クリプトコックスは鳩の糞などの環境中に棲息し、気道を介してHIV感染者などの細胞性免疫不全者に難治性の感染症を発症する。クリプトコックスに対する気道粘膜での感染防御には補体などの液性因子およびマクロファージなどの貪食細胞が重要な役割を果たしているが、さらに自然免疫細胞である樹状細胞は、クリプトコックスの菌体成分を認識し、サイトカイン産生を介してその後の獲得免疫をTh1型に誘導することが知られている。
樹状細胞は、微生物特有の分子構造pathogen associated molecular patterns (PAMPs)をpattern recognition receptors (PRRs)によって認識する。クリプトコックスの認識に関わるPRRとしてTLR2、TLR4の報告があるが、我々の検討で両者の感染防御への関与は否定的であった。近年、真菌の莢膜成分であるβ-D-グルカンの認識受容体としてdectin-1が報告されているが、やはり我々の検討ではその関与は否定的であった。そこでその他の菌体成分である核酸に着目し検討を行ったところ、クリプトコックス菌体から抽出したDNAが樹状細胞を活性化し、IL-12の産生およびCD40などの補助分子の発現を促進することがわかった。遺伝子欠損マウス由来の樹状細胞およびリポーターアッセイでの解析からこの機序としてDNAによるTLR9-MyD88-NF-κB系路の活性化が示唆された。さらにTLR9遺伝子欠損マウスにクリプトコックスを経気道的に感染させたところ、野生型に比較し有意に肺内の菌数の増加がみられた。以上より気道粘膜におけるクリプトコックスに対する感染防御には、TLR9によるDNAの認識が重要な役割を果たしていることが示唆された。