体力科学
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ヒトの身体空間知覚能力
―指関節における空間二等分割, 最小分割ならびに二点識別―
内田 ひろみ倉田 博小川 芳徳米本 恭三
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1986 年 35 巻 1 号 p. 22-30

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抄録

指関節における身体空間知覚能力を二等分割法, 最小分割法, 二点識別閾法を用いて測定した.示指については上肢の肢位を種々に変えて, 位置による差異がみられるかどうかを検討した.
被検者: 健康成人男子6名, 女子2名, 計8名.
A.二等分割法による検討
閉眼で椅座し, 示指, 中指, 薬指, 小指の中手指節関節で伸展・屈曲運動を行い, 示指, 小指については外転・内転運動も行った.
示指について, 上肢の肢位を変えて伸展・屈曲運動を行った.また, 屈曲→伸展→二等分の運動の順序を変えた際の変動をみた.
(1) いずれの方向の運動においても, 示指の偏倚が小さい.
(2) 伸展・屈曲運動において, 薬指の標準偏差が大きい.
(3) 外転・内転運動において, 小指の標準偏差が大きい.
(4) 偏倚および標準偏差は, 顔の近くで楽な肢位の時小さく, 顔から離れて無理な肢位の時は大きい.
B.最小分割法による検討
二等分割法での偏倚および標準偏差がどのような因子によるのかを調べるために, 肢位別で示指を伸展から屈曲し, 続けて伸展へと出来るだけ小刻みに分割させた.
二等分割法で偏倚および標準偏差の小さかった顔の近くで楽な肢位の時は, 細かく分割されており, 伸展から屈曲と屈曲から伸展のパターンが似ている.逆に, 偏倚および標準偏差の大きかった顔から離れていたり, 無理な肢位では, 分割は大まかで, 伸展から屈曲とその逆のパターンは異なっている.
二等分割法における偏倚は関節角度の感覚の歪に関係し, 標準偏差は感度や伸展から屈曲とその逆のパターンの相異に関係しているものと思われる.
C.二点識別閾法による検討
右手掌の母指球側において長軸方向のみで測定し, 上肢の肢位による変化をみた.
閾値は, 無理な肢位では顔からの遠近に関わらず大きく, 楽な肢位では顔から近くの方が離れた肢位より小さい.
以上3通りの方法に共通して, 「顔の近くで楽な肢位の時, 知覚能力が高くなり, 顔から離れていたり無理な肢位では, 知覚能力が低くなる.」という傾向が得られた.このことから, ヒトの身体空間知覚能力は, 視空間が関連しており, 肢位によってかなり影響されるものと思われる.

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