機械學會誌
Online ISSN : 2433-1546
チルド・ロールに關する研究
菊田 多利男
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1930 年 33 巻 156 号 p. 237-254

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抄録

チルド・ロールは表面約20mm位は硬質の白銑組織を呈し、内部の大部分は不時の衝撃に堪える様な鼠銑組織となり、その中間には斑銑組織が介在して居る。是等の組織の變化はロール鑄造時に於ける各部分の冷却速度の遅速に依り生ずるものである。故にチルド・ロールの研究をなすに當つて此熔鐵注入後の各部の冷却速度を知つて置くことは極めて重要の事であるが實験によりかゝる冷却速度を求むることは殆んど不可能であるから、著者は計算によりてこれを求めた。即ち一般の熱傳導の微分方程式を解くに當りチルド・ロール鑄造の時に惹起すべき種々の條件を考へて先づべツセル方程式を導き出しそれを解いて任意の時間に於けるロール内及鑄型内各部分の温度を算出しそれよりロール各部の冷却速度を求めたのである。此研究に於てはチルド・ロール各部分の冷却速度に對する(1)ロールの大さの影影、(2)鐵鑄型の厚さの影響、(3)鐵鑄型の温度の影響等が知られた。以上の結果より求めた冷却曲線の一部を實測の結果と比較して見ると良く一致して居ることを了知することが出来る。此熔鐵注入後に於ける熱的關係は又インゴット製作に關し重要な参考資料となるものと信じて居る。他方に於で著者は一種の熱膨脹測定装置を作り試料を鑄造しその熔融状態より凝固した後の冷却途中に於ける黒鉛化現象を観測した。而して前記計算によつて求められたチルド・ロール鑄造後の種々の部分の冷却速度にて冷却した場合に於ける夫々の黒鉛化の状況を實測しこれを以つてチルド・ロール成生の理論を説明することが出來た。本研究はチルド・ロール製作に關する研究の初期のものであるがこれが、基礎となりて此後の研究及びロール製作に對し一指針を與ふるものである。

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© 1930 一般社団法人日本機械学会
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