までの4段階),世帯年収(100万円刻み,1000万円以上は500万円ごと)を記入している。もう一つの変数セットは,バイコットやボイコットを促す心理的要因であり,本研究では利他性,文化的自己観(相互協調性)を用いた(Paek & Nelson, 2009Lee, Choi, & Muldrow, 2020)。それぞれ7点(まったくそうではない−まったくそうである)尺度を用いて複数項目によって測定し,それぞれ平均化した値を用いた(表2)。なお,確証的因子分析で文化的自己観において因子負荷量の低かった項目を一つ削除した。利他性との相関係数は0.52でありAVEの平方根を下回り弁別妥当性は確認されたが,AVE自体は0.5を下回る(Bagozzi & Yi, 1988Fornell & Larcker, 1981)。この点に注意して分析を進める。

表2. バイコット,ボイコット,デュアルコットの属性と心理的要因
合計 男性 女性 20–29才 30–39才 40–49才 5–59才 60才以上
どちらもしない 613 305 308 104 123 130 123 133
ボイコットだけ 44 31 13 7 4 13 9 11
バイコットだけ 37 23 14 14 7 4 6 6
両方する 61 39 22 20 15 11 11 4
755 398 357 145 149 158 149 154
概念 項目 平均値 標準偏差 α CR AVE
利他性私には,困っている人々を助ける責務がある3.601.340.730.730.57
私にとって,困っている人々に手を差し伸べることは重要なことである4.041.33
文化的自己観私は,家族が喜ぶならば,自分がとても嫌なことでもする3.781.370.700.700.44
私は,通常,仲間の利益のために,自分の利益を犠牲にする3.521.25
家族が望まないのならば,私は自分の好きなことも我慢するだろう3.991.37

6  分析結果

6.1  バイコッターとボイコッターの特徴

日本でボイコットやバイコットを行う人々が実際のところどの程度いるのか,まずは記述統計から確認する(表2)。本調査では,約8.1%(61人)がデュアルコット,約5.8%(44人)がボイコットだけ,約4.9%(37人)がバイコットだけ,そして約81.1%(613人)はいずれの行動もとっていない人々であった。ボイコットもバイコットも行わない人々の割合はこれまでの他国の研究よりも大きいが,一方でいずれかを行う人々の割合だけを比べた場合はあまり違いがない。本調査でいえば,政治的消費行動をとる人の中での割合は,デュアルコットは約43.0%,ボイコットのみが約30.1%,バイコットだけは約26.1%である。

YouGovを用いたアメリカのデータでは,全体の48%が政治的消費者であり,そのうち,58%がデュアルコット,24%がボイコットだけ,18%がバイコットだけであった(Copeland, 2014)。同様の傾向は,2002年の全米市民参加調査を使用したBaek(2010)にもみられる。この研究でも,米国の人々の約49%が政治的消費者であり,そのうち46%がデュアルコット,30%がボイコット,24%がバイコットであったとされる。一方で欧州社会調査を使用したNeilson(2010)は,回答者の35%が政治的消費者であり,そのうちの41%がデュアルコット,13%がボイコットだけ,46%がバイコットだけであった。さらに同様のデータを用いたYates(2011)では,ヨーロッパの国ごとに分析をしており,政治的消費者の割合として,最大はスウェーデンの60%超に対し,最少のポルトガルは10%より低かった。これらに基づけば,時期は異なるが,政治的消費者は,日本,ヨーロッパ(国によって,一部は日本を下回り,一部はアメリカを上回る),アメリカの順で多くなり,一方で,ボイコットをするかバイコットをするかという点については,あまり違いがないといえる。

基本的なデモグラフィック変数については,後述する多項ロジット分析の結果のとおり,ボイコットだけとバイコットだけの場合は,何も行わない人々に比べて男性が行う傾向がみられており(B = −0.90,p < 0.01,−0.50,p < 0.1),年齢についてはバイコットとデュアルコットに若い人々が行う傾向がみられた(B = −0.03,p < 0.1,B = −0.04,p < 0.01)。学歴は違いがみられないが,収入については,デュアルコッターは何もしない人々よりも高い傾向がみられる(B = 0.11,p < 0.01)。

6.2  バイコットとボイコットの意思決定要因

バイコットとボイコット,デュアルコットの意思決定要因を検討するために,政治的消費行動をとらなかった人々を「1」,ボイコット,バイコット,デュアルコットのいずれかを行った人々を「2」とした二値の変数を用いてロジットモデルを推定した(表3)。まず,性別については,女性よりも男性の方が活動に参加している(B = −0.62,p < 0.01)。この結果は先行研究とは逆である。年齢については若い方が活動に参加しているが(B = −0.02,p < 0.01),Copeland(2014)では有意差がみられなかった。近年のインターネットやソーシャルメディアの影響が予想される(Endres & Panagopoulos, 2017Lee, Choi, & Muldrow, 2020)。もちろん親の影響もあるだろう(Wicks et al., 2014)。学歴には有意な差がみられず,収入についても10%水準の有意差である(B = 0.05,p < 0.1)。こちらも例えばCopeland(2014)とは異なっている。

