抄録
1960年代にSeemanらは, 低濃度の局所麻酔薬は赤血球細胞膜を強化して抗溶血作用を示すが, 高濃度になると溶血を起こすことを報告した.また, 麻酔効力と溶血作用の間には相互作用があるという報告がある.そこで, ヒト赤血球細胞膜に対する局所麻酔薬の抗溶血作用と麻酔効力の関係を明らかにする目的で, 本研究を行った.ヒト赤血球液75μLに, 0mMから10mMまでの各濃度の局所麻酔薬を含む生食TRISを加え, 次いで同じ濃度の局所麻酔薬を含むTRISを3加えて12000Gで5分間遠心分離した.得られた上清の波長540nmに対する吸光度をスペクトロフォトメーターを用いて測定した. (局所麻酔薬が0mMの場合の吸光度-0.1mMから10mMの各濃度の局所麻酔薬を加えた場合の吸光度) / (局所麻酔薬が0mMの場合の吸光度) を局所麻酔薬のその濃度における抗溶血作用とした.その結果プロカインは抗溶血作用を示さなかった.リドカインの抗溶血作用は4mMをピークとし, 0.4mMおよび0.8mMから10mMのあいだで有意に増加していた.プリロカインの抗溶血作用は6mMから8mMをピークとし, 2mMから10mMのあいだで有意に増加していた.メピバカインの抗溶血作用は2mMから4mMで有意に増加していた.アーティカインの抗溶血作用は4mMから6mMにかけてピークを示し, 0.6mMから10mMのあいだで有意に増加していた.抗溶血作用の強さはリドカインが最大, アーティカインはリドカインとほぼ同程度であった.プリロカインとメビバカイリドカインの半分程度の抗溶血作用を示した.
以上より, 局所麻酔薬が直接神経線維に作用するとすれば麻酔効力は, リドカイン≧アーティカイン>メビバカイン=プリロカインの順序と考えられる.