体力科学
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ランニングトレーニング時の交感神経系が心筋ミオシンアイソザイム構成比に及ぼす影響
町田 修一成澤 三雄
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1996 年 45 巻 1 号 p. 71-81

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抄録
本研究は, ランニングトレーニングがラット心筋ミオシンアイソザイム構成比に対して, 見かけ上, 影響が認められないのは交感神経系と他の要因の相互作用によってアイソザイム構成比が調節されているためであるという仮説を検証するため, 選択性β1受容体遮断剤を用いて交感神経系が心筋ミオシンアイソザイム構成比に及ぼす影響について検討した.実験には生後4週齢のWistar系雄性ラットを用いて, control (C) 群とatenolol (A) 群とに分けた.生後7週齢時においてC及びAの両群をそれぞれsedentary群とtrained群に分け, control sedentary (CS) , control trained (CT) , atenolol sedentary (AS) , そしてatenolol trained (AT) 群の4群とした.AS及びAT群にはatenololを経口投与 (65mg/kg body weight/day) により9週澗服用させた.さらに, CT及びAT群にはトレッドミルランニング (最終速度30m/min, 60min/day, 5 days/week) を6週間行わせた.そして以下に示す結果を得た.
1.両トレーニング群とも骨格筋酸化系酵素であるクエン酸合成酵素の活性値はCS群と比較して有意に高値を示した.
2. CT群とCS群との間で, 左右の心室筋ともミオシンアイソザイム構成比及びβ-MHCの割合に有意な差はなく, ランニングトレーニングの影響は認められなかった.
3. AS群において, 左右の心室筋ともにCS群と比較してV3ミオシンアイソザイム構成比が増加し, β-MHCの割合が有意に高値を示した.
4.AT群では, AS群よりさらにV3ミオシンアイソザイム構成比が増加し, β-MHCの割合が高値を示した.特に, 左心室筋においてはAS群と比較して有意な差が認められた.
以上の結果より, 心筋ミオシンアイソザイム構成比の調節に交感神経系が影響をおよぼすことが示された.しかし, ランニングトレーニングを行った心筋ではその構成比には交感神経系の影響は認められなかった.圧及び容量負荷は心筋ミオシンアイソザイムに対して交感神経系とは相反する影響をおよぼすことが知られている.したがって, ランニングトレーニングによって心筋ミオシンアイソザイム構成比に変化が認められなかったのは, 交感神経系の影響が作用しなかったのではなく, 運動時の血行動態変化の影響によってその作用が打ち消されたために, 見かけ上, トレーニング心では変化が認められなかったと推察した.
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© 日本体力医学会
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