JSMD Review
Online ISSN : 2432-6992
Print ISSN : 2432-7174
Changes of consumers’ media exposure before and after the COVID-19 epidemic and exploratory study using individual personality traits
Makito TakeuchiRyosuke Igari
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 8 Issue 1 Pages 1-11

Details
Abstract

本論文では,COVID-19流行前後のメディア接触行動がどのように変化していたか,流行によって生じた変化が個人の性格特性によって説明できるか,について探索的な把握を試みた。行動ログから,COVID-19出現前の2019年と比較して,2020年のTV視聴時間やアプリ使用の観測回数は緊急事態宣言期間を含む4~6月期に大幅に増加していた。更に,こうした視聴時間やアプリ使用の観測回数の変化を,調査で取得したBIS/BAS,セルフコントロール,危険回避性,Big Fiveで説明できる可能性があることを見出した。

1  はじめに

新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)は全世界規模の大流行を引き起こし,日本でも多くの感染者,死者を発生させると共に,多くの消費者に恐怖や不安を与えた。具体的に,2020年のCOVID-19の全国新規感染者数(NHKオンライン)とGoogleトレンドから取得した「コロナ」の検索指標の推移を示したものが図1である。最大感染者数は第1波(緊急事態宣言期間を含む),第2波,第3波とより大規模になる一方,「コロナ」検索は第1波の最大感染者数の週付近で最大値の100を記録し,第2波,第3波ではより小さな検索規模になる。未知のウイルスであった第1波まで,消費者は恐怖心を含む強い関心をもってCOVID-19関連情報を調べようとしていたものの,ウイルスの特徴,対策などの情報の浸透によってより大きな感染拡大期でも関心を示さなくなっていったことが読み取れる。

図1.

COVID-19の全国新規感染者数とGoogleトレンド「コロナ」検索の推移(週単位)

NHKオンラインGoogleトレンドより情報を取得して筆者らにてグラフを作成)

また,消費者の生活では企業のテレワーク推進や大学の遠隔授業拡大,不要不急の外出自粛などが要請された(総務省,2020)。新しい生活様式への対応を余儀なくされる中で,流行後にテレビ視聴やスマートフォン使用などのメディア接触行動の増加傾向が把握されている(博報堂DYメディアパートナーズ,2021総務省情報通信政策研究所,20202021)。しかし,これらは調査回答に基づいており,具体的にどういった時期にどのぐらいメディア接触を増やしていたかを把握出来ない。加えて,積極的に生活様式を切り替えたためにメディア接触行動が変化した消費者もいれば,さほど生活様式を変えずに過ごす者もいたであろう。こうした違いには,消費者の危険回避志向や他者との同調性や誠実性,感情や欲望の制御といった,経済学や心理学分野で理論的,もしくは概念的に見出されてきた個人の性格特性と関連しているかもしれない。消費者行動研究では個人の性格特性を個人差変数として行動の説明,予測することに意義を見出し(永野,2012),選好や行動(行動意向)との関連性について古くから議論されてきた(e.g., Bosnjak, Galesic, & Tuten, 2007Kassarjian, 1971Whelan & Davies, 2006)。実際,メディア接触行動においても心理学を中心によく利用されるBig Fiveといった性格特性から説明を試みる研究も多くある(e.g., Amichai-Hamburger & Ben-Artzi, 2003Amichai-Hamburger & Vinitzky, 2010Finn, 1997Jain & Roy, 2015Mark & Ganzach, 2014Ryan & Xenos, 2011)。

こうした背景から,筆者らは,自宅時間が増えていく中でTVの視聴行動やスマートフォンなどのアプリの使用状況がどのように変化していったのかを,行動ログデータを用いて探索的に把握することを目的としている。更に,メディア接触行動を性格特性によって説明することができるのか,特にどういった特性が強く関連するのかについて把握することも意図している。

2  関連研究とその課題

2.1  COVID-19による消費者行動への影響

COVID-19は,海外でのロックダウンをはじめ,日本でも外出自粛などに伴い消費者の行動に大きな影響を与えた。例えば,Wang, An, Gao, Kiprop, and Geng(2020)はCOVID-19の流行によって食糧備蓄規模が約2倍になったことを見出している。Pantano, Pizzi, Scarpi, and Dennis(2020)も,非常時の消費者行動や小売戦略について議論する中で,COVID-19発生当初に消費者が日用品で備蓄行動が広がったことや高級品小売は最も大きな打撃を受ける企業の一つとして取り上げている。実際,日本でも教養娯楽(旅行等含む),外食,交通,被服といった非必需品目における支出割合がCOVID-19発生以前より低下した(消費者庁,2021)。Safara(2020)はオンラインショッピングサイトのデータよりCOVID-19流行以降におけるオンライン購買量と年齢や糖尿病といった,重症化リスクに関連した要因との間に正の相関があることを示した。

重症化リスクを含むCOVID-19に対する危機感や恐怖は,感染症流行時の健康維持や外出自粛などの活動制限を強化することにつながる可能性がある。Deng, Wang, Xie, Chao, and Zhu(2020)は,調査や実験からCOVID-19の深刻さをより強く認知するほど流行終了後の消費意欲を高めること,COVID-19の深刻さの認知や退屈な生活は流行終了後の衝動購買傾向を高めることにつながることを指摘している。更に,こうした危機感や恐怖による消費行動の影響として,Kim, Yang, Min, and White(2021)は恐怖心が衛生的な行動の促進,地域支援による地元レストランの優先,レストランへ行く頻度を減らすなどの意識的な消費を行う可能性が高まることを示している。Galoni, Carpenter, and Rao(2020)は,COVID-19以外の伝染病に基づく検証ではあるものの,伝染病にさらされることが恐怖感や嫌悪感といった両方の情動的な感情を喚起し,その結果として脅威を回避しつつ,身近で慣れ親しんだ商品を求めるといった行動をとりやすくすることを示している。

