抄録
微生物資源センターまたは微生物カルチャーコレクションにおいて、保有する多数の微生物株の種同定および株識別は品質管理上、重要であり、そのための技術開発が必要である。昨年の発表では GP 法を病原性酵母の種同定および株識別への応用を試み、種および株レベルの識別が可能であることを示唆した。この時点における GP 画像 2 者間の類似度の比較(PaSS: Pattern Similarity Score)については、画像中の複数バンドの各々の特徴点(Spiddos: Species identification dots)を標準規格化した座標に反映し、総座標点の一致度で比較を行っていた。しかし、塩基配列情報を豊富に含むバンド形状を特徴点に置換する際の情報量の減少による識別精度低下の懸念があった。 そこで、今回は、GP 画像の識別精度の向上を目指して、標準規格化に用いる内部標準 DNA 試料をシングルからダブルへの改良とともに、PaSS 計算ソフトの改良を試みた。その結果、内部標準 DNA 試料のダブル化により、規格化精度そのものの向上が確認された。一方計算ソフトの改良については、バンド形状から塩基配列情報をより反映させることを目的として、バンド形状そのものの類似度で比較する方法、すなわち GP 画像を画素化してベクトルとみなし、対応するベクトル間の角度から類似度を算出する方法を開発した。このソフトを用いて、Candida albicans 12 株および Candida tropicalis 9 株について解析を行った結果、[1] Spiddos 使用時の計算結果同様、C. albicans と C. tropicalis との間で明確なクラスタに分かれ、種レベルの識別には十分応え得ることを確認した。[2] 種内の比較においては株間のPaSS 値が 70% 以上となり、ゲノムの距離感を反映するような株識別が可能になった。[3] 計算操作が簡便になりユーザフレンドリーになった。【謝辞】本研究は、 JST の支援による埼玉県地域結集型共同研究事業(埼玉バイオプロジェクト)の一環として行われたものである。