抄録
副交感神経に作用するピロカルピンは, 唾液分泌刺激薬として最もよく研究されているものの一つである.唾液腺機能低下の患者には唾液分泌刺激薬の投与が長期となるが, 唾液腺機能低下モデルにおけるピロカルピン長期投与の唾液分泌効果は必ずしも明らかではない.本研究では, ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスにおけるピロカルピン長期投与の効果を検討した.
糖尿病誘発から4週後に唾液分泌実験を行った.実験はピロカルピン投与後30分間, マウスの口腔より唾液を採取し, 唾液分泌量, 唾液タンパク濃度, アミラーゼ活性を測定した.長期投与の効果は, 唾液分泌実験の7日前よりピロカルピン投与を開始し, この7日間投与群を単回投与群と比較した.
ピロカルピン単回投与によって誘発した唾液分泌量は, スレプトゾトシン誘発糖尿病マウスではコントロールマウスに比較して有意に低下していた.ピロカルピン長期投与群を単回投与群と比較すると, 糖尿病マウス, コントロールマウスとも唾液採取開始から最初の10分間は分泌量が有意に多かった.
ピロカルピン単回投与による30分間の総タンパク分泌量は, 糖尿病マウスがコントロールマウスに比較して低値であったが, アミラーゼ活性は低下していなかった.一方, ピロカルピン長期投与後のタンパク分泌量は, 糖尿病, コントロールマウスとも単回投与のレベルより増加する傾向であった.ピロカルピン長期投与後のアミラーゼ活性はコントロールマウスでは増加したが, 糖尿病マウスでは変化がなかった.
以上のような, ピロカルピン長期投与が唾液分泌を促進させる傾向があるという結果から, 唾液腺機能低下の患者に対するピロカルピン投与の有用性が示唆された.