より個人の性格特性に着目してCOVID-19禍での行動を議論する研究もある。例えば,Gordon-Wilson(2021)は,インタビューからセルフコントロール(SC)や自身を守ろうという動機から,大型店舗での人の多さや長い行列,自身との十分な距離をとろうとしない周囲の買い物客の行動をコントロールしきれない店舗での購買を避けるといった行動の変化が生じていたことを説明している。更に,Gordon-Wilson(2021)は,不健康なスナック菓子や飲酒に対するSCが失われたことも指摘した上で,不健康な消費の増加は,自宅時間の増加や感染への不安,孤立感,退屈などに起因して,消費に対する閾値が下がってしまった可能性を示唆している。また,感染リスクへの危険回避に基づく自宅待機行動について議論する研究もある。Kluwe-Schiavon et al.(2021)は給料を得るために感染リスクにさらされても外出するか,自宅待機するかを選択する仮想的な危険回避の実験を行った。その結果,COVID-19の感染確率が平均38%になるまでは給与を得るために外出する可能性がより高く,それを超えると自宅待機する可能性が高まることを示した。先述したSafara(2020)Galoni et al.(2020)の知見も消費者の危険回避に基づく行動と捉えられるかもしれない。Big Fiveでは,外向性や神経症傾向が高いほど,誠実性や経験への開放性が低いほど買いだめをする傾向にあったこと(Dammeyer, 2020),女性への調査から外向性がビデオチャットの使用時間の増加要因であること(Pfund, Harriger, & Hill, 2021)を報告している。また調査における行動意向に対して,行動抑制的な特性が手洗いや買いだめなどの安全行動に,行動賦活がソーシャルメディア利用に影響を与えることを示している(Reiss, Franchina, Jutzi, Willardt, & Jonas, 2020)。Park, Kim, Kim, Lee, and Giroux(2021)はコロナ禍で混雑場所への旅行を避けることを見出しているが,その仮説構築に行動抑制や行動賦活の特性を用いている。

コミュニケーション分野への影響を議論する研究もある。Sheth(2020)はCOVID-19の流行前後における習慣の変化やポイントをまとめ,その一つにデジタル技術の導入を挙げている。Sheth(2020)は更にFacebook,YouTubeなどといったソーシャルメディアプラットフォームが非常に大きなユーザーを抱えるとともに消費者行動に与える影響は大きく,日常生活に浸透しているという考えを示したうえで,こうしたテクノロジーの導入が古い習慣を壊すかどうか興味深いとしている。また,多くの習慣は将来的に元に戻るものの,ストリーミングサービスといった手頃で,利用しやすい代替手段は置き換わりが進むのではないかと予想している。Journal of Business ResearchのCOVID-19の特集号の解説でも,ロックダウンによってインターネットやソーシャルメディアの利用が極端に増えていることを指摘したうえで,Nowland, Necka, and Cacioppo(2018)を引用しながら孤独を感じる人ほどソーシャルメディアをより利用する傾向にあることを紹介している(Donthu & Gustafsson, 2020)。実際,(COVID-19研究ではないが)消費者がストレスを感じるとスマートフォンへの依存傾向を高めることを示す研究もある(Melumad & Pham, 2020)。

2.2  既存研究の課題と本研究の検証意図

既存研究の知見は,例えば定量的な検証を含んでいないもの(e.g., Gordon-Wilson, 2021),その可能性を議論するまでに留まるもの(e.g., Sheth, 2020),調査や実験に基づく検証を実施しているもの(e.g., Dammeyer, 2020Deng et al., 2020Kim et al., 2021Reiss et al., 2020)などに基づいていた。また国内のメディア接触に関する調査報告(博報堂DYメディアパートナーズ,2021総務省情報通信政策研究所,20202021)も調査時期における回答に基づいている。こうした背景から1つ目の課題として,メディア接触行動を行動ログで捉え,実際の行動がどのように推移したかを見出す知見が限られていることが挙げられる。次に,先行研究や社会環境から,COVID-19の流行拡大は,危険回避的・抑制的な行動の誘発,SCや社会的な要請への同調,誠実性などが自粛や自制的行動の促進,もしくはSCが及ばなくなり普段気をつけていることが出来なくなる,といった個人の性格特性が行動を変化させる要因であった可能性が伺える。しかし,2つ目の課題として,メディア接触に関する実際に生じた行動の変化を,性格特性の多数の要因を取り上げて説明しようとした研究が見当たらないことが挙げられる。

以上の課題に対して,本研究は実行動を把握する行動ログと,これまでメディア利用行動をはじめとする消費者行動の解明に用いられてきた性格特性を把握する調査を組み合わせた検証を行う。国内の調査報告で接触時間の増加が示されたが,メディア接触がより具体的にどの程度増加していたのか,どのように推移していたのかを把握することは,感染症の流行下といった行動の制限や自粛の必要性(もしくは自粛ムード)が生じるなかでの消費者行動を理解するうえで特に重要であろう。

