日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第60回日本衛生動物学会大会
セッションID: IL-2
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皮弁鬱血に対する医用ヒルを用いての局所循環改善法
*櫻井 裕之
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抄録

 現代の一般社会において、ヒルは吸血動物として忌み嫌われる存在であるが、人類は古代エジプトの時代よりこの動物を病の治療に用いてきた歴史がある。その流れは近代西洋医学にも引き継がれ、19世紀のヨーロッパにおいては様々な疾患に対する重要な治療法のひとつとして確立されていた。従って医療界におけるヒルは、“昨日の敵は昔の味方“の側面が強い。ヒルは皮膚に吸着した後、自重の5倍もの量を吸血するが、同時に噛着した際に唾液腺に含まれる生理活性物質を局所に注入する。  形成外科領域において、1970年代より様々な皮弁移植術が開発され臨床応用が可能となった。皮弁移植術とは、血流を保った状態で皮膚を移植する術式であり、動脈流入と静脈還流を確保しなければならない。一般に静脈還流不全に起因する鬱血は、動脈流入不全に起因する虚血状態よりも移植組織への組織障害性が高く、早期の対応が必要とされている。そのため皮弁移植後の静脈還流不全の治療目的として、1980年代より医用ヒルが再登場し、現在でもわれわれ形成外科医にとっての強い“味方“として活躍中である。  ヒルによる静脈還流不全に対する効果は、吸血による静脈血排除以上にその後の持続的な出血による瀉血効果の方が重要であり、局所における管理法が重要である。今回われわれは、皮弁移植後や切断指再接着後におけるヒル使用の実際を供覧する。また、医用ヒルにより静脈還流不全を改善させ得る組織量は限定されており、広範な静脈還流不全に対しては限界がある。以上を踏まえ、形成外科領域における医用ヒルの適応と問題点にも言及する。

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