体力科学
Online ISSN : 1881-4751
Print ISSN : 0039-906X
ISSN-L : 0039-906X
呼吸数によるAT推定法の限界に関する研究
―呼吸と運動リズムとの同期が起こりにくい条件下において―
島名 孝次近藤 徳彦古賀 俊策岩田 敦塩尻 智之
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 43 巻 1 号 p. 84-91

詳細
抄録

呼吸と運動リズムとの同期が起こりにくい条件下とそうでない条件下において, 呼吸数 (f) によるAT推定法の限界を検討するため, 10名の健康な男女被験者に次の2種類の条件下 (1.条件M: 同期が起こりやすい条件=メトロノームを用いてペダル回転数を維持する, 2.条件S: 同期が起こりにくい条件=回転数表示をみながらペダル回転数を維持する) で自転車エルゴメーターによる漸増負荷運動 (男性: 30watt/2min., 女性: 20watt/2min., 50rpm) を行わせた.fによるATの判定には統計的手法により客観的に求める方法 (AT-CF) を用い, 従来の換気パラメータによるAT (AT-V) との比較を両条件において行った.その結果は以下に示す通りである.
(1) AT-Vの平均値±標準偏差は, 条件Mでは26.0±6.2ml/kg/min, 条件Sでは26.4±6.0ml/kg/minであった.
(2) AT-CFの平均値±標準偏差は, 条件Mでは31.6±10.2ml/kg/min, 条件Sでは24.7±10.0ml/kg/minであった.
(3) AT-VとAT-CFとの間には両条件共に有意な差は認められなかった.
(4) AT-VとAT-CFとの間の相関関係は, 条件Mではr=0.563 (N.S.) , 条件Sではr=0.850 (p<0.05) となり, 後者においてのみ有意であった.
(5) AT-VとAT-CFとの誤差は個人差が大きく, 条件Mでは-79.3%~+18.4%, 条件Sでは-19.2%~+50.9%と広範囲にわたっていた. (6) AT-VとAT-CFとの誤差が±5%以内であった被験者は条件Mでは1名, 条件Sでは4名であった.
以上のことから, 同期の起こりにくい条件下においてはそうでない条件下に比べて, fによるATの判定精度は多少向上したが, 実用レベルには達しないことが示唆された.

著者関連情報
© 日本体力医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top