次に,本研究では既存研究(e.g., Gordon-Wilson, 2021Kluwe-Schiavon et al., 2021Pfund et al., 2021Reiss et al., 2020)から関連が想定されるBIS/BAS,SC,危険回避,Big Fiveといった経済学や心理学の理論もしくは概念から見出されてきた個人特性に焦点を当てる。BIS/BASについて,BIS(Behavioral Inhibition System)は行動抑制系と呼ばれ,罰や本能的な恐怖などに関わる刺激を受けて活性化する動機づけシステムで行動を抑制,回避しようとする特性で,BAS(Behavioral Activation System)は行動賦活系と呼ばれ,報酬などに対して活性化される動機づけシステムで行動を活発化,接近しようとする特性である(Gray, 1994高橋他,20071)。特にCOVID-19への罹患を罰や恐怖として個人の動機づけに関わる場合,BIS特性の高い個人は罹患を避けるために他者との接触回避や積極的な情報収集などを行うことが予想される。SCや危険回避も既存研究からCOVID-19環境下での行動変化との関連が示唆されている。Big Fiveは外向性,同調性,誠実性,神経症傾向,経験への開放性の5つの次元で構成された性格特性のモデルで(John & Srivastava, 1999川本他,2015),特に同調性や誠実性は自粛要請に対して同調や誠実な行動を促進することが予想され,Pfund et al.(2021)から外向性もメディア接触と関連する可能性がある。これらの個人の性格特性に関連した尺度や指標を説明変数とした回帰系のモデリングアプローチによって,メディア接触への説明要因となり得るかどうかを検証する。

3  使用するデータの概要

3.1  概要

本研究では株式会社ビデオリサーチが提供するVR CUBICの行動ログデータと,そのログを収集しているサンプルを対象とした調査データを中心に用いる。VR CUBICでは消費者のTVやアプリなどの複数メディア利用の行動ログを収集している。TVは機械式調査による個人の視聴分数を,アプリは1分毎に画面の一番上に立ち上げているアプリの起動回数を取得している。分析には,TV,スマートフォン・タブレット端末のアプリのいずれか1種類以上のログを収集しているサンプルの2019~2020年のデータを用いる。また,同一サンプルへ2021年3月12~29日に調査を実施し,回答者数は1623人(男性:991人,女性:632人,平均年齢:50.3歳)であっ‍た。

3.2  行動ログの詳細と変数

行動ログは上記期間104週を分析対象とする。分析対象の行動ログは,TVは517,066,アプリは55,675オブザベーションである。TVはリアルタイム視聴の情報で,この情報から各個人の週単位の総視聴時間及びジャンル別視聴時間の変数を作成した。ジャンルはVR CUBICのジャンル区分を参考に,報道,教育・教育・教養・実用,ドラマ,バラエティ等娯楽,音楽・映画・アニメ・スポーツとした。

スマートフォンやタブレット端末ではアプリの観測ログを収集しているため,各個人の週単位の総観測回数(アプリ全体)とジャンル別観測回数の変数を作成した。VR CUBICではアプリのジャンルが全37種あることから,アプリ全体に加えて一部のジャンルに絞り込んで検証することとした。絞り込む際には,第2節のSheth(2020)Safara(2020)Donthu and Gustafsson(2020)の議論からCOVID-19の流行拡大に関連して使用の仕方が変わることが推察されるもの,外出自粛などの制限下の余暇時間での利用や情報探索に関連するもの,比較的観測回数が高いものといったことを判断材料として,「ゲーム」,「ソーシャルネットワーク(SNS)」,「ショッピング」,「動画プレーヤー&エディタ」,「ニュース&雑誌」を取り上げることとした。なお,週1回以上アプリの使用が観測されたものをアクティブログと定義した。

3.3  心理尺度や指標の変数化

調査データとしてBIS/BAS,SC,Big Five,危険回避に関する心理尺度や指標を回答者に聴取した。BIS/BASは2.2節で説明した通り行動抑制系と行動賦活系と呼ばれる動機づけシステムの特性である。調査ではCarver and White(1994)を和訳した高橋他(2007)のBIS/BAS尺度を4件法で聴取し,平均で合成したBIS変数(α = .81),BAS変数(α = .88)を作成した。SCはTangney, Baumeister, and Boone(2004)の短縮邦訳版である尾崎・後藤・小林・沓澤(2016)の尺度を5件法で聴取し,全項目の平均でSC変数(α = .79)を作成した。Big FiveはJohn and Srivastava(1999)のBFIを5件法で収集し,下位尺度毎に平均することで外向性(α = .82),同調性(α = .68),誠実性(α = .78),神経症傾向(α = .81),経験への開放性(α = .82)の5変数を作成した。

次に,「危険回避度は経済学における基本的なパラメータのひとつ」(大竹・筒井,2012,p. 26)で,将来の不確実性やリスクに対する選好の度合いを指す。つまり,何らかのリスクを伴う意思決定課題でリスク愛好的な意思決定をする個人は危険回避度が低く,リスク回避的な意思決定をする個人は危険回避度が高いことを意味する。今回の調査で,筆者らはHolt and Laury(2002)の危険回避度の質問指標に基づき日本人向けに設定した質問で聴取した2)。危険回避変数は0~10の範囲で,値が大きいほど危険回避的である。

