日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第63回日本衛生動物学会大会
セッションID: W12
会議情報

第63回日本衛生動物学会大会
トコジラミの被害拡大とその社会的背景
*矢口 昇
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

近年,米国,カナダ,オーストラリア,イギリス,フランス等の諸国で,トコジラミ被害が増加しているが,我が国でもトコジラミの被害が増加している.都内の年度別相談件数は1996年~1999年は93件であり,2006年~2009年では368件と約4倍に増加している.当保健所には,外国人が多く利用する観光地のホテル,旅館等からの相談もあり,各地の関係者からも被害を聞いていることから,増加は全国的な傾向と考えられる.一方,都市部では,海外からの持ち込み以外に,濃厚な被害者からの被害拡大が見られる.更に被害者は路上生活者対策と関係が深い低額宿泊所や,福祉関連の住居者に多く見られる.原因は,国が推進する路上生活者の定住化に伴う,宿泊提供先の居住の狭さや, 利用者の精神疾患率の高さ等から来る環境悪化が,トコジラミが持込まれた場合には,多量発生させ,濃厚な被害者を生みだす原因となっている.また,被害者の行動自体が他への拡大の原因となっている.トコジラミが多量に発生した室内では,家具・寝具・カーテン・衣類・テレビ等の電気製品まで,あらゆるところに生息が見られる.暖房設備の向上と生活用品の多種多様化が,トコジラミにも生活しやすい環境を作っている.更に我が国に見られる木材・紙・畳を多く使う住文化や,鴨居・なげし・天井・床下等の特有の構造が,生息場所として有効に働いている.また,ピレスロイド系殺虫剤による発生宅の処理では,駆除が困難な例も見られ極めて難防除な昆虫である.トコジラミは感染症を媒介しないと言われているが,濃厚な発生源の生活環境下では,物理的な血液接触等による肝炎・HIV・梅毒の感染もありうると考えられる.今後,不特定多数の人が利用する施設や,一般への知識普及,福祉・医療,交通機関等への情報提供が急務であり,我が国のトコジラミ対策の構築のため,防除業界のみならず行政や研究機関も交えた総括的な取り組みの推進が必要である.

著者関連情報
© 2011 日本衛生動物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top