日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第63回日本衛生動物学会大会
セッションID: S03
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第63回日本衛生動物学会大会
遺伝子解析から見た我が国への日本脳炎ウイルスの侵入
*森田 公一
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抄録
東南アジアでは毎年2万人をこえる日本脳炎患者が発生していると見積もられており、最重要のウイルス性脳炎である。一方、わが国では1960年代まで毎年数千名の患者発生を見たが、最近はワクチンの普及や媒介蚊の減少により年間10名以下の患者発生にとどまっている。しかし毎年、夏になると関東以南の地域ではコガタアカイエカからウイルスが分離され、また増幅動物であるブタにも感染していることが抗体調査で明らかである。日本に毎年夏に出現する日本脳炎ウイルスは冬には完全に姿を消すので、その起源については従来から飛来説と土着説(あるいは越冬説)とが唱えられてきた。すなわち、毎年初夏にウイルスの常在地であり患者の多発している東南アジアからウイルスが何らかのルートで日本本土に運ばれるとする説が飛来説、冬の間ウイルスが自然界のどこかに越冬し初夏に再び出現するとするのが土着説である。我々はベトナムや中国、日本で分離された日本脳炎ウイルス遺伝子の塩基配を詳細に解析した結果、ウイルスの一部は日本国内において土着しているものの、最近アジアで分離される遺伝子型1型ウイルスが頻繁に中国を経由して日本に飛来していることを明らかにした。言い換えれば東南アジアで患者を発生させている日本脳炎ウイルスが日本に飛来していることが鮮明になってきた。興味深いことに、東南アジア全域で活動する1型ウイルスは大きく2つのグループ(1Aと1B)に分けられるが西から東へ移動しているのは今のところ1Aのグループのみである。東南アジアでは両者は混在しているのになぜ1A型のみが長距離を移動しているのか現在のところその理由は不明である。
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