3.4  マクロ情報に基づく変数と統制変数

1のCOVID-19の新規感染者数とGoogleトレンドの検索指標といったマクロ情報について,感染者数は流行と共に連日報道され消費者の行動変容に影響した可能性があり,コロナの検索量は世間的な関心の指標と言えよう。そのため,NHKが発表した国内の新規感染者数情報から(NHKオンライン),週当たり全国新規感染者数変数を設定した。なお,回帰分析では週当たり全国新規感染者数+1を対数変換して使用した。GoogleトレンドのHPから「コロナ」での検索の週単位の指標(0~100の範囲)を取得して,週当たり「コロナ」検索を変数とした3)。また,統制変数としてメディア接触に影響を与える可能性がある性別,年齢,職業,2020年ダミー,各月の月ダミーも変数化した。

4  分析結果

4.1  メディア接触状況の変化

1はCOVID-19発生前後の2019・2020年におけるTV視聴時間とアプリ使用の観測回数を四半期別にまとめたものである。TV総視聴時間は,緊急事態宣言期間を含む2020年4~6月期に平均1534.7分/週で,前年から284.6分/週増加した。しかし,7~9月期では前年比の増加傾向は4~6月期より小さく,10~12月期では前年同等であった。ただし,音楽・映画・アニメ・スポーツは全期間で前年より視聴時間が減っていた。実際は,特にスポーツの視聴時間が大幅に減っており,スポーツイベントが中止や延期となる中で関連番組自体少なかったことが原因の1つと考えられる。またアプリ観測回数も2020年4~6月期のアプリ全体では前年同期比99.1回/週ほど増加している。7~9月期になると前年比での増加は小さくなり,10~12月期では前年同等になった。ただし,動画プレーヤー&エディタは増加傾向を1年中維持した。

表1.

2019年と2020年の四半期ごとのメディア接触状況の比較(週当たり視聴時間・観測回数などの平均)

1–3月 4–6月 7–9月 10–12月 2年間平均
2019年 2020年 差分
(2020–
2019)
2019年 2020年 差分
(2020–
2019)
2019年 2020年 差分
(2020–
2019)
2019年 2020年 差分
(2020–
2019)
TV

週当たり
視聴時間
(分)
総視聴時間 1,300.4 1,351.2 50.8 1,250.2 1,534.7 284.6 1,291.6 1,379.9 88.4 1,299.6 1,299.0 −0.6 1,338.7
報道 212.5 241.1 28.6 220.0 319.3 99.3 232.0 265.1 33.1 241.7 250.0 8.3 247.8
教育・教養・実用 426.2 449.6 23.4 429.1 531.6 102.5 434.3 476.1 41.8 430.8 437.9 7.1 452.1
ドラマ 109.6 101.6 −8.0 99.9 112.9 13.0 95.3 102.3 6.9 97.7 87.1 −10.6 100.8
バラエティ等娯楽 405.6 437.6 32.0 377.5 467.4 89.8 374.7 419.5 44.8 366.3 407.7 41.3 407.2
音楽・映画・アニメ・スポーツ 144.4 119.1 −25.3 121.3 103.4 −17.9 153.0 117.0 −36.0 160.8 116.3 −44.5 129.3
アプリ

週当たり
観測回数
(回)
アプリ全体 631.2 667.4 36.2 616.6 715.7 99.1 627.5 674.5 47.0 634.0 647.9 13.9 652.8
ゲーム 183.2 191.7 8.5 171.5 196.0 24.4 170.7 174.9 4.2 181.6 170.8 −10.8 180.3
SNS 60.1 78.5 18.4 65.7 82.1 16.4 71.3 77.5 6.2 71.5 69.8 −1.7 72.2
ショッピング 22.5 24.0 1.6 17.8 25.9 8.2 18.9 20.2 1.2 20.6 21.4 0.8 21.5
動画プレーヤー&エディタ 72.7 89.2 16.5 70.6 102.6 32.0 75.9 92.1 16.2 79.1 90.4 11.3 84.3
ニュース&雑誌 75.8 65.6 −10.2 67.9 70.8 2.9 71.4 69.5 −1.9 58.2 57.3 −0.9 67.2
参考 週当たり全国新規感染者数の平均(人) . 146.2 . 1,278.1 . 4,909.0 . 10,703.8
週当たり「コロナ」検索の平均(0–100) . 24.6 . 42.5 . 30.1 . 24.9

※「参考」箇所の2019年の情報は実質的に0(「コロナ」検索は1未満となっていた)となることから記載していない。TVでは視聴内容「不明」等といったものをジャンル別に加えなかったため,総視聴時間とジャンル別の合計時間は一致しない。

一方,TVやアプリの接触行動の変化と整合的な動きは,全国新規感染者数ではなく「コロナ」検索である。実際,週当たりのTV総視聴時間やアプリ全体観測回数の平均の(2020年と2019年での)差分,全国新規感染者数,「コロナ」検索の相関を確認したところ,全国新規感染者数との相関は,TV総視聴時間差分で−0.136(p > .05),アプリ全体観測回数差分で−0.355(p < .01)であった。一方,TV総視聴時間差分と「コロナ」検索は0.679(p < .01),アプリ全体観測回数差分と「コロナ」検索は0.300(p < .01)で正の相関が認められた。つまり,COVID-19関心度の代理指標であろう「コロナ」検索によってメディア接触行動を説明できる可能性が高いことを示唆している。

