抄録
酵素反応系において最適温度とは反応速度が最大となる温度である.自然環境における昆虫の温度と発育速度にこれを準用するには無理がある.昆虫ではこの温度から少しでも高くなると高温障害が生じて発育速度は低下を始めるからである.有効積算温度法則において,発育速度が直線性を示す好適温度範囲の中間に最適発育温度があり,それが温度傾斜のある地理的分布に影響を与えていると考えられよう.Schoolfield et al.(1981)が開発した温度と発育速度関係を表す非線形モデルには,低温と高温の悪影響が最低になる温度(T0)が定義されている.ただし実際の測定は不可能なので,どのような変温動物に対しても25℃とした.しかし熱帯や寒帯に適応した各種に対して一律に25℃を与えるのは適切でなく,このT0に共通の発育温度(Tc)(Ikemoto, 2003)を当てると理にかなった温度・発育速度曲線が得られた.これによりT0=Tcは内的な最適発育温度と定義できる.