Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Retrospective Study of Surgical Gastrojejunostomy versus Gastroduodenal Stenting for Malignant Gastroduodenal Obstruction
Toshihiko MatsumotoKaori HinoHiroyuki TerasawaAkio NakasyaKazuhiro UesugiNorifumi NishideTakeshi KajiwaraAkinori AsagiTomohiro NishinaJunichirou NasuShinichiro HoriSeijin NadanoHiroshi Ishii
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2016 Volume 11 Issue 2 Pages 166-173

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Abstract

【目的】悪性胃十二指腸狭窄に対する胃十二指腸ステント留置術と胃空腸吻合術の成績を比較する.【方法】悪性胃十二指腸狭窄に対し当院でステント留置術を行った25例(S群)と胃空腸吻合術を行った15例(O群)について後方視的に検討した.【結果】臨床的成功率はS群対O群:84%対93%,水分摂取までの期間は0日対2日,経口摂取までの期間は1日対3日,処置後在院日数は9日対23日と全てS群で有意に短かった.入院中の医療費はS群752290円,O群1106170円と有意にS群で軽減が認められた.全生存期間中の医療費では有意な差は認められなかった.【結論】ステント留置術は,胃空腸バイパス術と比較し短期成績に優れている可能性が示唆された.

緒言

悪性腫瘍による胃十二指腸狭窄は比較的多く経験される病態である.狭窄部位は胃幽門から十二指腸にかけての狭窄が多く,原因となる悪性腫瘍は胃癌や膵癌および胆道癌が多い.一旦胃十二指腸狭窄が出現すると,腹部膨満や嘔吐が出現し,食事摂取も不能となり,患者のQOLは著しく低下する.また,経口摂取困難な状況では全身化学療法も困難となり,緩和治療のみならず,積極的な治療も困難となる.このような症例に対して根治が期待できる場合は外科的切除術が選択されるが,狭窄の出現時に遠隔転移を認め根治不能であったり,原疾患の進行による全身状態の悪化で外科的切除術が困難な状況も多い.

このような症例に対する治療法として胃空腸吻合術と内視鏡的ステント留置術がある.内視鏡的ステント留置術は米国で1998年にアメリカ食品医薬品局でThrough the scopeのステントが承認され,以後欧州などでも同様に承認され普及が進んだ.本邦では2010年4月に保険収載され,近年急速に普及している.悪性腫瘍による胃十二指腸狭窄に対する胃空腸吻合術と内視鏡的ステント留置術の後方視的な検討は複数行われており,本邦でもMaetaniらが胃癌と膵癌・胆道癌におけるステント留置術と胃空腸吻合術の比較を行い,胃空腸吻合術群と比較しステント群において食事の摂取までの期間や入院期間が短くなることが報告されている1,2).またHosonoらは胃空腸吻合術とステント留置術のメタアナリシスを行い,ステント群において臨床的成功率・在院日数・死亡率・食事開始までの期間において有意に優れていたことを報告している3).海外では,Singhらが後ろ向きコホート研究で,ステント留置術は食事開始までの期間・在院日数・合併症において優れているが,再狭窄による処置は有意に多かったことを報告している4).またJasenらとNagarajaらによる2つのメタアナリシスがあり,両者において入院期間と食事が摂取可能となるまでの期間は有意に短かったことが報告されている5,6).前向きの比較試験は海外ではFioriら,MehtaらおよびJeurninkらによる3つのランダム化比較試験の報告がある79).しかし,まだ本邦では両者の十分な比較検討が少ないのが現状である.そのため今回われわれは,胃空腸吻合術と内視鏡的ステント留置術における成績について後方視的に検討を行った.