4.2  TV視聴やアプリ使用の性格特性による説明

TV視聴時間は時間+1を対数変換したものを使用し,未視聴が含まれるため打ち切り回帰分析で検証する。アプリ観測回数はカウントデータとなるが,アプリ全体では観測値0回がないことから負の二項回帰分析,ジャンル別は0回が多いことからハードル負の二項回帰分析(Hilbe, 2011)を用いる4)。また,データは2019~2020年であるため,心理尺度や指標はCOVID-19流行前のTV視聴時間/アプリ観測回数にも影響する形になってしまい,主効果のみの分析ではCOVID-19の流行に起因するメディア接触の変化を心理尺度や指標から把握するには不十分である。そのため,主効果の変数とは別にCOVID-19への関心度とみなせる「コロナ」検索と心理尺度や指標との交互作用項を説明変数に追加して検証した(表2)。なお,分析結果の有効性を確認するために説明変数を①定数項のみ,②定数項と統制変数,③定数項と統制変数とマクロ情報としたモデルで推定し,表2の心理尺度や指標を含む提案モデルとのAICを比較した。結果,全分析結果で①~③と比べて提案モデルが最適であった。

表2.

メディア接触に対する打ち切り回帰分析・(ハードル)負の二項回帰分析の推定値

TV総
視聴時間
報道 教育・教養・
実用
ドラマ バラエティ
等娯楽
音楽・映画・
アニメ・
スポーツ
アプリ全体 ゲーム SNS ショッピング 動画プレーヤー&エディタ ニュース&雑誌
打ち切り回帰分析 負の二項
回帰分析
ハードル負の二項回帰分析
カウント ロジスティック カウント ロジスティック カウント ロジスティック カウント ロジスティック カウント ロジスティック
定数項 3.492** 0.230* 1.492** −2.293** 2.055** 1.640** 6.438** 6.892** 2.343** 5.810** 1.466** 1.810** 0.816** 2.459** 0.341 3.446** −2.945**
BIS 0.152** 0.244** 0.112** 0.069** 0.171** 0.087** 0.372** 0.600** −0.681** 0.740** 0.263** −0.257** −0.060 −0.632** 0.193** 0.439** 0.270**
BAS −0.048** −0.126** −0.040* −0.122** −0.073** −0.086** −0.432** −0.581** −0.518** 0.215** 0.158** 0.341** 0.021 −0.184 0.029 −0.060 −0.195**
セルフコントロール 0.074** 0.183** 0.037 0.156** 0.085** 0.013 −0.154** −0.763** −0.316** 0.088 −0.313** 0.008 −0.408** −0.468** −0.225** 0.307** 0.159**
危険回避 0.007** 0.002 0.003 0.011** 0.006** −0.001 −0.033** 0.042** 0.023** −0.140** −0.036** −0.004 0.024** 0.041** −0.038** 0.026** −0.028**
Big Five外向性 −0.006 0.034** 0.028* 0.087** −0.013 0.037** 0.169** −0.187** −0.069* −0.278** 0.102** −0.048 0.103** 0.036 −0.006 0.381** 0.256**
Big Five同調性 0.041** −0.069** 0.043** 0.153** 0.154** 0.007 0.380** 0.483** 0.251** 0.151* 0.283** 0.677** 0.181** 1.121** 0.361** 0.056 −0.170**
Big Five誠実性 0.011 −0.001 0.025 −0.204** 0.004 −0.064** 0.037 0.849** 0.122* −0.506** −0.514** −0.247** 0.121* −0.053 −0.449** −0.169** −0.114*
Big Five神経症傾向 0.074** 0.035* 0.165** 0.163** 0.118** 0.066** 0.109** −0.211** 0.684** −0.534** −0.258** 0.412** 0.123** 0.691** 0.090 −0.312** 0.068
Big Five経験への開放性 −0.040** −0.022 −0.025 0.134** −0.029* 0.041** 0.179** −0.158** 0.463** 0.239** 0.211** −0.104 −0.026 0.255** 0.232** 0.057 0.088**
全国新規感染者数(対数) −0.014** −0.010* −0.001 −0.007 −0.008 −0.039** 0.004 −0.018 0.015 −0.057** −0.015 0.002 0.014 0.037 0.025* 0.026* −0.025*
「コロナ」検索 −0.001 0.005 0.001 0.006 0.003 0.000 0.011 0.026* 0.045** −0.046** −0.022* 0.011 −0.010 0.017 −0.009 −0.001 0.014
BIS*「コロナ」検索 0.000 −0.002* 0.000 −0.001 −0.002* 0.000 −0.001 −0.003 0.003 −0.005 0.000 0.007* 0.002 0.002 −0.004 −0.005** 0.005*
BAS*「コロナ」検索 0.000 0.001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 −0.004 −0.005** 0.000 −0.002 −0.003 −0.001 0.008* 0.001 −0.002 −0.002
セルフコントロール*「コロナ」検索 −0.002** −0.003** −0.002* −0.003** −0.002** −0.001 0.002 0.006 −0.001 0.005 0.004 −0.007* 0.007** −0.006 0.005* 0.001 0.004
危険回避*「コロナ」検索 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 −0.001** −0.001* 0.001* 0.000 0.001* 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
Big Five外向性*「コロナ」検索 −0.001 −0.001* −0.001 0.000 −0.001 0.000 −0.002* −0.001 −0.002 0.001 0.005** 0.001 0.001 −0.007** 0.001 0.000 −0.004**
Big Five同調性*「コロナ」検索 0.002** 0.002** 0.002** 0.001 0.002** 0.002** 0.002* 0.003 −0.002 0.010** 0.003 −0.001 −0.001 −0.004 −0.001 0.004* −0.002
