抄録
わが国でT. tonsurans感染症が流行して約8年が経過する。しかし、柔道競技現場における発症例は多く、拡大している可能性も高い。全日本柔道連盟では2007年より国内主要大会の要項に同感染症の治療義務を成文化したが、実際に組織単位で定期検査を実施している例はなく、現状は注意喚起にとどまっている。過去の全国大会出場者を対象にした調査で本感染症の頭部陽性者の背景因子として、強豪選手、寮生活、練習(合宿・遠征)が報告されているが、大会代表選手の所属団体下の柔道部員の罹患状況までについては充分に把握されているとは言いがたい。対象と方法:東京学生柔道連盟に登録し、常時全国大会へ出場している男女の1部校21チームの柔道部員を対象に質問紙と頭部ブラシ培養検査を試みた。東京学生柔道連盟1部校には全国トップレベルの柔道選手が集い、新年度には高校生が多く全国強豪校から入学してくる。大学では大部分の選手が共同の寮生活であり、練習量も豊富で同世代における代表的な柔道選手群である。検討:同選手群には過去の発症状況や治療方法、また啓発活動の有無などについての調査を実施した。頭部陽性者との関連や罹患状況を検討するとともに、組織を統括した定期的なブラシ検査の実施の可能性と課題点を報告する。