2023 年 28 巻 1 号 p. 27-33
われわれは,後頚部痛とめまいで発症し,経時的な解離の進行によって後下小脳動脈posterior inferior cerebellar artery (PICA) 領域の虚血を併発した症例を経験した.緊急で椎骨動脈vertebral artery (VA) からPICAへのstent留置がPICAの血流を温存するために有用であったため,報告する.
症例は54歳男性.後頚部痛とめまいで発症し,頭部magnetic resonance angiography (MRA) およびbasi‒parallel anatomical scanning (BPAS) でPICA分岐部を含む右椎骨動脈解離と診断され入院となった.頭痛以外の症状はなく保存的加療としたところ,入院後の頭部magnetic resonance imaging (MRI) で,右小脳半球に急性期脳梗塞が確認された.digital subtraction angiography (DSA) を施行したところ,右PICAが閉塞していた.そのため,引き続いてPICAへのステント留置術を行い再開通が得られた.術後は明らかな神経症状の後遺なく自宅退院となり,再発なく経過している.
本症例のように,頭痛発症例においても,急性期には解離病変が急変することことがあり,細やかな画像経過観察が重要であると考えられた.また,狭窄部へのステント留置術は,椎骨動脈解離におけるPICAの血流を温存するために有用な治療のひとつであろう.