Big Five誠実性*「コロナ」検索 0.001 0.001 0.001 0.002 0.001 0.000 −0.005** −0.005 −0.002 −0.005 −0.005* 0.006* −0.006** 0.001 −0.003 −0.004* −0.003
Big Five神経症傾向*「コロナ」検索 −0.001 0.000 −0.001 −0.001 0.000 0.000 −0.002 −0.001 −0.004* 0.006* 0.002 −0.001 −0.001 −0.002 0.003 0.002 −0.006**
Big Five経験への開放性*「コロナ」検索 0.002** 0.002** 0.002** 0.000 0.001* 0.001* 0.000 −0.002 −0.002 0.003 0.000 −0.004* 0.005** 0.000 0.000 0.003* 0.005**
男性 −0.123** 0.038* −0.145** −0.725** −0.196** 0.141** 0.065* −0.126* −0.403** −0.137 −0.022 −0.170* −0.272** 0.947** 0.457** −0.028 0.236**
年齢 0.042** 0.063** 0.050** 0.075** 0.030** 0.028** −0.031** −0.013** −0.049** −0.023** −0.026** −0.015** −0.023** −0.037** −0.031** −0.017** 0.033**
未婚 −0.046** 0.045** −0.132** 0.379** −0.116** 0.175** −0.239** −0.348** −0.157** 0.270** −0.102** 0.243** 0.173** 0.283** −0.118** 0.271** 0.341**
一般会社員 0.098** −0.068** 0.125** −0.057* 0.115** 0.089** −0.620** −0.542** −0.927** 0.381** −0.090 −1.161** 0.062 −0.039 −0.208** −0.281** 0.268**
専門職・自由職 0.216** 0.150** 0.201** 0.156** 0.298** 0.279** −0.938** −1.323** −0.850** −0.105 0.084 −1.513** 0.116 −0.572** 0.209* −0.577** 0.264**
商工自営業 −0.131** −0.086* −0.192** −0.272** −0.245** −0.104** −0.103 0.047 −0.356** 0.890** 0.997** −0.508** −0.453** −1.830** −0.287** −0.066 0.170*
学生 0.552** 1.001** 0.386** 1.006** 0.659** 0.069 −1.053** −0.871** −1.855** −0.422* −0.079 −2.356** −2.305** −1.510** −0.411* 0.187 −0.072
専業・兼業主婦 0.349** 0.469** 0.371** −0.092** 0.234** 0.463** −0.752** −0.951** −1.085** 0.189 −0.460** −0.887** −0.203** 0.307* 0.041 −0.160* 0.387**
その他 0.383** 0.318** 0.383** 0.456** 0.307** 0.470** −0.242** −0.344** −0.127 0.469** 0.409** −1.728** −0.061 −0.142 −0.035 −0.063 0.468**
2020年ダミー 0.041 0.033 0.004 0.119** 0.096** −0.204** 0.036 0.149 −0.057 0.098 0.138 0.082 −0.023 −0.016 0.012 −0.301** 0.255**
1月ダミー 0.067* −0.112** −0.002 0.349** 0.160** 0.208** −0.056 −0.122 0.048 −0.119 −0.174* 0.224* −0.074 −0.172 0.030 0.184* −0.191*
2月ダミー 0.008 0.104** 0.069* 0.289** 0.040 −0.349** −0.016 −0.021 0.012 −0.051 −0.098 0.072 −0.029 −0.189 0.134 0.118 −0.192*
3月ダミー 0.049 0.080** 0.090** 0.029 0.044 −0.052 −0.041 −0.161 0.004 0.019 −0.089 −0.102 0.034 −0.207 −0.011 0.193* −0.080
4月ダミー 0.082** 0.147** 0.108** 0.166** 0.114** −0.148** −0.036 −0.228* 0.034 −0.009 0.021 0.027 −0.089 −0.067 0.080 0.140 −0.061
5月ダミー 0.068** 0.184** 0.119** 0.361** 0.073* −0.166** −0.023 −0.002 −0.008 −0.001 0.012 0.139 −0.007 −0.131 0.176* 0.077 −0.074
6月ダミー 0.065** 0.140** 0.115** 0.232** 0.039 −0.086** −0.046 −0.105 −0.051 0.014 −0.081 0.037 −0.082 −0.261* 0.084 0.104 −0.052
7月ダミー 0.043 0.134** 0.074** 0.160** −0.006 −0.017 −0.025 −0.170* −0.036 0.055 0.013 −0.070 −0.123 −0.035 0.116 0.142* 0.011
8月ダミー 0.045 0.101** 0.053* 0.259** 0.000 0.032 −0.005 −0.131 −0.054 0.015 −0.008 0.017 −0.081 −0.165 0.092 0.084 0.044
9月ダミー 0.087** 0.228** 0.076** 0.119** 0.037 0.178** −0.031 −0.060 −0.082 0.062 −0.032 0.005 −0.121 −0.237 0.103 0.026 0.020
10月ダミー 0.095** 0.258** 0.050* 0.072* −0.020 0.307** −0.016 0.009 −0.018 0.082 0.002 −0.295** −0.097 −0.042 0.124 −0.103 −0.004
11月ダミー 0.010 0.092** −0.006 0.126** −0.058* 0.126** −0.010 −0.066 −0.029 −0.089 −0.066 0.084 −0.032 −0.148 0.079 −0.051 0.023
オブザベーションサイズ 162,527 23,319

