抄録
これまでの調査により,北海道における人のマダニ刺咬症例は主として5~7月に発生すること,また十勝地方ではシュルツェマダニとヤマトマダニが優勢種であり,紅斑熱群リケッチアRickettsia helveticaおよびR.tarasevichiaeを保有していることが明らかとなっている.今回,十勝地方における紅斑熱群リケッチア感染の時期によるリスク変化を検討するために,マダニと紅斑熱群リケッチア感染の季節消長を調査した.調査地点は大雪山国立公園の麓,標高510mの鹿追町の林道で,2010年4月下旬~同年8月中旬まで2週間毎に旗振り法でマダニを採取した.一人125mを歩いてマダニを採取し,合計マダニ数を延500mでの採取数に換算して季節消長を検討した.マダニは固定同定後,成メスからDNAを抽出し,リケッチア属特異的nested PCRにより紅斑熱群リケッチアを検索した.陽性検体はPCR産物の遺伝子解析により種を同定した.当該調査地においてはシュルツェマダニが最優先種であり,次いでヤマトマダニ,ダグラスチマダニが採取された.マダニは雪どけ後5月上旬から活動を開始し,6月下旬までは気温上昇とともに活動を増加したが,7月以降は急速に活動が減少した.曇天による気温低下,雨天,夏の猛暑はマダニの活動減少要因と思われた.シュルツェマダニ成メスの35%とヤマトマダニ成メス9 %からR.helveticaが検出された.シュルツェマダニ成メスのR.helvetica保有率は6月上旬がピークであったが,その原因は不明であった.5~6月の同地域は山菜採りの人で賑わうが,その時期はマダニ寄生およびR.helvetica感染のリスクが最も高い時期と重なるため,注意が必要と思われた.