日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
第63回日本衛生動物学会大会
セッションID: A15
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第63回日本衛生動物学会大会
アカイエカにおける栄養生殖分離:休眠成虫に吸血行動を引き起こす要因
*大橋 和典津田 良夫高木 正洋
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抄録
休眠を誘導したアカイエカ成虫に吸血源動物を与えると、吸血行動が引き起こされることがある。このように吸血しながら産卵しない現象は栄養生殖分離と呼ばれて知られてきたが、適応的なバックグラウンドをもった形質かどうかはよく分かっていなかった。アカイエカ成虫が越冬前に吸血するかどうかは、病原体ウイルスなどの越冬経路を知る上で重要である。そこで、アカイエカの休眠成虫に吸血行動を引き起こす要因を調査した。野外で秋に羽化した休眠成虫は、越冬前に脂肪体や脂質類を蓄積する必要から、たんぱく質の豊富な血液ではなく、炭水化物(糖類)を多く含んだ花蜜などを摂取しなければならない。そのため、花蜜などを十分に摂取できなかった場合に、吸血源から栄養を補うことは適応的かもしれない。そこでまず、脂肪体や脂質の蓄積量が異なるように、砂糖水の濃度を変えて飼育した休眠成虫にマウスを与えて吸血率を比較した。ところが、栄養状態の低い個体でも吸血率が高くなることはなく、アカイエカにおける栄養生殖分離は、栄養補給を目的とした適応的な形質ではないと考えられた。次に、吸水を制限し、湿度条件を変えて吸血率を比較したところ、乾燥条件下で吸血率が大きく上昇した。このことから、休眠成虫が吸血することの意義は水分を補給することにあると考えられた。このようにして吸血を行った個体の約半数が成熟卵を発育させたため、吸血が生理的刺激となって生殖休眠を終了させうることも示された。経産雌はほとんど越冬に成功しないと考えられるため、アカイエカ休眠雌による吸血行動は越冬戦略としてプログラムされた行動ではないと考えられる。
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