※女性,既婚,無職,2019年,12月を基準カテゴリとしている。また,調査回答者のデータのみを使用しているためにオブザベーションサイズが少なくなっている。全国新規感染者数は初感染者までの期間は0,「コロナ」検索は1未満のため0と置き換えている。**:p < .01,*:p < .05

4.2.1  TV視聴時間の分析結果

交互作用項で,SCと同調性と経験への開放性が総視聴や多くのジャンル別視聴で影響していた。つまり,COVID-19への関心の高い時期にSCは視聴時間の抑制に多くで作用し,同調性と経験への開放性はドラマ以外の視聴時間を長くする要因であった5)

SCの視聴時間への主効果は正で,最も係数の大きい報道を中心に寄与していると言える。つまり,SCは普段から報道などを中心に情報収集する中で視聴時間を増やす要因となりえるが,COVID-19の関心期には過剰な視聴にならないような役割を果たしていることが伺える。一方,同調性は主効果から普段の視聴時間を増やし,COVID-19の関心期には更に視聴時間を増す要因であった。これは自粛への同調から在宅時間が増えたことがその背景にあるかもしれない。経験への開放性は普段総視聴をはじめとして概ね短くするが,COVID-19関心期では視聴時間を増やす要因であった。経験への開放性は知的関与や知的好奇心と関連する要因であるが(Goff & Ackerman, 1992西川・雨宮,2015Rocklin, 1994),普段はTV以外から能動的に情報収集を行うものの,自粛によって収集源がTVなどに絞られたことが背景にあるかもしれない。

4.2.2  アプリ使用の観測回数の分析結果

アプリ全体で,有意に影響を与えた交互作用項は外向性,同調性,誠実性であった。外向性は主効果では正,交互作用項では負のため,普段は外向的に多くのアプリを使用するものの,COVID-19関心期では自粛に反発した生活行動によってアプリ使用に負の影響を与えた可能性がある。同調性は自粛への同調からか,関心期と共にアプリの使用を増加させている。誠実性は関心期と共に自重したアプリ使用がなされていた。

ジャンル別の結果はアプリ全体とは異なるものが多い。一部例示すると,BISや危険回避の交互作用項はショッピングのカウント側に正の影響を与えていた。このことは感染を恐れて外出を伴う買い物を避けてネットショッピングを増やしている様子が伺える。危険回避の交互作用項はカウント側においてゲームで負,SNSで正の影響も与えていた。外出における感染リスクを回避するために他者とのコミュニケーションや買い物行動を変化させていたことが伺える。

次に,SCはアプリ全体での使用は主効果が負,交互作用項は非有意であることから,コロナに影響されることなく普段の生活から過剰使用にならないよう制限をかける様子が見受けられる。しかし,動画プレーヤー&エディタやロジスティック側のショッピングでSCの主効果が負であったにも関わらず,交互作用項はロジスティック側でいずれも正に変化していた。このことはCOVID-19の関心の高まりの中で生活様式の変化からネットショッピングや動画視聴などを行った可能性がある。一方で,SCの交互作用項はカウント側のショッピングが負であることから,繰り返しや過剰使用には制御的であった。その他に,同調性の交互作用項はカウント側でSNSやニュース&雑誌に正の影響を与えるといった,自粛に同調した行動の変化を示していた。誠実性の交互作用項もアプリ全体での自重した使用を反映し,多くのジャンルで負の影響を中心にみられた。

5  まとめ

本論文では,COVID-19の流行前後でTV視聴やアプリ使用に変化が生じていたか,その変化を個人の性格特性で説明できるか,を検討した。その結果,2019年と比較して,2020年のTV視聴時間やアプリ観測回数は4~6月期に大幅に増加し,7~9月期,10~12月期では2019年と変わらなくなっていき元の生活を取り戻す傾向を示した。これらの推移は,以前の習慣に多くが戻るというSheth(2020)の予想と整合し,加えて動画プレーヤー&エディタで増加を維持した点も利用が容易な代替テクノロジーへの習慣形成につながった可能性がある。また,COVID-19への関心(「コロナ」検索)と個人の性格特性の交互作用項がTV視聴時間やアプリ観測回数に影響を与え,行動変容に寄与しうることも把握した。

具体的に,個人の性格特性との関係について,例えばCOVID-19への罹患を避ける意図から行動抑制的,危険回避的な人ほど(店舗買い回りを嫌うためか)ショッピングアプリなどの利用が増える,SCが効く人ほどコロナ禍でTV視聴時間を制御するとともにアプリについては普段から使用を制御する,同調性が強い人ほど(自粛的な背景に同調する意図からか)TV視聴時間を増やすとともにSNSやニュースアプリの利用を増やすなどといった,各心理尺度や指標の捉える個人特性から想定されるものと一致した行動の変容をいくつも観測したといえる。また既存研究と比較すると,①Gordon-Wilson(2021)で飲酒等の行動にみられたSCの失敗という形ではなく,SCが実際のメディア利用に対しては基本的に制御的であり続けること,②COVID-19への感染に対する不安などに起因して行動の変容を示唆する既存研究の知見(e.g., Kim et al., 2021Kluwe-Schiavon et al., 2021Safara, 2020)と整合的に,危険回避志向や行動抑制志向が外出自粛を積極的に行わせ,代替的手段としてショッピングアプリなどの積極的な利用に至っている可能性が示唆された。③Pfund et al.(2021)は外向性がビデオチャットの増加要因と報告しているが,本研究では関連ジャンルであるSNSの使用要因であった。しかし,アプリ全体や他ジャンル,TV視聴では別の結果も出ており,既存研究よりも幅広く結果を提示できている。

