白癬の原因菌は生活環境の影響を受け、時代とともに変化してきた。2000年頃外国から侵入したT. tonsurans感染症は、レスリング・柔道などの選手間で流行し、今日では、中学生、小学生の部員、更にはその友達、家族へ感染が拡大しており、今後も治まることは無いと考えられる。本症は刻々と変化しており、迅速に対応することが望まれる。我々T. tonsurans感染症対策研究会は、2008年版ガイドラインを発刊した。診断における改正点は、これまでスポーツクラブの団体を調査の対象として来たが、感染が一般家庭へも拡大していることから、個人の希望者もブラシ検査を受けられるようにした。培地を配給し、団体、個人で自由に検査し、同定のみを研究会で行えるようにした。啓蒙については、このガイドラインに基づいたT. tonsurans感染症に関するDVDを作成し、一般診療所へ配布している。集団検診については、本年度も、学生柔道連盟選手のブラシ検査を施行中である。本症感染者、無症候性キャリアに対する治療のコンセンサスは得られていないが、既に報告したガイドラインによる治療で、ほぼ満足できる結果が得られると考えている(真菌誌 49: 27, 2008)。新しい治療指針は、1.ブラシ検査陽性者は原則として内服治療を受ける、2.ブラシ検査陰性の体部白癬でも、難治例、再発例は内服治療を受けることの2点を改正した。T. tonsuransは好人性の菌であり、体部白癬は小型で紅斑・鱗屑のみが多く、頭部白癬は、black dotのみ、あるいは無症候性キャリアなどで、本人の自覚が少なく、治療のコンプライアンスは極めて悪い。また、監督の理解も乏しく「このスポーツを継続するかぎり、T. tonsurans感染症は避けられない」と指導している監督も居るようである。本症撲滅を目指して、診断、啓蒙、治療の3点より検討の予定である。