方法

2010年4月から2015年4月までに,化学療法中もしくは緩和治療中に生じた切除不能の悪性腫瘍による胃十二指腸狭窄に対し当院において内視鏡的ステント留置術を行った25症例(ステント群)と胃空腸吻合術を行った症例15例(手術群)について後方視的に検討を行った.ステント留置術と胃空腸吻合術の適応については,消化器内科・消化器外科・放射線診断科による院内カンファレンスで適応を検討決定した.胃空腸吻合術が可能な症例は胃空腸吻合術を施行し,腸管の多発狭窄を有する症例・腹水多量の症例および胃に広範な病変がありバイパス術が不能な症例はステント留置術を施行した.胃空腸吻合術が施行できる症例でも患者が手術を拒否した場合はステント留置術を施行した.内視鏡的ステント留置術にはBoston Scientific社のWallflex duodenal stentとTaewoong Medical社のNiti-S duodenal stentを用いた.効果の判定は手技成功率,臨床的成功率,水分摂取までの期間,食事摂取までの期間,在院日数,有害事象について評価を行った.臨床的成功はGOOSS(gastric outlet obstruction scoring system)10)を用いて評価し,1週間以内にGOOSSが1点以上改善したものを臨床的成功とした.また1カ月後,2カ月後,3カ月後の臨床的成功についても比較検討を行った.生存期間はKaplan-Meier法にて算出した.両群間の差の検定にはFischerの正確検定を用いた.統計解析はJMP12(SAS institute USA)を用いて解析を行った.

結果

患者背景を表1に示す.年齢中央値はステント群で65歳(44-78歳),手術群で61歳(35-86歳)であった.性別はステント群で男性が13例(57%),手術群で男性6例(43%)であった.ステント群でECOG performance status(PS)は1/2/3が各11/11/3例,手術群でPS 1/2が各11/4例であった.処置前のGOOSSはステント群で0/1/2が各12/8/5例,手術群で0/1/2が各8/5/2例であった.基礎疾患はステント群で胃癌/膵癌/胆管癌/胆のう癌が各15/7/2/1例,手術群で胃癌/膵癌/胆管癌/十二指腸癌/大腸癌が各3/7/3/1/1例とステント群で胃癌が多く,手術群で膵癌が有意に多かった.処置前に化学療法はステント群で22例(88%),手術群で14例(93%)に施行されていた.狭窄部位はステント群で胃/十二指腸が各18/14例,手術群で各3/13例で,ステント群では胃狭窄,手術群では十二指腸狭窄が有意に多かった.腹膜播種ありはステント群で15例(60%),手術群で6例(40%),腹水ありはステント群で15例(60%),手術群で7例(47%)であった.

表1 患者背景

治療成績を表2に示す.ステント群ではWallflex duodenal stentが6例,Niti-S duodenal stentが19例で使用されていた.手術群は全例開腹術で,胃空腸の側側吻合のみが15例,側側吻合+braun吻合が4例あった.臨床的成功率はステント群で84%(21/25),手術群で93%(14/15)であり,1カ月後,2カ月後および3カ月後の臨床的成功率を比較したが全て両群に有意差は認めなかった.GOOSS改善値は両群とも中央値が2であった.水分開始および食事開始までの日数の中央値で0日と1日(p<0.0001),2日と3日(p<0.0001)であり有意にステント群で短かった.処置後の在院日数中央値はステント群で9日,手術群で23日とステント群で有意に短かった(p=0.0116).処置後の退院はステント群で21例(84%),手術群で14例(93%)が可能であった.処置後はステント群で9例(36%),手術群で6例(40%)に化学療法が施行されていた.生存期間中央値と食事可能期間中央値はステント群で79 日と88日,手術群で131日と120日であった.有意差はないものの生存期間はステント群でやや短かった.両群とも処置後のほぼ全生存期間中の食事摂取は可能であった.治療後の食事形態についても検討した.ステント群では処置後症状が改善した21例中,11例が常食,7例が全かゆ食,および3例が5分かゆ食の摂取が可能となった.手術群では14例中11例が常食,3例が全かゆ食の摂取が可能となった.治療関連合併症はステント群で3例,手術群で1例認めた.ステント群の関連合併症は閉塞が2例,逸脱が1例であった.逸脱の1例は全身状態悪化していたため経過観察で対応し,閉塞の2例は再留置が可能であった.閉塞の2例は留置後108日と188日経過後で,逸脱は237日経過後の症例であった.3例の生存期間は174日,267日,および268日であり,3例とも5カ月以上の長期生存例であった.手術群の合併症は吻合部縫合不全による腹膜炎を1例に認めた.治療関連死は手術群の腹膜炎症例1例のみで,術後21日目の死亡であった.