こうした研究知見から,筆者らはいくつかの理論的,実務的な意義を提案する。まず,既存研究は主にCOVID-19の流行をはじめとした感染症への罹患及びそれに関連したリスクによって生じた購買や消費行動の変化に注目するものが多い(e.g., Deng et al., 2020Galoni et al., 2020Kim et al., 2021Safara, 2020)。そうしたなかで,本研究はTV視聴やアプリ利用といったメディア接触に注目して,COVID-19流行前後での行動変容とその推移を,実際の行動データをもとに示している。この点は,日本の調査データをもとにメディア接触の変化をとらえた報告(博報堂DYメディアパートナーズ,2021総務省情報通信政策研究所,20202021)よりも精緻で多数の示唆を与えるものといえる。また,本研究ではメディア接触行動の変化を既存の理論または概念モデルに基づく多数の心理尺度や指標を用いて説明できることを見出し,既存研究よりも踏み込んだ,また幅広い知見の提示に役立っていると考えられる。

実務に対しても,どのような性格的な特徴のある人がメディア接触行動を変化させたかを理解することは,メディアの情報提示や広告出稿のあり方を考える一助となりえる。加えて,性格的な特徴に基づいて,どのような行動の変化を起こす可能性があるかを予測することにも役立つため,COVID-19のみならず将来起こりえる感染症流行や行動制限などを伴う災害が生じた場合のメディア利用,ネットショッピング利用などの使用者数や頻度の増減への対応を検討することにも有効な可能性がある。

最後に,本研究に残された課題を説明する。まず,分析の観点において考慮したほうが好ましいかもしれない変数がある。例えば,分析対象期間における回答者の感染や濃厚接触の有無は本人のプライバシーの問題もあり,把握することが困難であるため今回考慮できていない。しかし,感染や濃厚接触によって当時は(自主的なものも含めて)隔離や入院といった措置がなされていたためメディア接触行動に影響した可能性がある。また,世帯人数や社会階層などもメディア接触に影響する可能性もあるが,今回のデータにおいて,これらの情報が不足していたことから分析に用いることが出来なかった。今後の研究では,こうした要因を考慮することが求められる。次に,今回の研究知見は2020年までのデータに基づいているが,2021年以降にCOVID-19流行前のメディア接触の習慣を更に取り戻しているのか,新しい生活様式に沿った習慣へと全体的もしくは部分的な変化が生じているのかは本研究知見だけでははっきりしない。2023年5月にCOVID-19は感染症法における位置づけが5類(それまでは「2類相当」)に変更され,多くの経済活動に制限がなくなってきている。より長期間での推移や変化を今後確認していく必要があると考えられる。

謝辞

本研究を進めるにあたりまして,京都大学・高橋雄介先生には日本語版BIS/BAS尺度及び同氏が和訳されたBig Five尺度(BFI)の使用を許可いただきました。立命館大学・須佐大樹先生には危険回避度の解釈についてご助言いただきました。2名の匿名の査読者先生から有益なコメントをいただきますとともに編集委員会の先生方にご対応いただいたことを付言いたします。また,株式会社ビデオリサーチから大変貴重なログデータをご提供いただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

なお,本研究は科学研究費(20H01545/20K13624/22K18538/22K13495)による助成を受けています。

1)  本論文におけるBIS/BASの説明は特に高橋他(2007)を参考にしている。また,BASはBehavioral Approach Systemと呼称されることもあるが(e.g., Gray, 1994),今回は尺度のもとになっているCarver and White(1994)高橋他(2007)にあわせてBehavioral Activation Systemと記載した。

2)  質問例として「くじA:確率10%で2000円 確率90%で1600円」と「くじB:確率10%で3850円 確率90%で100円」のいずれかを選択する。両方のくじで金額が高いほうが当たる確率を10%ずつ高めた質問を計10回(確率100%まで)繰り返す。そして,くじBに最初に回答が移るまでのくじAの選択回数を危険回避度に関わる変数とした。Holt and Laury(2002)も安全側の選択回数を危険回避の指標としている(Table 3,Figure 1など)。

3)  Googleトレンドの値は検索がほぼない週で1未満であった。1未満の週は0に置き換えて変数化した。

4)  カウントデータの解析ではポアソン回帰や負の二項回帰などが用いられるが,過分散が生じていたこと,AICによるモデル評価でポアソン回帰より良い結果であったため,アプリ全体は負の二項回帰を採用した。またジャンル別も過分散が生じていたこと,ジャンル別のアプリで未使用(0回)の割合が非常に多いこと,全ジャンルのAICによるモデル評価で最良であったため(ゼロ過剰/ハードル×ポアソン回帰/負の二項回帰の4種類を比較),ハードル負の二項回帰を採用した。

5)  「コロナ」検索の主効果は非有意であったが,マクロ情報と統制変数のみの分析で「コロナ」検索はドラマ以外全て有意に正の影響を与えていた。つまり,COVID-19への関心と視聴行動の関係において個人の性格特性が影響していることを示唆している。

参考文献
 
© 2024 Japan Society of Marketing and Distribution
feedback
Top