表3. 二項・多項ロジットの分析結果
バイコット・ボイコット有無 係数 標準誤差 オッズ比 Z p
0.61 0.69 0.89 0.37
性別 −0.62 0.20 .54 −3.16 0.00**
年齢 −0.02 0.01 .98 −2.83 0.00**
学歴 −0.09 0.10 .91 −0.92 0.36
収入 0.05 0.03 1.06 1.78 0.07+
利他性 0.28 0.10 1.32 2.86 0.00**
文化的自己観 −0.07 0.11 .94 −0.61 0.54
χ2 31.828
df 6
p 0.00
擬似R2 0.08
参照カテゴリ=どちらもしない(613)
ボイコットだけ(44) バイコットだけ(37) デュアルコット(61)
係数 標準誤差 p 係数 標準誤差 p 係数 標準誤差 p
−2.321.180.05*−1.871.080.08+−1.191.060.26
性別−0.900.340.01**−0.480.350.17−0.500.280.08+
年齢0.010.010.30−0.030.010.06+−0.040.010.00**
学歴−0.030.190.87−0.180.180.30−0.070.130.60
収入0.010.050.900.020.060.730.110.040.01**
利他性0.310.160.05+0.430.180.02*0.170.130.20
文化的自己観−0.200.200.31−0.090.180.590.050.140.73
サンプルサイズ=755
χ253.227
df18
p0.00
擬似R20.09

** 1%水準,* 5%水準,+10%水準

心理的要因として重要であると考えられる利他性では,政治的消費行動を行う人々の方が利他性が高く(B = 0.28,p < 0.01),文化的自己観では,有意差がみられなかった。全体として,政治的消費行動を行う人々の利他性が高いことが確認されたことは,海外のこれまでの研究と同様の成果である。

調査結果をさらに考察すべく,今度は4つの分類について多項ロジスティック回帰を行った(表3)。利他性については,バイコットだけ,及びボイコットだけにおいて10%水準も含めて統計的な有意差がみられたが(B = 0.31,p < 0.1,B = 0.43,p < 0.01),デュアルコットにおいては差がみられなかった。例えばNeilson(2010)では,いずれも統計的に有意差がみられるとともに,ボイコットだけ,バイコットだけ,そしてデュアルコットの順番で利他性は高い傾向がみられた。Copeland(2014)では利他性が用いられず,類似した概念として市民規範が用いられている。この時,ボイコットだけの人々には差がみられなかった一方で,バイコットだけとデュアルコットは,何もしない人々との間に有意差がみられるとともに,バイコットだけよりもデュアルコットの方が値が大きい傾向がみられた。

本研究では,バイコットだけの人々がもっとも利他性が高く(4.22),ついでボイコット(4.09),デュアルコット(3.97),最も低いのはどちらも行わない人々(3.76)であった。これら利他性を4つのグループ間で直接比較した一元配置分散分析では,どちらもしない人々とバイコットだけを行う人々の間に有意差がみられた(F(3, 751) = 3.051,p < .05)。サンプル数の問題が大きいように思われるが,引き続きの調査が必要であろう。最後に,文化的自己観についてはいずれにおいても有意差がみられなかった。

7  帰結と今後の研究に向けて

本研究では,これまで日本ではあまり考察されてこなかったバイコットを取り上げ,ボイコットやデュアルコットとともにデモグラフィック要因や心理的要因として利他性などとの関係を考察した。先行研究のバイコットやボイコットの特徴と比較し,日本でも類似した傾向や逆に異なる傾向をみることができた。

バイコット,ボイコット,そしてデュアルコットというグループ間の違いについては,先行研究で議論されてきたような結果は見出されなかった。バイコットやボイコットを行う人々がそうではない人々に比べて利他性が高いことは示されたものの,先行研究が示したその中でもデュアルコッターが最も利他性が高いという結果は得られていない。また,日本の独自性になると考えられた文化的自己観の相互協調性についても,本研究ではその影響がみられなかった。日本におけるバイコットやボイコットに対する認識の違いをより精緻に検討する必要があるだろう。この際,今回の分析の擬似決定係数から考えると,バイコットやボイコットを規定するより重要な変数がありうると想定される。本研究で特に考慮しなかった政治的変数についても,改めて検討する必要があるかもしれない。

この点については,コロナ禍における応援消費をバイコット研究において捉えようとする場合にも大きな課題となる。今回の調査では,具体的に何をボイコットしたのか,何をバイコットしたのかについては確認できていない。例えば,冒頭に示したように,政治的な理由で海外製品をボイコットして国内製品をバイコットするという場合と,コロナ禍で経営難に陥った地元店舗に対してバイコットするという場合では,利他性の働きも変わることが予想される。拒絶としてのボイコットは利他性と結びつきにくいであろう(Copeland, 2014)。政治的消費行動を国と結びつけて考えるのならば愛国心のような概念も関連しうる。あるいは,設問として記載した「倫理的または政治的な理由」という表記も,実際にどのように理解されたのかについては議論の余地がある。日本において政治的消費行動がこれまで盛んではなかったのは,「倫理的」や「政治的」への理解が欧米とはそもそも異なっているかもしれないからである(大平,2019)。

いずれにせよ,応援消費をはじめとして,今回の調査でもボイコットやバイコットを行ったという人々が目に見えるようになり始めていることも事実である。今後の研究として,これまでの先行研究を手がかりにしながら,日本における応援消費や,バイコットに関する政治的消費行動を明らかにしていくことが肝要であろう。

謝辞

本稿の掲載にあたり,澁谷覚編集長をはじめ2名の匿名のレビュアーの先生方から多くの貴重な指摘をいただきました。心よりお礼申し上げます。

参考文献
 
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