体育経営学研究
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原著論文
スポーツ・イノベーションの普及速度を決定する諸変数の検討
山下 秋二出村 慎一
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1987 年 4 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

今日の社会において顕著な変化を呈している特定のスポーツ事象をイノベーションとしてとらえ,その伝播の様相に眼を向けることは,スポーツ経営の将来を考える上で重要である。イノベーションの問題は,しばしばスポーツ経営体の組織デザイン論と結びつけられるが,本研究のテーマであるスポーツ・イノベーションはスポーツ行動の革新の問題に限定され,運動者が,スポーツから得るところの価値や満足をこれまでとはちがったやり方で獲得しようとすること,と定義される。本研究の目的は,かかる意味におけるスポーツ・イノベーションが,社会に拡がっていく速さに影響を及ぼしていると思われる諸変数を調べ上げ,それら相互の関連性を明らかにするところにある。子どもをスイミング・スクールにかよわせるというイノベーションを採用するに至った親たら302名を,福井県下5つの小学校の協力を得て実施した調査によりピックアップし,分析対象者とした。普及速度の重要な決定因のひとつであるイノベーション決定期間が,基準変数として選ばれ,知覚されたスイミングスクールの属性,対象者のスポーツ経験や子育ての方針,コミュニケーション行動,普及促進活動の程度などを説明変数に使用しながら,重回帰分析が試みられた。分析の結果,決定期間の長さには,子どものからだを鍛えること,運動能力を伸ばすこと,運動への親近感をもたせることといった点での相対的有利性,スクールにかよわせるための費用負担や送迎の煩わしさ,対象者の過去のスポーツ能力に対する自信,さらには広域志向性が強い影響を与えていることが明らかとなった。とくに,子どもに対する体育的な効果という面で,このイノベーションの有利性が高く評価されるほど,かえって採用に移るまでの期間が長く予測される点などは,注目に値する。ただし,厳密な因果関係の推論には時間的先行性が問題となるわけであり,ここでの結果は,実際には決定期間の予測というよりむしろ,イノベーション決定に戸惑いがちな人(言い換えれば革新性の低い人)の行動を事後解釈したものとみなされるべきであろう。本研究は,昭和61年度文部省科学研究費補助金(一般研究C ; 課題番号61580101 )の援助を得て行われた。

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© 1987 日本体育・スポーツ経営学会
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