表2 治療成績

また,胃狭窄症例と十二指腸狭窄症例に分けて効果を比較検討した.胃狭窄症例においては,臨床的成功率は両群に有意差を認めず,水分開始までの日数(0日 vs 2日,p=0.0012)と食事開始までの日数(1日 vs 3日,p=0.0061)は有意にステント群で短かった.十二指腸狭窄症例においても臨床的成功率は両群に有意差を認めず,水分開始までの日数(0日 vs 1日,p<0.0001)と食事開始までの日数(1日 vs 3日,p<0.0001)は有意にステント群で短かった.また,十二指腸狭窄症例においては,在院期間も有意にステント群で短かった(8.5日 vs 23日,p=0.004).

探索的に両群の医療費についても比較を試みた.医療費は症例の入院期間中と処置後全生存期間の病室料金を除いた医療費をwilcoxonの順位和検定により比較検討した.入院期間中の医療費は中央値でステント群752290円,手術群1106170円で,有意にS群で医療費の軽減が認められた(p=0.0052).また,当院で死亡までの経過を追えた20症例(ステント群12例,手術群8例)について処置後全生存期間中の医療費を比較すると,中央値でステント群2007120円,手術群2187466円で有意差はなかった(p=0.8774).

考察

悪性腫瘍による胃十二指腸狭窄に対する内視鏡的ステント留置術は,胃空腸吻合術と比較して侵襲が少ないことから近年普及が進んでいる.胃十二指腸狭窄に対する前向き試験の主な成績を表3に示す1118).海外のみならず,本邦でも3つの前向き試験の結果が報告されている.手技的成功率はおおよそ100%,臨床的成功率も83-100%,ほぼ生存期間中の食事摂取が可能であることが示されており,成績は良好であることが報告されている.合併症はステント関連の閉塞や逸脱などが認められるが,合併症関連の死亡の報告は少ない.当院での検討においても手技的成功率100%,臨床的成功率87%と既報の報告と同等の成績であり,関連合併症はステント閉塞2例とステント逸脱1例のみで関連死は認めず,安全性も同等であった.

表3 本邦と海外のステント留置術の主な試験の成績

海外ではステント留置術と胃空腸吻合術の前向きの比較試験も,症例数が少ないながら行われている.表4に示した3つの試験は前向きの両者の比較試験である.Fioriら,MehtaらおよびJeurninkらの報告は前向きのランダム化比較試験79),Espinelらの報告は非ランダム化の前向き比較試験である19).4つの試験に共通している結果は,ステント留置術の方が症状改善までの期間が早く,在院日数も短く,かつ合併症も少なく短期成績に優れているということである.Jeurninkらはこの結果を踏まえ,2カ月以内の生命予後が予想される場合には,ステント留置術が推奨されるとしている.しかし,比較的長期の観察をしているEspinelらとJeurninkらの試験では,早期の死亡例は胃空腸吻合術で多いが,全体での生存期間は差がないこと,後期の関連合併症やreinterventionはステント留置術で多いことが報告されている.本邦では前向き試験の報告はないが,Maetaniらが胃癌による悪性消化管狭窄に対する後方視的な検討を行っており,ステント留置術で手術時間,食事開始までの期間は有意にステント留置術で短く,在院期間も短い傾向があったことを報告している.しかし,この報告ではPSの改善は両者で認められており,全生存期間にも差はなく,かつ重篤な合併症は両群で認めなかったことが報告されている2)

