2023 年 28 巻 1 号 p. 59-63
頭蓋頚椎移行部硬膜動静脈瘻(CCJ‒dAVF)は稀な疾患である.今回延髄浮腫による吃逆,単下肢麻痺,ホルネル症候群で発症したCCJ‒dAVFを経験したので報告する.症例は72歳男性.数日前から嘔気後に吃逆が出現,その後左下肢脱力が生じ当院を受診した.MRIのFLAIR像では右延髄腹側に浮腫像,T2強調画像では椎骨動脈(VA)間の脳幹前面に多数のflow voidを認めた.脳血管撮影(DSA)により,右VA硬膜貫通部からの硬膜枝を流入動脈とし,脳幹前面を上行する静脈を流出静脈とする,頭蓋頚椎移行部硬膜動静脈瘻と診断した.入院第13病日に開頭シャントポイント離断術を施行した.術後に症状は改善し,術後第12日のDSA上もflowの消失を認めた.術後第30日で転院となった.脊髄・脳幹の静脈うっ滞による脊髄症・脳幹障害が生じている例では重篤な障害に移行する可能性が高く早期の介入が望ましい.直達手術は血管内塞栓術に比べ根治率は有意に高く,第一選択としては直達手術が望ましい.吃逆・ホルネル症候群を伴ったCCJ‒dAVFの報告例は渉猟しえた限りでは認めておらず極めて稀な一例と考えられる.