抄録
An. sinensisに近縁な北海道産ハマダラカAn. engarensisが、国内及び韓国産のsinensisより有意に短い成虫雌の脚肘節白帯の対節比によってsinensisと区別し得ることが明らかとなってきた。ところで、成虫雌の脚肘節白帯の対節比を少なくとも模式図で示したsinensisの文献を調べると、驚いたことに、sinensisのlectotype(中国産:コペンハーゲン大学博物館所蔵)を記載したHarrison (1973)には、engarensisにほぼオーバラップするか、後脚についてはengarensisより短い対節比が描かれている。聖マリアンナ医大当教室に「中国科学院」のラベルの付いた上海産のsinensisが10個体(うち雌8個体)あった。それらの脚白帯を計測すると日本・韓国産のものの脚白帯よりやや長い値が得られた。模式図が脚白帯対節比を忠実に描いているかどうかはケースバイケースと思われるが、このほかのsinensis文献上の対節比を比較した。engarensisの短い脚白帯が、sinensisの地理的変異の中に含まれてしまうのかどうか、地理的由来の異なったsinensisについて調べる必要がある。