表4 本邦と海外におけるステント留置術と胃空腸バイパス術の比較試験成績

本邦における両者を比較した報告はまだ少なく,今回の検討を行った.ステント群では25例中18例(72%),手術群では15例中14例(93%)が全かゆ食以上の摂取が可能となり,退院も可能であった.以上より悪性胃十二指腸狭窄症例において胃空腸吻合術およびステント留置術は症状緩和とQOLの向上に対し有用である可能性が示唆された.両者の比較については,われわれの検討においても,手技的成功率と臨床的成功率は両者でほぼ同等で,水分摂取と食事摂取が可能になるまでの期間は有意にステント留置術で短かった.また,在院日数も有意に短く,短期成績はステント留置術が優れていると考えられた.手技関連合併症はステント群でやや多く認めており,留置後3カ月以上の経過後に起きていた.これも従来の報告と同様の傾向が見られ,内視鏡による再留置などで対応が可能なことが多いものの,長期生存が期待される症例に関してはステント関連合併症に注意が必要と考えられた.しかし,3カ月後までの臨床的成功率を比較したところ,生存例ではステント留置術・手術とも差を認めなかった.また,早期死亡につながる手技関連合併症は手術群でのみ認められており,注意が必要であると考えられた.

今回の検討において,胃狭窄症例では21例中18例でステント留置術が施行されていた.この原因として,胃狭窄症例では胃の病変が広範な場合には胃空腸バイパス術が施行しにくかったことが考えられる.胃狭窄に関しては,病変の部位や広がりによって両者の使い分けが必要であると考えられた.また,十二指腸狭窄に関しては両群ともほぼ同数で,水分および食事までの日数と在院日数はステント留置術で有意に短かった.以上より,悪性腫瘍による胃狭窄は胃空腸バイパス術が部位的に困難な場合があり,その場合にはステント留置術が選択される.また両者が行える場合は,全体の効果には大きな差は認めないが,水分と食事開始の日数はステント留置術で短くなることなど短期の成績はステント留置術で良好な可能性が示唆された.

医療費に関する比較も海外を中心にいくつか報告がある.表5にその結果を示す.Jeurninkらの前向き試験では,処置時の入院期間中の医療費比較で手術群9403ドルに対し,ステント群で4309ドルと有意に低く(p<0.001),挿入後死亡までの全医療費も中央値で手術群16535ドル に対しステント群 11720ドルと有意にステント群で医療費が低かったことが報告されている(p=0.049)9).また,RoyらはMedicare datebaseを用いて後方視的に処置後の入院医療費の比較を行い,手術群27391ドルに対しステント群15366ドルと有意にステント群で医療費が低かったことを報告している(p<0.0001)20).本邦では医療費の比較を行った検討は今までなかった.われわれの今回の検討における比較では,入院中のコストを比較すると有意にステント群で医療費の軽減が認められた.この結果は海外の2試験と同様の傾向を認めており,短期間の医療費の面ではステント群が優れている可能性が示唆された.しかし,当院で死亡までの経過を追えた20症例についての検討では,処置後全生存期間中の医療費には有意な差を認めなかった.今回の検討では全症例の医療費の経過が追えておらず,長期間の医療費の比較については今後も検討を要すると考えられた.

表5 ステント留置術と胃空腸バイパス術のコストの比較

結論

今回の検討は単施設の症例数の少ない後方視的な検討ではあるが,悪性腫瘍による胃十二指腸狭窄に対する胃十二指腸ステント留置術は胃空腸吻合術と比較し,重篤な合併症が少なく,短期成績に優れており,入院期間の短縮と入院時医療費の軽減につながる可能性が示唆された.留置が長期になる場合はステント狭窄や逸脱などのステント関連合併症を起こす可能が高くなるため,長期生存が見込まれる症例では胃空腸吻合術との使い分けを行うことが重要と考えられる.今回の対象症例に大規模なランダム化比較試験を行うことは難しく,今後も確固たるエビデンスは確立しないと思われる.今回の検討から,部位によりステント留置術と胃空腸吻合術のいずれかしか行えない場合を除く,両者が適応となる場合には,3カ月までの臨床的成功率は両群で差がないこと,ステント留置群の生存期間の中央値は79日で,ステント関連合併症の発生症例は全例5カ月以上経過した症例であることから考えると,予後が3カ月以内と予想される対象に対してはステント留置術が効果,安全性,およびコストの面からも有用であると考えられた.

References
 
© 2016 by Japanese Society for Palliative Medicine
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