日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第63回日本衛生動物学会大会
セッションID: S05
会議情報

第63回日本衛生動物学会大会
コガタアカイエカの長距離飛翔と越冬生理に関する最近の知見
*沢辺 京子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

国内での日本脳炎の発生は1992年以降年間10名以下で推移しているものの、蚊やブタにおける日本脳炎ウイルス(JEV)の活動は依然として活発である。このように国内で毎年流行するJEVは国内で越冬するのか?あるいは毎年海外から侵入してくるのか?JEVの主要な媒介種であるコガタアカイエカの長距離移動と越冬の実態解明が望まれている。1960年代後半、東シナ海洋上の定点観測船上でウンカ類が多数捕獲され、大陸や東南アジアから毎年飛来する農業害虫の存在が広く知られるきっかけとなった。それら昆虫類の中にコガタアカイエカが見出されたことから、本種の長距離移動性も注目されるようになった。ウンカ類の飛来予測のための研究は進歩し、現在では、精度の高い3次元シミュレーションモデルが開発され、飛来予測システムとしてすでに実用化されている。我々は、2009年佐賀市および南さつま市に設置された飛来昆虫捕獲のための定点トラップにコガタアカイエカが捕集されたことを確認し、さらに、ウンカ飛来予測日とほぼ同時期に捕集されたコガタアカエイカの中に、ミトコンドリア遺伝子の塩基配列が国内に生息する集団ではなく、日本以外のアジア諸国に分布する集団と一致する個体の存在を明らかにした。コガタアカイエカが海外より日本に飛来侵入する可能性が示唆された。一方、コガタアカイエカ体内でのJEVの越冬の可能性については、これまでに多くの議論がなされ、本種の栄養生殖分離の特徴から、その可能性はほとんどないと結論された。我々の実験からも、様々な温度・日長下での短い生存日数、13.8時間より短い日長条件下(関東地方では9月下旬および8月下旬に相当)での栄養生殖分離の発現、冬季の低温条件(5℃前後を想定)での短い寿命などの特徴によって、コガタアカイエカが国内で越冬できる地域は限局され、さらに、JEVの越冬に関与する可能性は極めて低いことが示唆された。

著者関連情報
© 2011 日本衛生動物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top